カーリーメイプルの ジュエリー チェスト
ジュエリーチェストという新たなジャンルに初トライ。
その昔、小函を制作した際、その一部に内部をパーテーションで仕切り、ベルベッド生地を張り巡らせ、ジュエリーBoxとしたことはありましたが、本格的な収納家具・チェストの型式としては初めて。
以前より、瀟洒な小型の家具を作りたいとの欲望がありながら、着手をためらっていた。
しかしともかくも、作る中からこの独自の分野の課題も視えてくるだろうということで、重い腰を上げてみたというところでしょうか。
まずはご婦人が使ってみたくなる…、化粧室、寝室に置いてみたい…、といった高揚感を与えるものでありたい。
かといって、決してデコラティヴなものではなく、シンプルでモダンな住まいの一角に、静かに美しくフィットし、しかし確かな佇まいを与えてくれる何ものか。
そうした思いからの設計プランです。
収納するものはジュエリー、アクセサリーですので、そうした美を備えた貴重な装身具を収納、展覧するものにふさわしく、選び抜かれた自然素材を用い、木工技法のの粋を集め、丁寧な作りを投下し、気品を与えるものでありたいと追求したものです。
仕様
- サイズ:480w 300d 255h (ベーススタンドを含めると1,200h)
- 構成1・ 中央:上部はパーテーション、上蓋は裏にミラーを納める。中と下は抽斗。
- 構成2 ・左右の袖:ピアス、イヤリング、およびネックレスなどを収納
- 構成3・下部ベース:上部に抽斗を1杯、脚部はテリ脚を45度に捻る
- 材種:カーリーメープル 一部にローズウッド
- 仕上げ塗装:ワックス
構成について少し詳しく
中央部3分割
上部はリング、ブレスレット、ブローチなどのためのパーテーションを施しています。
底板にベルベット生地を張り、パーテーションは4mm厚のブラックチェリーの柾目。
上蓋の裏には装着チェックのためのミラーを納めていますが、この上蓋はステーなどを設けること無く、任意の角度に設定可能としました(トルクヒンジ)。
中と下は抽斗
中は上部同様、パーテーションを施してあります。
下はフリー。
抽斗について
これらの抽斗ですが、当然にも奥行きには余裕が無く、また一方、貴重な装身具を落下させるなどは厳に戒められますので、抽斗最奥まで視認とアプローチを可能とするフルトラベルのスライドレールを設けつつ、またこのレールの機構にストッパーを設け、抜け落ちを防ぐ仕掛けを施しています。
なお、このスライドレールですが、既製のハードウェアではなく、木製(樺材・柾目)で自作しています。
これらの抽斗ですが、画像からもお判りかと思いますが、すべて天秤差しの仕口で行っています。
左右の袖
見付は75mmの幅で、背部の中央部側に丁番を設け、左右に大きく展開する構成になっています。
ここには片側にピアス、イヤリング、反対側にはネックレスなどを収納させる機構になっています。
また、この袖を含め、見付側全体を1,500Rの円弧状に張らしています。
長角では無いということですね。
この見付側を円弧状に張らす意匠ですが、これにより視覚的な量感をもたらすとともに、柔らかなイメージを与える効果を狙ったものです。
ただ仕事はメッチャ、面倒なものになってしまいます。
しかし、その結果は想像以上の効果で、苦労の甲斐があったというところです。
ところで、この袖ですが、上下にコントラストの強い部分がありますが、この袖の主材が無垢材であることによる反張を防止する意味合いからのハシバミでして、板厚中央部に深く、濃色材のローズウッドを嵌め込んでいます。
意匠的にもちょっとしたアクセントになりますね。
上蓋
留め接合の枠組みですが、表にカーリーメイプルの板目部分を嵌め、裏に押し縁でミラーを納めています。
上蓋を本体に結合させるヒンジですが、ミラーをユーザーの身長などに適宜合わせる必要性があることから、任意の角度で保持できるよう、トルクヒンジを使っています。
ベース
ジュエリー チェスト単体の場合には、デスクトップ、あるいは何らかのキャビネット上に設置することになりますが、今回は専用のベースも用意しました。
やや大きな1杯の抽斗を設けたものになります。
ご覧のように、脚部の意匠に特徴を与えました。
42mm × 70mmほどの平角の材を45度捻った状態で四方を組んでいます。
全体をテリ脚に成型しつつ、表裏、それぞれ固有の大きな面を施しているのですが、45度に捻ったことで、この面取りも豊かな表情をもたらす効果を産みだしているように思います。
側板、および見付側棚口の最下部に1分ほどの紐面を廻してあります。
天板ですが、見付側をチェスト本体に合わせ、円弧状に張らせるとともに、隅をこの脚部の面形状に合わせ成型しています。
ただの長角にすべきか、少し迷いましたが、成型した効果はあったように思います。
材種
材種はメイプルですが、ここでは抽斗の側板などを含め、全てカーリーメイプルを使っています(一部、ローズウッド)。
このカーリーメイプルですが、20年ほど前、突き板業者から買い求めた原木丸太の良質な部分を使っています。
なぜ、カーリーメイプルかと言えば、白さを追求したかったからであり、またカーリーは、それ自身が意匠の要素を有し、どこか高貴なイメージを醸す材種ですからね。
写真では、やや淡いピンクがかった色調になってしまいましたが、光源にもよるものの、実際はもっと白い色調なのです。
なお、キホン、ほとんどが無垢材ですが、中央部、左右の内部帆立はランバーコア材に、共材を3mmほどに突いたカーリーメイプルを練っています。
なぜかと言えば、この中央、左右2枚の内部帆立の最下部は地板に大入れと枘で固めることができますが、上部がオープンであることから、無垢材では反り、歪みへのリスクが高くなり、2枚の内部帆立の間に抽斗が入ってくるところから、このままでは良くありません。
こうした反張のリスクを回避すべく、ランバーコア+杢の構成にしているのです。
小型の家具ですが、ディテール含め、少し複雑な構成でもあることから、次回、制作上のポイントなど、少し詳しく紹介してみたいと思います。