工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

家具の組み上げ(その3)

いわゆる帆立(側板)、枠モノの組み立てでは、枘穴、枘へのボンド塗布の後、これらを差し込み、そして圧締していくことになりますが、この圧締方法も前回触れた歪み、ズレを補正させ、平滑性を確保する上で大変重要です。

さて、組み上げ工程で重要な事柄はいくつもありますが、筆頭に上げるべきは、カネに組み上げることです。
これはあまりにも基本的な事柄ですので、その必要性についての詳細な説明は不要でしょう。

上図 A.は組み立て工程の模式図です。

枘穴、枘、それぞれに必要にして十分なボンドを塗布し、
縦框側に当て木を当て、上下、裏表、計4本のハタガネで圧締を加えているところです。
例えば、ホゾを差し込み、その時点でカネが取れているのであれば、図版のように横框と平行するようなハタガネを配置し締めていきます。

カネの補正

スコヤ、あるいは、対角線上の距離でカネを確認することができます。
もし、カネが歪んでいた場合は以下のような補正の方法があります。

簡便な方法としては、鋭角になってしまっている角をワークベンチ板面に置き、対角線上の角を木槌で叩くなどして、修正することができます。

次に、圧締を加える工程で補正することができます。
図版 B.のように、この歪みを正す方向へと圧締力を掛けるようにします。
こうしてハタガネを当てる左右の位置を変えることで、いくらでも補正は可能となります。

平滑性の確保

次に大事なのが、面としての平滑性の確保です。
一般には、ハタガネを掛ける前の段階で、ワークベンチ(アテ台、作業台)など平滑性が確保された板面に置き平面の歪みを確認しますが、ここで大きな歪みがあれば、ワークベンチの角などを利用し、両手で圧力を加え、平滑に戻す簡便な手法もあります。

この平滑性をさらに高精度に補正するには、ハタガネの掛け方の微調整で行います。
ハタガネの接触位置、あるいは当て木の当てる位置を変えることで、歪んだ平滑度を補正することができます。

直定規をあてがいながら、当て木の位置(ハタガネの位置)を左右ともに微調整することで、どのようにも補正が可能となります。

ケース①:平滑性に問題が無い場合
上下のハタガネは均等な圧締力で締めていきます。(材が歪むほど、あるいはホゾ部分に過剰に食い込まない程度に…)

ケース②:左右の縦框が同じように、上下どちらかに傾斜しているような場合
当て木の位置を、この歪みを補正させる方にずらし、ハタガネを掛けていきます。
また、上下のハタガネの圧締力のバランスを変えることで、正しい位置に補正することができます。

ケース③:左右、いずれかの縦框が歪んでいる場合
正しい方は、縦框の厚み方向の真ん中に当て木を当てます。
歪んでしまってる縦框の方は、ケース②同様に、当て木の位置を偏倚させて圧締力を加えることで、補正が可能となります

なお、前述のカネの補正を伴う場合、この平滑性の補正をハタガネの掛け方、当て木の当て方で同時的に行います。

こうした工程を経ることで、設計仕様にヨリ近似的な枠モノが獲得できるということです。

結果、過度な仕上げ削りも不要となり、作業性も向上するというわけです。

図版ではカネの補正のためのハタガネの掛ける位置の模式を表したものですが、
断面図側の当て木ですが、これを上下させることで、全体の平滑度に変化を与えることができるというイメージです

ハタガネについて

うちでは、様々な圧締のための工具を使っています。

  • 真鍮製の小さなハタガネ、数種
  • 鋼製ハタガネ 600mm、900mm、1,200mm 
  • BESSEY ボデークランプ 600mm、1,000mm、2,000mm
  • PONYクランプを多種、(400〜2,500mmまで多種)
  • 板矧ぎのためのカスタムクランプ(600、1,000、1,200mm 各種)

それぞれ用途に応じて使っていくのですが、
やはり最も頻度が高いのが鋼製ハタガネです。
これは小振りである事での使いやすさ、取り回しの効きやすさからです。

FineWoodworking 誌などを視ると、やたらめったらと、BESSEY ボデークランプを使っているところを見掛けますが、確かに、プラスチック製のアゴで当て木不要ですし、アゴの深さも魅力的で高性能であるのですが、
何から何までボデークランプというのは、必ずしも合理的とは言えません。
廉価で、使い勝手の良い汎用的なハタガネの方が、職人の現場でははるかに使いやすい場合が多いようです。

私は起業時に、このハタガネ600mmを40本、900mmを12本、1,200mmを12本、導入し、今もこれらを現役で使っています。
BESSEY ボデークランプは起業から2年後くらいに導入しましたが、アゴ部分がアルミダイキャストという素材の問題から破断が避けがたく、まともに使えるのは数本のみ、という悲しき状況。

仕上げ削りの工程

こうして帆立側を高精度に組み上げ、その後、仕上げ削りを行いますが、ここでも平滑性を確保するための自覚的な鉋掛けのテックが必要となります。

こうした工程を経ることで、箱物の組み立ても、より高精度なものとして、より容易に獲得することができるのです。

次回は(たぶん、本稿最期の回)、この帆立(枠モノ)の仕上げ削りについて、触れていかねばいけませんね、

hr

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