講壇、CROSS(十字架)

十字架を作るのは初めて。
「神は死んだ」としたニーチェに依るまでもなく、近代という時代精神は神による世界支配を超克するものでしたが、戦後80年の現在、その近代的精神そのものにさえ疑いの眼を向けられ、ついにはファシストの使いであるかのようなトランピズムの横行で世界は混沌の渦の中で喘ぐ状態に…。
しかし如何に時代が変遷しようと、人々が救いを求め、寄る辺を求め、世俗を超絶した何者かに帰依しようと考えるのは、ある種、人間の普遍的な姿の1つであることに疑いは無いでしょう。
混迷する時代に翻弄される現代人にしてみれば、なおのことなのかも知れません。
私のような近代主義で凝り固まった寄る辺なき無神論者の孤独の魂は、はてどこへ・・・。
戯れ言はともかく、十字架のお話です。
相欠きが一般的な十字架
一般には、ただ縦、横の部材を直交させるため、〈相欠き〉にて構成するものが多いようです
(右は「十字架 木製」で画像検索した結果です)。
ただ私が作るのであれば、それじゃつまらないだろうと、縦横、それぞれの断面を〈兜巾〉に面取りし、この状態で交叉させようと考えたのです。
面取りによる立体感が生まれ、ここに光があたれば陰影を生じ、豊かな造形美が生まれますからね。
ただ、この〈兜巾面〉での直交ですが、〈兜巾組〉と呼ばれ、建具や在来構法の建築などで使われることもありますが、その仕口加工は簡単ではありません。
なぜなら、幅の1/2づつを面取りするのが兜巾であり、その結果、面腰による〈十字相欠き〉のような平面は残りません。
平面が残らないということは、相欠きという構造にはなりませんが、兜巾組はこのあり得ない組手を可能ならしむる裏技があるというわけです。

今回、私もこれにトライしてみたのですが、建築に用いられる針葉樹とは異なり、メッチャ硬質のマホガニーでは巧くいきませんでした。破断してしまうのです。
(建築や建具での兜巾組については動画も含めいくつもの情報がネット上にありますので、そちらを参照してください)
そこでいろいろと考えを巡らせ…、ある別の手法により何とかモノにしました。
いろいろな仕口が考えられるでしょうが、必須の条件の一つとして、構造的な強度、堅牢性が確保されねばならず、そこがキモですね。
結局、今回は縦棒の交叉部内部で横棒を枘で抱き合わせ、噛ますカタチにしました。
枘で噛み合わせていますので、物理的堅牢性はかなり高いと考えて良いでしょう。
加工のポイント

縦棒の剣先の作り方ですが、美しく、高精度に、かつ安全に行うには、傾斜盤で剣先のカッターを使い、切削するのが良いのですが、
ただこの場合はカッター径が大き過ぎ、求められる最上部への剣先切削に留まらず、下部へと切れ込んでしまうため、この方法は使えません。
したがって、刃径の小さなものが必須になり、結論的には求められる刃径(棒の幅<)を持つルータービットでの加工が望ましいと言う事になります。
ただ、ここでも過剰な切削は抑えねばならず、深い切れ込みはできず、先端がやっと届く範囲に留め、残りは手ノミ切削をも加味した加工になります。
高精度のビット成型による切削が施されていれば、そこを基準にノミを当てれば良く、難易度は大きく低減され、安心した切削ができますね。
後は厚み方向の中央部に横棒の枘が入ってくる部分の枘穴の開孔だけです。
横棒の剣先の方は傾斜盤に取り付ける〈留めジグ〉で容易に作れます。
ただ剣先の下にくる枘の胴付きと、剣先側の位置関係を高い精度で行うことがキモになります。
1本の棒を中央で切断し、ここに剣先と枘を作っていきます。
テキストで説明するのはかったるいので、上の画像をご覧いただければ、縦横、接合部の関係性が理解できるかと思います。
縦横、剣先と枘加工を終えれば、〈兜巾面〉を取り、
この〈兜巾面〉に合わせ、端末、木口部4ヶ所のの面を落とします。
以上です。

なお、今回は縦横、幅は1寸ほどのものでしたが、もっと大きなものとなれば、ルータービットでの加工は無理になりますので、別の手法を取らざるを得なくなります。
大きなものとなれば、逆に傾斜盤での剣先カッターが使えるかもしれません。
手鋸で剣先を加工できれば良いのですが、先っぽは手鋸でもできない相談になり、
手ノミなどを駆使しながらの加工になるでしょう。
ともかくも、高精度に加工されねばならない、こうしたプロセスは、様々な手法を動員するためには、思考を柔軟にしつつ、考え抜くことですね。
今回、兜巾組での十字交差は巧くいきませんでしたが、
次回、マホガニー同様に硬質ではあるものの、靱性がかなり高いブラックウォールナットでチャレンジしてみようかと思案。
