工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

古民家 解体材による、松材のベンチ

築100年の古民家を解体するにあたり、これらの古材から家具へと再生して欲しい旨の依頼があり、
いくつかの設計を終え、進めているところです。

古材は、ケヤキの9寸角大黒柱が1本、そして松材の桁、数枚。

大黒柱についてはオーナーの子女らがテーブルとして再生させたいとの要望があり、設計を進めているところ。

桁材は、オーナーの希望から書棚と、ベンチに再生。
書棚は既に制作を終え、納品済み。(下)

今回紹介するのはベンチ。
桁材は2間半ものの長さがありますが、設置場所の制約から二人掛けの 1.4mという小ぶりのものに。

この桁材は1尺2寸幅の立派な古材で、幅一杯に取りたかったものの辺材に虫害があり、
止む無く、1尺1寸ほどの仕上がりに。
矧いで広くしましょうと提案したモノの、そのままで構わない、との意向を示され、このままで。

設計、意匠

針葉樹ですので、小細工は避け、意匠はシンプルに。針葉樹のリニアな木理をそのまま活かし、
小振りながらも、重厚なイメージでいこうと考えました。

桁の厚みは2寸強ほどありましたが、裏側はモルタル様のものが付着していたため、これらを除去し、1.8寸、54mmほどの厚みに。
脚部は3.5寸ほどの厚みの材がありましたが、このままでは厚すぎるので、座板とのバランスから、2.3寸、70mmほどの厚みにカット。

54mmの座板と、70mmの脚部の結合は、見付を留めとする天秤差しで。
また中央部に1.2寸 × 2.5寸ほどの貫を脚部貫通させ固めることに

加工工程

70mmもある板への天秤差し加工ですが、難儀するかなと思いきや、そのような懸念は杞憂で、案外、スムースにきちんとできました。
これまでも紹介してきたように、この種の天秤差しですが、うちではオスメスとも、ほとんど機械加工で攻めています。

そうはいっても、54mm厚みの1.4m材を傾斜盤に乗せ、傾斜させながら高精度に鋸を入れる加工は、いささか難儀であったことは告白します。

なお、広葉樹一般の家具への天秤差しのピン先が2mmほどのものとは異なり、針葉樹ですので、この場合のピン先は6mmとしました。

また今回はツライチ(サスリ)ではなく、1分、3mmのメチガイ、としました。
これも針葉樹の厚板という事を意識してのものです。

加工上、もっとも難儀したところといえば、脚部、中央部の貫の貫通枘穴の開孔でしょうか。
70mmという深さですのでね。
距離があるところから、角ノミでは無理で、治具(テンプレート)を用いてのハンドルーター加工に依ったものですが、ストローク、70mmを越える開孔は難行。

12.7×60mmのビットで攻めたわけですが、ハンドルーターのストロークも一杯いっぱいでしたね。
裏表、両方から攻めれば容易と思われるでしょうが、そのアプローチではではどうしても相互に誤差が出てしまうので、一度で開孔したかったわけです。
よく切れるビットで、慎重に、かつ大胆にいくのです。

総括的に

さて、解体古材、針葉樹での加工についていくつかのポイントを。

材質について(あるいは松脂について)

この松材ですが、思いの外 木質は硬質で、加工途上、欠損などの破綻はありませんでした。
したがって、天秤差し加工においても、何らの問題もありません。
ビシッと決まります。
ただ、広葉樹と較べれば、あきらかに軟材であり、傷つきやすく、丁寧な扱いが重要ですね。

桁(松材)

100年経過するとは言え、ひと鉋掛ければ、鮮やかな松材特有のヤニ臭とともに、明るい板面が表れますが、芯材に近い部分や節の周囲などにはヤニ壺もあり、ベットリと流れ出します。
100年経過しても、生々しいものですね。

重厚さについて

なお、解体材ということによる困難さは予想以上のものがありますよ。
なにしろ、2間半という長さ、これはやっかい。

また9寸角のケヤキの重量はハンパ無いです。
4m材で計算しますと、200kgを越えます。

ケヤキの製材
大黒柱の再製材(日立・帯鋸)

これらを日立の帯鋸で挽いていくのですが、材の押し込みは人力ですので、手が痺れ、やがては腫れ上がります😓

柱は芯持ち材

大黒柱は一般に芯持ちであり、これを割って家具に再生するというのも、なかなか難しいところがあります。
この樹芯がどのように配され、また芯割れがどう影響しているのか、
これはもう、開いてみなければ分かりません。
可能であれば、オーナー立ち会いの下で製材すべきでしょうね。

釘や木ねじに要注意

また大黒柱には思わぬ処に釘や木ねじが埋め込まれていて、これが刃に触れると火花が上がり、刃はおシャカ。
事実、今回、超硬刃の手押し鉋盤のジョインターナイフを3枚大きく欠損させてしまったものです。

視えないところに木ねじ(木ねじ埋め込んだまま手押し鉋盤で削り、ナイフ(刃)をおシャカに)

事ほど左様に、古材の再生というのは大変な仕事です。
依頼者からすれば、材は持ち込みなので安価に仕上がるだろうと考えがちです。

しかし実は新材よりむしろ経費が掛かることも多く、この齟齬がもたらす行き違いの問題は、あらかじめ知っておかねばならない重要なファクトです。

古材再生とは、100年前の曾祖父の普請による古材の価値を継ぐ、という意志を強く自覚し、正しく評価していただくことでしょうね。

解体松材によるベンチ
hr

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  • 良材!! 節無しの松材ですね。
    軟材ですから加工は容易ですが刃物にヤニが厄介、取り扱いも直ぐ凹むので慎重に!ですね。
    肥松(ヤニ松)を使ったことがあります。手押し、手鉋は頻繁にヤニ取りしながらの作業でした。
    仕上げには目止めシーラー、オイルフィニッシュとしたのですが、夏日の納品時、木口からヤニが滲み出す、ことがありました。溶剤で拭き取るしかなかったです。幸いにもお客さまが松材のメンテナンスを日常されておられたので、大丈夫!と言われてホッとしたことがあります。
    今回は木地のままですか?それとも、処理されましたか?

    針葉樹は木地仕上げが良いのかなぁなどと思ったりもします。どうなんでしょうね。

    • 立派な松ですよね。
      2間半の桁は4枚ほど出てきたようですが、預かったのは2枚。
      これで書棚とベンチを。

      ヤニ対策ですが、ヤニ壺の無いところで木取ることができました。
      ただ、脚部の接地部分に節の影が残り、ここはアセトンで拭き取り、目止めシーラーを。
      仕上げは油変性型ポリウレタン樹脂。

      建築などでは木地仕上げが一般的ですが、家具は手垢が付いたりしますので、汚れ止め的な意味からも、塗装はしておくのが一般的ですが、
      施主の理解があるようであれば、木地仕上げに近い、ワックス拭き程度の方が良いかも知れないですね。

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