工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

テーブル製作(その3)天板矧ぎ作業

天板剥ぎ1天板の矧ぎ作業。
今回のテーブル天板のサイズは1,600w 860d 。
これをブラックウォールナットの2枚矧ぎで構成。
4年ほど前に製材、乾燥、管理してきた良材から木取りされたものだ。

  1. 矧ぐ側の白太を取り去り、所定の幅に木取る。
  2. まず2枚の板をそれぞれ片側板面のムラを取るのだが、うちの手押し鉋盤(ジョインター)は305mmの性能しかないので400mmを越える板は1度では削れない。
    最初から電動ポータブル鉋で削るという方法もあるが、ここは手押し鉋盤のぎりぎりの性能を使い、まず300mm幅を削り、基準面を作る。
  3. この基準面に合わせ、電動ポータブル鉋、および手鉋(長台など)で幅いっぱいの基準面を出す。
  4. 自動1面鉋盤(プレナー)で厚み決めをする。
  5. 矧ぎ口を取る。
    矧ぎ口は“中透き”と言って、中央部を微妙に透かしてやるのがポイント。これにはいくつかの手法があるが、通常うちでは手押し鉋盤を矧ぎ口用に設定して、機械的に行う。長台鉋に自信のある人は手加工しよう(この手押し鉋盤で矧ぎ口を取る、というのは実はなかなか容易ではなく、あまり簡単にお奨めするには憚れる方法だ)
  6. 超仕上げ鉋盤で、両面1度づつ鉋を掛けておく(ひとかんな、などと言ったりする)。
  7. 矧ぎ口への雇い核(やといざね)の小穴を突く(昇降盤のカッターにて)。
  8. 雇い核を作る(数mm厚の無垢板でも合板でも構わない)ともかくも一定の厚みの精度を出すこと。
  9. 矧ぎ作業

雇い核だが、うちでは接着用のボンドはオオシカのPIボンドを用いるので、接着力ということでは雇い核は決して必須のものではないが、剥ぎ作業での矧ぎ部分の平滑性を確保させることの重要性からそのようにしている(目違いを出さない、などと呼称する)
なお、この雇い核を木口まで出したり、その木口部分にこれ見よがしに、蟻状の鼓を入れるような人もいるようだが、ボクはしない。邪道と考えるからネ。
天板剥ぎ2それぞれ、「これ見よがし」の意味はあっても、木口乾燥ということからすればあまり推奨できる手法ではないように思う。ファッション?
余談だが、蟻、という技法は一見して接合強度を高めるものに思えるが、確かに高精度の加工によって、その接合強度は高まるだろう。しかしあまり加工精度が良くないと、逆に接合精度を弱める方向に作用する、ということは知っておいた方が良いだろう。


なお、この矧ぎ作業で用いる端金(ハタガネ)だが、うちでは既製品のものではなく、自家製のものを使っている(国内では良い既製品では見あたらないから)。
2本のバーで裏表から圧締する構造なので、(1)強力であり、(2)表裏均等な圧締力が得られ、かつ、(3)反り対策も可能(画像に1個所使っているように、反りがあるところにクサビをはめ込むだけの簡単なもの。普通のハタガネではこうしたことは出来ない)、という優れものだ。
信州の業界ではごく一般的なものになっている。他地域ではあまり使用されていないようだ(既製のものがないからだろう)。
自作は簡単。設計図を書き、角ネジ(含む、ナット)を求め、後は溶接業に依頼すれば良いだろう(腕の良い職人でなければスクリューの動きがスムースではなくなるので、その点の条件を満たす技能は必要だ)(参考 過去記事
さて、最後に重要なアドバイスを1つ付記しておきたい。
矧ぎ作業での圧締後の次のステップ(削り作業)への移行へのインターバルについてだ。
PIボンドは1晩置けば接着強度は出るだろうが、しかしこれをそのまま切削作業(プレナー加工)に移ってはイケナイ。
実は若い頃、失敗したことがあった。1晩置いて、端金を外し、削り、加工していった。
完成して、ウレタン塗装して仕上がったのを見て初めて気づいた。
何故か、矧ぎ口のところが微妙に凹んでいるのだ。
ただ見ただけでは分かるようなものではないが、塗装面の光線の歪みでそれと判別できるぐらいのものだったが、明らかに凹んでいる。暫し首を傾げ、ムム ?? 。心当たりは、無い。
果たして、これは矧ぎ口がボンド、および、矧ぎ作業時のはみ出したボンドをふき取るための与えた水などで、かなりの水分が供給され、この湿潤な状態により矧ぎ部位が膨張してしまったことによるものだと気づくのにさほどの時間は掛からなかった。
膨張したままの状態で削り、平滑にしても、いずれ周囲の環境になじんできて(膨張が戻る)、本来の気乾比重に戻れば、当然にもその部分は痩せてくる。
したがってこの部分だけが落ち込む、ということになってしまうのだ。
さてこの気乾比重にまで戻るのに要する時間はどれ位なのか、明示することは残念ながら出来るものではない。材種、与えた水分量、周囲の湿度、など様々な要素が絡むので、一概に言えるものでなない。
自己責任でやりましょう(笑)。
恐らくこのことは意外と認識されていない人が多いのではないだろうか。
以前、準大手の家具製作メーカーの社長と話していて、この話題を共有したことがあった。
ここでもどれだけ置けばよいかはなかなか難しいが、実はかなりの時間が必要だろう、というのが結論だった。
今回は昨日の矧ぎ作業だったので、週明けまで削りは控えようと考えている。
さて次回はCLAROの天板の削りについて報告する予定だが、実は今日から始めたのだが、とんだ伏兵が待ちかまえていた。

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  • 手作りと言うか 大量製品 工業製品との差別化は、天然素材に対する、必然的な時間の盗り方にあるのでは、
    時間を待てると言うか 余裕 心構えが必要ではないかと、思います。

  • 木乃輔さん 含蓄のコメント感謝です。
    仰られている事が基本なのでしょうが、つい、時間 = コスト、という歪んだ見方しかできない現代人の浅ましさから抜け出るのは容易ではありません。

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