工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

そば処・川根路茶寮〈ひらら〉

李朝棚今日は以前から親しくしてくださっている近郊のそば処へ家具制作の打ち合わせで出掛ける。
川根路といえば静岡県内の人はもちろんのこと、紅葉狩り、花見、温泉などの観光スポットとしてちょっと名の知れた街道だろうからイメージは浮かんでくるかも知れない。
JR、あるいは国道1号線、島田から第一級河川“大井川”沿いの県道を上流へと10数Km奥まったところに位置している。
この店は代々庄屋を勤めた切妻造りの旧家(明治5年に建築)がそのままの姿で趣のある茶寮(そば処)となっている。
ボクはめったに来るところではないが、ここの女将とは以前世話になった陶芸家、ギャラリー関係者の紹介で旧知の関係にあった。
画像はかなり昔に買い上げてくれた李朝棚。
手前の蕎麦は店のメインになるメニュー。
今度の家具の依頼はご自宅用ということで、あらためてこの画像の李朝棚と同様のデザインで別途収納部分を増強したキャビネットの依頼だ。
この李朝棚をこの店に鎮座させていただいて10年ほど経過するものの、機能も含め完全な状態で保存されているのを拝見して、驚くと共に感謝の念が湧いてきたものだった。
材種はマホガニーであるが(いわゆるホンジョラス、真性マホガニー)、かなり大径木から製材されたものであったことも堅牢性に幸いしているのだろう。
またボクが本格的に李朝棚を作り始めた初期のものといいうことで、それだけに力が入ったものであったことが、長年経過してなお偉容を誇っていることに繋がっていたものと考えている。女将への感謝とともにいささかの自負も感じさせていただいた。
この店は旧家という雰囲気を大切にしているので、自然換気がキホン。つまりエアコンはほとんど使わず、冬はストーブ。夏は扇風機(とても雰囲気のある重厚なもの)という条件。つまり決して家具のおかれる環境としては良いものではない。そうした環境であっても完全な状態で保存されてきているということを考えていただければどれだけのものであるかは理解していただけるだろう。
さて自身の宣伝はこれくらいで、お店について少し触れておかねば女将に失礼。
私見を開陳する前にまずはパンフレットから…。

四季おりおりに、美しい自然が広がる川根の里。
ここで育まれた新鮮な食材から生まれる料理の数々。
ゆったりと流れる時間の中で、
旬の素材を生かしたおいしさを、お楽しみください。
透明な風と優しい光が
きっと、心まで満たしてくれるでしょう

暖簾街道(川根路)沿いに面しているものの、急傾斜のアプローチを上がると季節ごとにデザインされた大きな暖簾に迎えられ、これをくぐればもう旧庄屋の豪壮な建築が目に飛び込んでくる。
この時季、玄関も、居間も開け放たれ、21畳あるという居間の広さ、奥行きを一望させてくれる。玄関の三和土(たたき)もとても広く、現在はレジ、土産もの販売の機能をもたせているようだ。
こんにちは、と挨拶すれば黒で統一された動きやすそうな仕事着に身を包み、髪を後ろに束ねた端正な顔つきでドギマギしてしまうほどの美しさの女将が明るい声で迎えてくれる。
車でなければ縁側からそよぎ込んでくれる風に頬を当て、一献酒を傾けながら山菜の天ぷらなどから味わうのも良いだろうし、季節によっては川魚の塩焼きなどを楽しむのもサイコウだろう。
あるいはそのまま蕎麦で酒を味わうのも悪くはない。
その旧家の家人、あるいは親しい客人の如くにこの雰囲気にとけ込めば、もう日本の原風景の中に暫し漂うことができるだろう。
込んでいなければ(今日は打ち合わせをさせていただくのも憚られるほどの混み具合いだった)、女将を座卓まで呼んで、昔の川根の話をさせていただくのも悪くないかも知れない(ボクがそんな事言ったなどとはチクらないこと)。
しかしそんな気にさせる開放的で落ち着ける空間だ。
なお李朝棚はいずれ自宅へ移動させたい希望もあるようなのでいずれは無くなっているかも知れず興味のある方には留意されたい。
川根路茶寮〈ひらら〉
住所:静岡県榛原郡川根町身成2974  Tel:0547-53-2279
営業:am10:00〜pm6:00 水・木 お正月 休日
◆ 関連情報Webサイト

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  • たびたびの登場ですみません。
    日本の旧家の落ち着いた雰囲気は良いですね。
    最近の白が基調のマンションとは対極にあるものだと思います。
    この李朝棚は10年前の「手づくり木工事典」に掲載されて
    いたものですね。印象に残っています。
    ホンジュラスマホガニーも今では入手できなくなり、そういう
    意味でも貴重品だと思います。
    次の李朝風キャビネット期待しています。

  • あぁ、そうでしたね。雑誌に掲載されていたことを忘れていました。
    あの頃、同じデザインのものを数台制作したのじゃないかな。
    ホ・マホガニー、まだ3寸板含め一定程度のストックがありますので、どなたか仕事をさせてください(笑)。
    ただ残念ながら大変良質な材種ですが、現在の日本ではあまり人気のある樹種ではないでしょうね。
    木工職人に見せても、これラワン?めずらしいね !?などと言われてしまう(苦笑)
    今回の受注も同じマホガニーでやらせてもらいます。

  • なるほどラワンですか。
    そう思われても仕方ない所もあるかもしれません。
    安定性やねばり、加工のしやすさもさることながら
    絹糸光沢というか加工している最中のピカピカ光る
    板面は独特の物があると思います。

  • マホガニーの良さの本質をご存じなのはうれしいです。
    ただ、やはり真性マホガニー(ホンジョラス産あるいはグアテマラ産)において言えることであり、他の○○マホ、(例えばアフリカ産)などの類種は似て非なるものでしかないです。あのゴマが吹くようなものが良質な証ですね。
    今は残念ですが輸出入禁止扱い対象でしょうから正式ルートでは入手が困難なのでは。

  • はじめまして、
    マホガニーの良い所、悪い所色々あります。
    材質の違い、色々ありますね。ゴマの吹く良質な材は最近見かけませんね。
    私も10年ぶりですか、仕事をさせて貰ったのは?。
    真性マホガニー、確かに大変な、一見易しそうに見える材質ですね、どんな色気にも道化しやすい、されど、材の本来持っている錦糸光沢とか、板面独特の木目を生かす塗装方法を。また、製作者の意図するところを見つつ、デザインを損なうことなく塗装したつもりです。
    写真見ながらコメントしてます。

  • 匿名さん、(ネット上では)どうもはじめまして。
    おかげさまでお客様には大変喜んでいただきました。
    やはり仕上がりの美しさというものは塗装で決まります。
    最近はウレタンでの仕上げも少なくなってきましたが今後も世話になるかと思いますので、どうか見捨てないでください。

  • はじめまして。こんにちは。
    ひららでネットサーフィンしていたところです。お邪魔しています。
    ひららは店内の雰囲気がお気に入りでよく通っています。
    女将はとても綺麗で素敵です。

  • mayuzou さん コメントありがとうございます。
    常連さんのようですね。
    ボクもまた家山の桜の頃、出掛けたいと思います。

  • すみません、ちょっと教えてください
    わたしはギブソンのエレキギターをもっているんですが、ボディ(マホガニーで出来てる)の木にゴマ模様が出ているんですが、これってホンジュラスマホガニーの証明てことなんでしょうか?
    よろしくお願いします。

  • ギタリスト、ポニーさん、ようこそ。
    マホガニーという材種は、産地によってその材色、テクスチャーも様々です。
    マホガニーでもない偽物も、ちょっと木目が似ている、色調が似ている、というだけで●▼マホガニー、などと称されることもありますね。
    お尋ねのホンジョラスマホガニーという材種ですが、確かにこの材にはゴマ様のものが詰まっています。
    導管のところに、ですね。
    これがホンジョラスという証しでもありますね。
    因みにアフリカンマホガニーなどでは全くそのようなことはありません。
    ホンジョラスならではの特徴の1つです。
    ただ「ゴマ模様」という表現が、果たして、この「ゴマ様のものが詰まってい」る、ということなのかどうかは、何とも判りかねるところでもあります。
    でもギブソンというメーカーでしたら、間違いは無いでしょうね。
    ホンジョラスマホガニーという材種はとても緻密で、かつ粘りもあり、したがって細かい細工にも向いており、ギターなどの工芸品、高級家具などに求められる条件を完璧に満たしているとても貴重な材種です。

  • 職人さん
    いろいろ教えてくださって、どうもありがとうございましたm(_ _)m

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