工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

サイドテーブル

ブラックウォールナットのサイドテーブル

現在の工房 悠のラインナップには無いもので、ぜひ入れておきたいと考えるその1つがサイドテーブル。

ソファやベッドの脇に置かれ、本や、コーヒーカップなどを置くこぶりの卓。
その目的からして〈片持ち〉の構造によるものになります。

今回創作したのは、家具デザインに興味のある人であれば、もしかしたら想い浮かべる人もいるかもしれない、〈カッシーナ E-1027〉と相似形のもの。

あえて隠しませんが、余りにも有名なアイリーン・グレイ(Eileen Gray)のサイドテーブルへの憧憬からの二次創作。

E-1027
E-1027

建築からプロダクトデザインまで幅広く手掛けていたアイリーンですが、フランス、コート・ダ・ジュールの海を望むカップ=マルタンに建てた、恋人と暮らすための別荘「ヴィラE-1027」のために設計されたのがこのサイドテーブル(E-1027 サイドテーブル)です。

現在はカッシーナの定番商品としてラインナップされ、日本国内でも好んで使われているところをTVなどからも伺うことができます。
サイドテーブルと言えば、これっ、といった感じさえあるポピュラーなものと言って良いでしょう。

今回、〈片持ち構造〉が特徴的な、このアイリーンの〈E-1027 サイドテーブル〉のデザインをリスペクトしつつ、これを木製で作ることにしたのですが、いくつかの点でオリジナリティを追求しています。

〈E-1027 サイドテーブル〉はメタルフレームに、トップがガラスという、いかにもモダンエイジ、1920年代にデザインされたものという清々しさにあふれたイメージですが、これを木製という、地球遺産のような木を素材とするならば、その特性を活かしたものでありたい。

加え、〈清々しさ〉に対し、〈エモ〉さを兼ね備えたイメージに。
とは言っても、キッチュに陥らないモダンでスタイリッシュなものでなくてはなりません。

具体的には、馬蹄形の脚部も木製ならではの物理的特性に踏まえた断面ボリュームの変化を与え、
支柱は〈片持ち構造〉ながらも、垂直では無く弱い傾斜を持たせたもの。
ただ強度確保のためのステイは必須、と言ったあたりがポイントになってきます。

デザイン、設計上のポイント

馬蹄形の脚部の構造(おしゃぶり)

馬蹄形という形状を木という素材で適えるには〈おしゃぶり〉での接合が最適ということになります。

おしゃぶり
おしゃぶり 接合プロセス

以前、ミュージックスタンドで紹介した仕口ですが、
こんな円形のものを1枚の板から切り出すことなど、繊維方向のある有機素材・木ではできません。
そこで、半分づつ作り、中央部分で繫げ、馬蹄形とするのですが、この接合部は〈枘+接着材〉に依らない、より堅固な仕口である〈おしゃぶり〉で適えるということです。

ネット検索からは、残念ながらこの〈おしゃぶり〉のテキストは、私のモノか、AQデザイン開発研究所の阿部さんのものしかヒットしません。
もっと、もっと、使われておかしくない〈おしゃぶり〉ですが、なぜか上がっていない。
確かに、〈おしゃぶり〉という用語は職人的符牒の類とも言えるので、
学術的な用語?として一般的な〈鼓〉(つつみ)で検索掛けても同じ結果で有為に言及されているサイトは皆無ですね。

この仕口は横浜クラシック家具で修行された私の親方から伝授されたもので、横浜ではごく普通に広く用いられていたようなのですが、検索にヒットしない現状から、この〈おしゃぶり〉の仕口が廃れつつあるとすれば大変残念な事です。

譜面台(Music Stand)脚部に用いられている(おしゃぶり)
譜面台(Music Stand)脚部に用いられている(おしゃぶり)
譜面台(Music Stand)脚部に用いられている(おしゃぶり)
譜面台(Music Stand)脚部に用いられている(おしゃぶり)
馬蹄形 相欠き

馬蹄形 相欠き
馬蹄形 相欠き
馬蹄形
馬蹄形 脚部の仕上げ削り

この〈おしゃぶり〉で接合された中央部には支柱が絡んできますので、構造的に少し難しい部位になります。

〈おしゃぶり〉の接合度を損なわずに、そこに傾斜角を持つ支柱を立てることになりますので、慎重な設計と加工が求められます。

少し具体的に示せば、中央に枘穴を開け、前後、および上部に相欠きのための溝を穿ち、これに合わせ、支柱の方にも、相欠きと枘加工を行います。
以下がその部分。
中央の枘部分ですが、裏側からの〈おしゃぶり〉と干渉する部位になりますので、深さはホドほどで止めます。

馬蹄形、中央部への支柱建て
馬蹄形、中央部への支柱建て

関連して数枚の画像を上げていますが、この相欠き部分の加工は大きな曲部の中央部にあたるところから、ちょっと面倒な加工になります。
外側と上部はジグを作り、丸ノコ昇降盤で一発加工が可能ですが、内側はそうはいきません。
もう、ルーターでやるっきゃ無いです。
高精度に位置決めするためのジグを作り、ルータービット径と、目的とする切削幅の差異を勘案し、ルーターピンとの関係性から算出される幅を、ジグの裏に穿ち、これで倣い成形(幅決め)が可能になります。

今回は以下のような算術になりますかね。

・ 支柱の厚み:36mm
・ 刃径:32mm
・ ピン:30mm
型板の溝幅は=?

=〔支柱の厚み〕ー〔刃径〕+〔ピン〕
   =34mm
という数値になりますが、これを裏板に高精度に加工します(傾斜板ですと、一発成形です)

こうした曲部への溝突き加工ですが、ハンドルーターでも不可能では無いでしょうが、高精度なジグづくり、作業安全性などから、かなり面倒な事に。
そんな面倒な事をするより、手鋸と手ノミの方が早く綺麗にいきそう。
・・・ともかくも、洋家具的な仕事をしていく上で、ルーターマシンは必須のものと考えた方が良いというお話でもあります。

・・・しかしながら、そうは言っても、洋家具的な仕事をしていく上で、ルーターマシンは汎用性の高い加工が安全で容易に適えられる高機能を有するところから、必須のものと考えた方が良いというお話でもあるわけです。

因みに〈おしゃぶり〉の加工も、一部、ルーターマシンに依っています。
左右の円柱部分はボール盤での穿孔になりますが、これを繋ぐ溝はルーターマシンでの加工になります。
2つの円柱を繋ぐ溝は貫通では無く、厚みの2/3、3/4ほどの深さで止めねばならず、こうした加工は昇降盤では適わず、ルーターマシンの出番というわけです。
無論、ハンドルーターでも加工は可能とは言うものの、精度を出したり、安全で容易な加工となれば、少し複雑なジグを作るところから始まるということになりますので、総合的に考えれば、これら多くの部分が無用となったりで、圧倒的にルーターマシンに優位性があるということになります。

支柱、および ステイ

今回は試作のようなものでしたが、支柱の傾斜はやや強すぎましたね。
6度の傾斜角にしたのですが、この半分ほどの方が良かったと反省しきり。
Topに分厚い「広辞苑」を載せても平気ですが、視覚的には危うさが無くも無い。
この種の設計では、やはり実際に組み上げてみない事には分からないこともあり、傾斜角が絡む場合では特にそうです。

なお、馬蹄形の脚部と支柱の納まりの部位で傾斜させているだけではなく、支柱そのものの形状も2度ほどテーパーに削り込んでいます。
ただ長形の平角の棒では無く削り込むことで視覚的に動きも出ますし、傾斜も強く見せることにも繫がります。

また支柱の背はカマボコ面に削り込み、柔らかなイメージを醸しています。
脚部、馬蹄形の上部面も同じく、です。

支柱から伸びるステイですが、ここはアイリーン〈E-1027〉には無い部材になりますが、
木を素材とするにはこのステイは必須になってきますね。

この支柱とステイの接合部断面ですが、極小で、かつ堅固な結合が求められる仕口になりますので、〈寄せ蟻〉が1番。
一般的な枘ではダメです。上部からの圧力による抜けモーメントに耐えられません。
そこで仕口は、この場合は〈寄せ蟻〉がもっとも理に適い、かつ加工も容易で、最適ということになります。

課題

ステイの関係から、支柱を傾斜した状態では高さ可変は無理ですが、何らか考えていきたいところですね。
アイディアはあるにはあるのですが、 う〜〜〜ん、懸案ですね。

ブラックウォールナットのサイドテーブル


なお、画像のサイドテーブルですが、未塗装のブラックウォールナットです。
未塗装にしては色調にブラックウォールナットの特性が出ているように感じられるかも知れませんが、
これは市場に流れている人乾材ではなく、原木丸太からの製材で、天然乾燥を施したブラックウォールナット材だからです。
ここにオイルフィニッシュを施せば、よりリアルに、深く、鮮やかなチョコレートブラウンで発色してくれるはず。

今後、支柱の傾斜角の微調整を含むいくつかの見直しを行い、完成形にしていきたいものです。

iPhone カメラの進化に驚き

もう1つ、余談。
今回の撮影はすべて iPhone 16のカメラによるもの。
照明等は一切使用していないので、決して良い写真では無いのですが、とにかく手軽にそれなりの良い結果をもたらすカメラなので、大いに助かっています。

今年の春までは7年前モデルの iPhone XS Max でしたのが、かなりの進化を感じさせるものがあります。
まだ詳しく調べ、操作しているわけでも無いのですが、今回指摘したいのは、〈被写界深度〉設定の自由度の高さ。

iPhone XS Max では、確かこの機種辺りからカメラレンズも複数となり、さらにこれを生かした〈ポートレート〉モードが加わっていたのですが、現在の機種、および iOSではF値が任意に設定できるようになっていて、〈被写界深度〉が任意に変えられるのですね。
これには小躍りして喜んだものです。

これは大変ありがたいです。ボケ感が自由に設定できるわけですからね。
  スマホカメラ、恐るべき進化。

hr

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  • ちょい置き 作品カテゴリーが拡がりますね。

    おしゃぶり  
    墨付けではなく、型ピン刺しポイントを打ち
    江戸指物では、楢が締まります。

    「おしゃぶり」と「ちぎり」 國政流相伝-1に詳細を記載していますので、お試しアラン。

    abe

    • 私も自家薬籠中のものにしていますが、
      〈おしゃぶり普及委員会〉でも起ち上げねばならないのかも知れませんね。

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