工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

新工房および住居の造作、設備(その2)

キッチンキャビネット

キッチンキャビネットとは言っても、現在完成しているのは、前回触れたシステムキッチン背部、リビング側カウンター下のキャビネットと吊り棚のみ。

この後、キッチンコーナー、背部壁面に沿わせ、食材収納キャビネット、サブ調理台、などを作らねばなりません。
まだ途遠し、です。

吊り棚

前回も触れたように、この吊り棚はダイニングリビング側に調理に伴う異臭、排煙などを回さないための効果をねらった処置でもあるわけです。

富士工業のレンジフードは機能性もさることながら、その排気性能はとても良いものがありますので、吊り棚の効果の程は如何ほどのものかは分かりませんが、物理的に遮断するわけですので、無いよりはましでしょう。

こうした対面式キッチンのカタログなどを視れば、ほとんどフルオープンのスタイルが多いようです。
間取りとして広くは取れないダイニングを、より開放的に、すっきりと美しく見せるためでしょう。

しかし、設計士の推奨のまま、あるいは格好良いショールームのスタイルをそのまま真似した施主の少なく無い人たちは後悔しているかもしれません。

ダイニング側に油煙が周り、天井、照明、家具などに油がこびり付くということもあるでしょうし、またあるいは調理場は常に美しく装わねばならず、これが日々の重い課題になってしまっている、などと嘆きの対象になってしまうかも知れません。

キッチンキャビネット・吊り棚

キッチンキャビネット・吊り棚


さて吊り棚です。

【仕様】

  • 寸法:1,700w 360d 1,000h
  • 構成:2分割での開き戸と、下部に薄いオープンスペース
  • 材種:ミズナラ (一部、メラミン樹脂板貼り)
  • 仕上げ:ウレタンオイル

この2分割の片方は、昇降式機能を持った既製品の収納キャビネットを収めてみました。
扉を開け、手が掛かる高さにあるレバーを引くことで、戸棚に収まっている収納棚を軽快に引きずり下ろすことのできる優れものです。

キッチンメーカーなどにもよく利用される吊り棚方式ですが、DIY用にこうしたものも市場に流れています。

これもまたキッチンメーカーにOEMで供給されているものを、入手するということですね。

最近では、こうした昇降機構を電動式にしたものもありますが、高価ですし、そう頻繁に使うものでも無いので手動式にしました。

もう片方はオープンの棚で、普段使わない調理器具などを収納。

これらの下部に、頻繁に使う鍋などを置くスペースを設けています。
日々、頻繁に使うものですので、直ぐ手に取ることのできるオープン収納でないと困るわけです。

因みに、フライパンなどは、ガスレンジの壁面にオープンにぶら下げています。
これも、直ぐ使うためのレイアウトです。
言い換えればズボラな収納でもあるわけですが、調理とともに日々暮らすためには、こうした考え方が何かと良いものです。

美しく装うこも大切ですが、こうした調理機材の収納の場合、まず優先されるべきは機能性です。

ただ先述したように、これらはダイニング側からは見えないような配慮をすることで、ズボラは隠せます。


なお、吊り棚は無垢板での制作ですが、やはり、場所柄、耐水、耐熱の配慮は必須ですので、鍋、釜を置くところには無垢材そのままではいけません。

私は、こうした資材に関しては経験がほとんど無いのですが、とりあえず、キッチンパネルなどに使われる、耐熱、耐水性で信頼性のあるメラミン樹脂板を求め、これを貼り付けました。
わずかに2mmほどの樹脂板ですが、その効用は優れたものがあります。

また、メラミン樹脂板はいわゆる化粧板でもあり、様々なデザインが展開されていて、中にはかなりリアルな木目仕様のものもあり、その選択は楽しいものでした(私が求めたのは、業界雄のアイカ工業のもの)。

なお、無垢材でキッチンのキャビネットを制作する場合、熱対策として考慮したいのは、床や棚だけでは無く、全般的に言えることになります。
扉の鏡板なども無垢材を用いるのであれば、柾目での木取りが望ましいでしょうね。

またカウンターなどのワークトップ仕上げのテクスチャーですが、食器などが置かれることで、小さな傷や、熱での塗面劣化が避けられませんので、そうした配慮も求められます。

私は食卓一般ではあまりやりませんが、こうしたカウンターなどは、外丸カンナを横摺りし、凹凸面を作り、対応しています。

キッチン周りの電気配線

私はキッチン制作に関しては、業務用以外の一般住宅用としては、ほとんど経験が無いため、模索しながらの制作だったわけですが、電気配線に関しても、設計段階でしっかりと考慮されねばなりません。
設計士とともに、電気配線施行の業者とも密に連携する必要があります。

電気配線として必要なものは、キッチンの手元灯、電化製品のためのコンセント等ですが、一般には耐水性のあるビニール系のキャブタイアコード(VCT、VVFなど)を用い、露出するところには、ケーブルカバーなども使うべきでしょう。

無論、可能な限りに露出させない設計施工でいきたいものです。


キッチンの手元灯に関しては、LEDの記事を上げた際にも触れたように、棒状、小型のLEDランプを用いました。

LEDキッチンランプ

LEDキッチンランプ

これはスイッチも完全に密閉封印された駆体となっていて、これを軽くタッチするだけで点灯(2段階の照度)、消灯ができるものです。また幾つも連結させられますので、必要な長さに対応します(40cm、60cmの2種)。

LEDはほとんど熱を発しませんので、顔近くに配されるキッチンライト、手元灯としては最適です。
また調理の水で濡れた手でスイッチを触るわけですので、密閉であることは、何かと安心です。

昨今、LEDを使った照明器具は、いわゆる既存の大手メーカー以外のところから多くの参入があり、様々なタイプのランプを提供してきていますが、上述の密閉型タッチスイッチというのは、まだ少ないかも知れません。
なお、パナソニックなどでは、タッチレス、といって、手を近づけるとスイッチが働くというものがあるようです。

また、こうした調理場で用いるLEDは、その光源の色温度も考えたいですね。
演色性と言うようですが、食材の色が自然に発色するような光源を選びたいものです。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 以前、勤めていた貿易会社ではアイカ工業、イビデンは得意先でした。
    メラミン樹脂板の製造にドイツ製のプレスが使われていたからです。
    イビデンの工場には機械搬入の立会いで訪問したことがあります。

    大きなローラーに掛かったスチールベルトが上下にあって、その2本の
    スチールベルトの間をメラミン樹脂を含浸させた紙を数枚重ねて通し
    熱と圧力でプレスします。連続プレスです。
    片方のスチールローラーがエンボス加工されていて、木目模様他
    がメラミン樹脂板に転写される仕組みになっていました。

    • Oh! acanthogobiusさんによる、メラミン樹脂板の詳細な現場解説。
      メラミン樹脂は実に様々な用途に使われているようですね(インテリア以外にも食器や電子基板まで・・・)
      ホルムアルデヒドの毒性の溶融、流出も懸念されるようですが・・・、

      しかし、ここでもドイツ製ですか。ふぅ

  • 戦後復興で家具材が必要でパーチクルボード(チップボード)が開発され、岩倉組がプラントを導入。化粧板・ボード産業と緊結金具ジョイントやヒンジなどハードウエアーもドイツからスタート。ミュンヘンの特許庁では膨大な出願に驚いたことがあります。オーストリアは、Blumジョイントの考案から少しずつ参入。木工機械も同様にドイツ主導でした。基幹産業のプロセスは、次の新たなニーズ変化を早期にキャッチでき、気がついたときにはマーケットデビューしているので追いつけないのです。ドイツのDIN規格制度は、真似セカンド類似を引き離しつづけていますね。おざなりではなく、長時間のスパンで考える民族性と規律重視の硬さは瓦解しません。掘っ立て小屋は良い一面もあるのですが、重厚・無機質・工業製品には太刀打ちできない感じもしました。ドイツも一日では成らず。悩民は、今年の作柄を想像するのが基本ですが、森の狩猟民は持続サイクルが長く、集団的戦略が生活ベースですからオルガナイズが上手。日本の良さが発揮できるオペをこれからかんがえませう。
    林業・木材分野も基盤が違うので輸入したり、パクリ真似してはいけません。

    • パーチクルボードは岩倉組でしたか(焼津にも支店がありますが、・・・山王じゃないと言うところに着目してしまいます)

      金具などの開発もドイツ、オーストリアが先進的だったのは理解できるところです。
      バウハウスによる、デザイン、製造システムなど戦前からの蓄積が花開いたという側面も大きいのでしょう。

      DIN規格はドイツでしたか(不勉強ですみません)

      >おざなりではなく、長時間のスパンで考える民族性と規律重視の硬さ
      日本の国民性(エートス)も似たところがあると言われますし、
      また英国、仏国などに較べ、資本主義への移行は圧倒的に遅れたところも似ている。

      しかしやはり、近代という時代へのコミットの深さ、親和性を見較べたとき、
      太刀打ちできない部分があることは否めません。

      ご指摘のように、日本の良さ、それを自覚的に見据えることが重要なようです。
      (次に制作に掛かるデスク、blumを使おうと考えています)

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