FESTOOL 8mm プランジルーター OF 1010 R
はじめに
FESTOOLの仲間が1つやってきました。
8mmチャックのプランジルーター、OF 1010 R です。
この機種名ですが、実はかなり古くからあったかと記憶しているのですが、現行品はそのメジャー更新版になります。
この機種名の〈1010〉とは消費電力、つまりマシンのパワーを示すもので、そこは変えずにユーザビリティの高度化を図ったものと考えて良いでしょう。
ユーザビリティ、カタカナ文字の使用もほどほどにすべきですが、ようするに作業者の使い勝手を向上させるべく、様々にブラッシュアップさせた再設計で市場に投入されたもののようです。
現在、メーカー公式サイトでは、この新たな機種〈OF 1010 R〉に切り替わっているわけですが、実は市場には旧いタイプのものも流通しているようですので、購入の際は注意しましょう。
また、旧型の中古品も市場に出回っているようですが、中には詐欺サイトと思しきものも散見され、くれぐれも注意なさってください。
(私はUSA Amazonで購入したのですが、このUSA Amazonでは商品名の表記が新旧まぜこぜで混乱状態にあり、プチッした直後、果たして目的の改良版が届くのかどうか、不安で仕方なかったです。後述)
仕様
以下、スペックの確認を手掛かりに、作業者の視点からの評価を加えつつ、紹介していきます。
項目 | OF 1010 R(新型) | OF 1010 EQ(旧型) |
---|---|---|
消費電力 | 1010 w(8.5A) | 1010 w(8.5A) |
速度(rpm) | 6,500 - 26,000 | 10,000 - 24,000 |
コレット | 6 、1/4"、8 mm | 6 、1/4"、8 mm |
ストローク(mm) | 55 | 55 |
プランジ深さ微調整範囲(mm) | 8 | 8 |
ダストホース接続(mm) | 27/36 | 27 |
重量(Kg) | 3 | 2.7 |
スペック上は新旧の大きな変更はほぼ無いと考えて良いようです。
では以下、具体的に視ていきます
消費電力
機種名の〈OF 1010 R 〉の1010ですが、上述の通り消費電力を示し、この機種のパワーを表すものでもあります。
FESTOOL社では、現在ハンドルーターのシリーズとして、3機種の製造販売を行っています。
▼ Router OF 2200
▼ Router OF 1400
▼ Router OF 1010
それぞれ、商品名の後段の数値は消費電力=パワーを示すものとなっている事がお判りかと思います。分かりやすいですね。
3機種の中で、この〈Router OF 1010〉は8mmコレットが限界の小型のものという位置づけです。
いわば、コンパクトルーター、コンパクト プランジルーター、といった位置づけになります。
またご覧の通り、ボデー形状は〈Router OF 1400〉と近似しており、ハンドルは一般的な左右対称のものとは異なる独自のスタイルです。
〈Router OF 1400〉を導入した時は違和感が無かったと言えばウソになりますが、エッジのルーティングなどでは、この左右非対称のハンドルはむしろ人間工学的には理に叶っているものと理解するに至っています。
〈Router OF 1400〉は17年ほどもを使いこなしてきたところから、自家薬朗中のハンドルーターとなっているわけですが、同じような形状で、使い勝手も近似するこのコンパクト、プランジルーターは今後、多くのルーター加工場面で良い相棒になってくれる予感があります。
何より重量が64%に削減されているところから、微細な加工場面では大いに活躍してくれることでしょう。
話しが横道に逸れちゃっていますね。〈Router OF 1400〉に関してはまだまだ触れていきたいことがあるのですが、テーマが拡散してしまいますので話を戻します。
さて、8mmチャックのものとしては、類種の、例えば、〈マキタ RP0910〉が900w、〈DeWalt DWP611〉が1-1/4(≒937W)ということですので、この〈OF 1010 R 〉は余裕のあるパワーと言えるでしょう(日本より電圧が1割ほど高く、換算してもなお、ですね)
コレット
8mmをMaxとし、私は米国経由で購入しましたので、1/4″ のものが付属していました。
6mmも必要とされますが、当面は8mmコレットに互換スリーブを介して対応する事としましょうかね。
ルーティング深さ微調整
深さ微調整ですが、これは18年前に導入した、同FESTOOL社の〈OF 1400EQ〉のレビューの際も触れたものと同じで、カチカチと回転するダイヤルで、0.1mm単位での微調整が可能です。
〈DeWalt DWP611〉の場合などでは、昇降バーに調整用のスクリューがあり、これはこれで微調整ができるのですが、数値単位での設定は困難であり、このダイヤル機構は素晴らしいと言えるでしょう。(⑧ のスクリュー部分)
ダストホース接続
ダストホースのアダプターですが、これはあらかじめルーター本体にビス2本で固定されています。
〈OF 1400 EQ〉の場合は、アタッチメントとして付属するスタイルですが、装着できるビットも8mmチャックという制約から、あえて、あらかじめ固定させるという設計方針なのでしょう。
対応するホースも 27/36 mm ということで、汎用型の集塵機であればフィッティングは良好と思われます。(私のマキタ集塵機はジャストフィット ^^)/ )
重量
3.0Kg というのは、〈マキタ RP0910〉と、ほぼ同じですが、〈OF 1400〉と較べれば、あきらかに軽快で、大柄な欧米人とは異なる日本人の作業者としてはありがたい。
片手でもぶん回せそう(いやいや、安定した操作ができそう)
因みに、本機と、〈OF 1400〉〈DeWalt DWP611〉3種のボデーを並べてみましょう。
旧型との比較において
この機種を導入するにあたり、市場での価格差(約100ドル)が大きいところから、スペックを共通とする旧型との比較検証は必須のもので、ネット上の情報に必死にアクセスしたものです。
有為な情報の中では、あえて新型に買い換えることでもないといった諫言もあり、悩まされたものです。
そうした戒めも含め、あえて新型として市場にリリースした開発設計の意志については評価すべきところでしょう。
重要な改善について
【チャック部分へのアプローチの開放】
これは〈OF 1400 EQ〉のプレビューの際にも触れたところですが、昇降のプランジのバーが一般にはモーターマウント中心の延長線上に配されるものであるところ、FESTOOLは、このチャック部へのアプローチを容易にするため、昇降バーはオフセットに配され、開放部がとても広くなっているのが大きな特徴となっています。
たぶん、この設計はプランジの摺動、昇降における重力配分に深く関わってくるところで、機械精度が高く無ければ可能とはならず、安易なものではないように思います。
この〈OF 1010〉の旧型もその点では同じようです。
ただ、旧型は残念ながら、ステップ型昇降ブロックと、ダストフードの機構の位置が問題で、せっかくの昇降プランジのバーのオフセット配置も活用し切れていないのです。
新型はこの部分が大きく改善され、開放度が高く、スピンドルシャフトへのアプローチがよりイージーになっているのが大きな改善点です。
〈OF 1400EQ〉との比較
スピンドルロックの締め付け、解放の機構が違います。
〈OF 1400EQ〉はスピンドルロックは締め付けと解放が1つのシーソータイプで、しかもラチェット機構が封入されていました。
この〈OF 1010 R〉はそうした機構は無く、ロックボタンを押しつつ、スパナでアプローチするという、ごく一般の機構になっています。
ただ、このスピンドルロック部分のスクリューですが、〈OF 1400EQ〉との比で、かなりピッチが大きく、スパナの1ストロークで締め付け、解放が可能というあたりで、複雑になりがちなラチェット機構を廃したのかもしれません。(この1ストローク、ですが、これも2本の昇降バーが大きく後ろに下がった位置であればこそ、スパナの回転角度が広く大きくなる効用を与えているというわけです)
次の画像は、〈OF 1010 R〉と〈OF 1400〉のスピンドルシャフト、スクリュー部分の拡大画像です。
ピッチの違いがお判りになるでしょうか。
テンプレートガイド機構
〈OF 1400EQ〉では、ベースに仕込まれた2つのタブを2本の指で挟めば、専用のテンプレートガイドが簡単に装填、解放できる、tool free の機構を搭載するというとても優れた独自のものがありました(右)。
この〈OF 1010〉は残念ながらこの機構は無く、2ヶ所のビスで装着するという、ごく一般的な機構になっています。
なおこの場合、〈OF 1400EQ〉のこうしたtool free 機構は、スピンドルシャフトとテンプレートガイドのセンターをジャストに合わせる操作はできないわけです。
一般にはテンプレートガイドの装着部はあえて多少の緩みを置き、センターリング調整の操作が可能なものとなっているのにです。
ここはFESTOOLの機械精度が高いことで可動性をあえて無くしたとも考えられますが、〈OF 1010 R〉については、可動性の方を選択しての設計と考えることができるかもしれません。
因みに、米国FESTOOLの販売形態では、PORTER CABLEスタイルのユニバーサルテンプレートがイドを装着させるためのアタッチメント(Guide Bushing Adapter)が標準同梱されています。
これは大変貴重な判断と言えるでしょう。
ドイツ本国のものには同梱されません。(これはユニバーサルテンプレートガイドが米国Porter Cable社の設計指針に拠るものからなのかもしれませんね)
FESTOOL社はこれに代わりというか、次のように、17mmから40mmまでの[copying ring]という名のテンプレートガイドを提供しています。(こちら)
なお、Festool USAから提供される(Guide Bushing Adapter)ですが、これは樹脂製(ABSかな)であり、しかも装着においてはダストコレクトのアタッチメントにやや干渉するところがあり、加工精度に難があります。(Top画像の中央、下)
たぶん、ドイツ FESTOOL社の自社製というものではなく、USA FESTOOL 社によるサービス添付のようなもので、ここは妥協するしかありませんね。
以前も記事にしたことになりますが、Porter Cableタイプのユニバーサルテンプレートがイドですが、旧来は当然にもインチ単位の展開だったものが、昨今 ミリ単位のものが国内でも手軽に入手できる環境下にありますので、大いに活用したいものです。
言ってしまえば、このユニバーサルテンプレートガイドを十全に使いこなすことができなければ、ハンドルーターの価値は半減してしまうということです。
購入目的と、使い勝手
この8mmのハンドルーター、うちには、〈DeWalt DWP611〉が1台あり、12mmのものとは異なるその軽快さに、使う機会は思いの外多く、これはこれで必須のジャンルのものと評価してきたところです。
そこへきて、最近、小型のキャビネット制作の機会が多く、またこの抽斗には天秤差しを採用する事が多いという作業環境の変化があります。
これらの場合、蟻ビットは8mmのもので十分、っていうか、むしろ小サイズの方が好都合。
この天秤差し加工でのハンドルーターの活用では、蟻ビットの他、この蟻ビットによる切削加工の負荷を軽減させるための、ストレートビットによるプレカットというプロセスがあり、そのための、もう1台の8mmマシンが欲しかったということがあります。
これまでは6mmシャンクのものをトリマーに装着し行ってきたのですが、蟻ビット同様、8mmの、しかもプランジ機構を備えるのが望ましかったのです。
こうした要請に応えるには、この〈OF 1010 R〉は最適なマシンというわけです。
前述のように、〈OF 1400〉との比較では、いくつかの不満が無いワケでは無いものの、類種を大きく凌ぐ、高機能かつ、ユーザビリティの高い、FESTOOL理念に裏打ちされた優れたマシンであることに変わりはありません。
補記
さてところで、このBlog記事をまとめる過程で気づいたことがあります。
この FESTOOL 〈OF 1010 R〉には、いくつもの拡張的なオプションが用意されていることも1つの特徴と言えるようです。
以下、その中でも興味深いところからいくつか簡単に紹介していきます。
Light module LM-OF 1010 R
バッテリーユニットを持つ、LEDライトシステムです。
後付けのもので、USB-C による充電式になっています(6時間の稼働)。
ルーメン等の表記はありませんが、動画を視た限りでは、十分な照度のようです。
本体への取付はテンプレートガイド装着部分に嵌め込む機構となっており、ループ状にLEDエレメントが配されていますので、影の無い、良好な照明を与えるようです。(こちら)
実は、このFESTOOLルーターには、LED照明のための、3rd.パーティによる製造販売もいくつかありまして、興味を持ちつつ眺めてはいたのですが、FESTOOL社本体が製造、提供に踏み切ったというのは朗報ですね。
ただあえて申しあげれば、こうしたものをアタッチメントとして提供するのではなく、あらかじめ本体に内蔵しておくべきでしょう。
LEDエレメントなど、微細なサイズであり、モーターマウント部の底部に備え付けることなど構造上も何らの支障も無いと思われ、事実、既に多くのメーカーがトリマーへのLED搭載を普及させていますし、8mmルーターでも、この後段に紹介する新しいBOSCHの8mmルーターにも搭載されているのです。
なお、このLEDライトシステム、私も指舐めているところですが、これはなぜかUSA Festool社での扱いは無く、ドイツ本国周囲での販売という限定的な状況のようです。
しかしなんとか手に入れたいものです。
Parallel side fence SA-OF 1010/MFK
並行ガイド・フェンスですね。
USA Festool の販売形態では、フェンスは標準同梱されていません。
また上位クラスの〈OF1400〉に標準添付されているアタッチメントのガイド・フェンスは、ルーター本体を連結する2本のバーの間隔が全く事なる仕様であるため使い回せません。
私にとっては、この〈OF 1010 R〉はメインのマシンでは無いので、フェンスははあえて同時購入しなかったものの、今後、活用していく中で必要に迫られてくるかも知れません。
画像見た限りでも、この種のフェンスとしては最高度の品質を保証してくれそう。
まさにプロ仕様としての進化形です。
Accessories set ZS-OF 1010 M
〈OF 1010 R〉のための、アクセサリーキットですね。
17mmから40mmまで、5つのテンプレートガイド、
拡張型のベース、
trammel unit(直径760mmまでの円形カットのためのバー)
等々
これは2月からの販売のようです。(いらんわ 😓 )
8mmコンパクトルーターマシンの新たな傾向
現在、市場でのプランジ型8mmシャンクのものは(私の知る限りでしかありませんが)〈DeWalt DWP611〉の他、〈マキタ RP0910〉、〈HiKOKI M8V2〉などとともに、ボッシュからも興味深い機種がリリースされているようです。
今回はこのボッシュの新型8mmルーターについて少しだけ触れます。
Bosch GOF 1250 LCE
プランジの昇降位置を液晶パネルで数値表記させる機構を搭載するものです。
そそられる木工屋も多いかも知れませんね。
木工用電動工具周辺へのエレクトロニクス高度化は、充電電池の進化(Ni-Cd ➡️ Ni-MH ➡️ Li-ion)にあわせ、ワイヤレス化がはじまり、次いで前述の〈OF 1010 R〉でのLight module のようなスポット照明の搭載も一般化しつつある中、この数値表記パネルの搭載も必然的な流れなのかと思います。
私が機種選択における優先順位はあくまでも、木工加工に資する工具としての基本性能であり、製造メーカーの作業者へのリスペクトの精神に基づいたユーザビリティであり、そして使い勝手の良否ということになりますが、各メーカーが競い合い、新奇性豊かな開発精神を投下させ、高性能で、使って快適なマシンを開発してもらいたいものです。
また、こうした基本性能の進化とともに、産業全般におけるLEDの汎用的な普及、ITデジタル化などの時代潮流に、木工関連電動工具も遅ればせながら採用されつつあることは必然的なものでもあるのでしょう。(そうしたテックが研究開発され、これらが広く一般に活用されることで、より単価が下がり、あるいは進化していく中で、木工関連の電動工具にもおずおずと採用されていく、という流れになるのだろうと思われます)
ところで、このBOSCH Japan でのルーターの取り扱いは極めて限定的です。
現在はトリマーしか正規の取り扱いはしていません。
このBOSCH Japanの販売戦略は謎です。ドイツ本社では日々、新たな機種を開発、市場リリースしているというのに、なぜか日本ではその恩恵に与れない。
何なのでしょうね。
考えられる事としては、日本国内の市場ではマキタが圧倒的なシェアを持ち、海外勢は営業面で困難を強いらていることは明らかですし、あるいは、日本でのPSEなどの国内規格に準拠させるための製造上の、さらには手続き上の煩雑さなどへの忌避があるのかもしれません。
仕方がありませんので、魅力的な機種があれば、国境を出て買い求めるしかないのです。
最後に
今回はFESTOOL 8mmルーターの紹介とともに、類種の最近の動向などを観てきました。
8mmルーターに関しては、昔はほとんど関心がありませんでした。
何より、非力という観念がありましたし、加え、8mmのルータービットが既製品ではとても少なかったことがあります。
ところが、蟻ビットなどでは、マキタ製のものなど、数種が容易に入手できますし、Amazonなど、ECサイトに行けば、あふれるほどの商品が展開するようになっているのです。
これらほとんどは中国製と思われますが、カーバイドチップの性能への疑念無しとはしないものの、とりあえずは問題無く使えますので、かつてのような観念(8mmジャンルのビットは入手困難)は無用です。
また記事中にも書きましたが、細かな細工においては、むしろ12mm、1/2″ルーターより、はるかに使い勝手が良く、大いに活用できるものと思われます。
8mmだからといって、本来備えるべきプランジルーターとしての機能において手抜きされるようでは困りますが、今回の〈OF 1010 R〉はそのようなこともなく、フルスペックの理想的なマシンとして位置づけられるというのは嬉しいことです。