工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ウォールナット・ラウンドテーブル

ラウンドテーブル1
ブラックウォールナットの円卓である。
〈工房 悠〉サイト > [Gallery] に収録させた新しいテーブル。
円卓制作には様々な思い出があるが、中でも忘れがたいのが独立起業して間もない頃のこと。
地元の雑誌取材を受けた時のこと、女性記者Kさんから1つの飾り棚の制作を受けたことがあった(実質的にはそのお母様からの依頼)。
見積もり設計のために訪れたK邸の居間に上がり込み、そこでいきなり驚かされることとなった。
何とそこには見覚えのある楢の円卓が鎮座しているではないか。
それは2年ほど前に自分が制作したものと同じものだった。
お母様とお話しをさせていただくと、その円卓を購入した店舗名と、ボクが制作依頼された家具店の名前が一致。
起業直後の頃にこの家具店から依頼され制作したもので、どうもその依頼元の顧客がこのKさんだったというわけだ。
これにはKさんも「エ〜ッ、あなたが作られたのですか? びっくり !!」と、驚き、そしてとても気に入って使っていただいていたこともあったためか、結局は飾り棚のみならず、大きなワードローブ、整理タンスなどの追加受注を受けることになった。


いつなんどき、自身が制作した家具と再会するかは分からないが、例え匿名での制作ではあっても誠実な仕事を残し、そして顧客に愛されるものを制作していれば、それがまた新たな豊かな関係へと繋がっていくという、まさに絵に描いたような展開の顛末ではあった。

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さて、今回の円卓。
円卓は食卓として考えたとき、一般の長方形のテーブルと較べいくつかの特徴がある。
最も象徴させるのが、国際会議などで用いられるテーブルはこうした円卓であるということ。
つまり座位置によるヒエラルキーが無い。いわゆる上座、下座などという上下関係が無い、ということだね。
次に、何人が食事を囲めるか、というボリュームを考えると、意外と場所を取ってしまうという問題があるね。つまりある程度余裕のある空間でないと円卓は置けない。
ところでこうした食卓という機能から求められるサイズ、エレメントなどは、『ファニシンングデザイン資料集』などに詳しく収録されているので参照するのがよいだろう。(と紹介したいところだが、この書籍は出版社の「鹿島出版会」サイトにもデータが無い。絶版ということのようだ。これに代わる他のものがあるとは思うのだが‥‥、お薦めの類書があれば教えてください <(_ ラウンドテーブル2
例えば、このラウンドテーブルの場合、甲板寸法は1,250φであるが、
この資料集によればこのサイズでは4〜6人が使えるということになっている。
因みに必要とされる部屋の大きさは2,450×2,450mm〜、とある。最低でも1辺、1間半の広さが必要だと言うことだね。(上述の書、P24)
因みにどんな感じになるのかと言えば上・下の画像がそれ。
手前の空いた椅子には撮影者のボクが掛けている。つまり5人。
お茶する程度であれば6人まではいけるだろうけど、食事となると5人がちょうど良い。
大勢で1つの円卓を囲み、食事、会話に華開くのは楽しいもの。大きく首を振らなくとも皆の笑顔が良く分かる。
さて、この場合求められる設計の要諦としては、脚部のデザインがある。
ご覧のように4本の脚で支えられているが、大きく弧を描きながら畳ズリと甲板を繋いでいる。
膝頭にあたらないようなデザイン設計処理により、使用人数が影響されないということになっているわけだ。
これがただのストレートな4本脚であれば、使用人数に制約が出てくる。
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少しだけ制作上のポイントについて触れてみれば、
加工そのものはさほどの難易度が高いものではない。
脚部の上下は中央に厚めの1枚のほぞ+抱かせほぞ(吸付き桟、畳ズリとは面チリ)
畳ズリ側の抱かせほぞ部分はテンプレートを用いてルーター切削すれば綺麗に納まる。
問題は組み立ての方法。
これだけのボリュームの部材を設計通りに組み上げるのは容易ではないと思う。
単に部材のボリュームがありホゾの長さもあるから嵌め合わせが難しい、ということではなく、脚部が円弧状で、またホゾが大きく角度を持った関係性にあることからくる難しさだ。
うちでは大型のプレスで難なく緊結してしまうが、そうでないと恐らくは無理ではないだろうか。
かなり緩めのホゾにしないと接合できないだろうが、それではしかし具合が悪い。
逆にプレスを使うからといってホゾをあまり堅くすると円弧状に成型した脚部が“目割れ”してしまう怖れが高い。
決して緩からず、しかし堅すぎず、の“塩梅”が肝要。
甲板も無垢板一枚あたりの幅が450〜500mmという、ウォールナットにしてはとても贅沢な木取りで、これを3枚矧ぎ。
*参照
■ 工房 悠サイト > Gallery > Table > bwラウンドテーブル

フレーム構成のページで、適切にLinkできないことをお詫びします。
というより、正しく案内してもキャッシュのせいで表示できない場合が多く、こうして強引にLinkさせることでこの問題を回避させる意味もある(‥‥んなことを言っても、何のことか分からない人も多いのか知らん)。
ん、要するにフレームから脱却することですね。

ラウンドテーブル3

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • やはり、こういう「てりむくり」を取り入れたデザインでは
    組立にプレス機が必要ですね。
    テーブルのサイズと座れる人数の関係については日本インテリア
    デザイナー協会編集の「Table Design」にも似たようなデータが
    載っていました。
    ところで、私の父はかなり前から「北海道民芸家具」のライティング
    ビューローと椅子を使用していますが、先日、クラレインテリアから
    製造終了の案内が届きました。
    さらに昨日、飛騨産業が、その工場とブランドを継承することになったと
    いう案内がありました。
    三越からの購入ということもあったかもしれませんが、顧客管理の確かさ
    には感心しました。

  • >日本インテリアデザイナー協会編集の「Table Design」にも似たようなデータが
    そうでしたか。
    少し私も『ファニシンングデザイン資料集』に代わるものを探してみたいと思います。
    >クラレインテリアから製造終了の案内
    その話しは8月頃に知り合いの家具屋さんから聞いていましたが、仰るように「このたび、家具メーカー飛騨産業株式会社が、本年11月16日をもって「北海道民芸家具」ブランドおよび製造工場を継承することとなりました」とのニュースリリースがありますね。
    私の家具職人としての出自も「松本民藝家具」ですので、今後、この「北海道民芸家具」を、どのような形で飛騨産業が継承していくのかは気に掛かるところです。
    とりあえず「ブランドと北海道工場を引き継ぎ、生産を継続する」(飛騨産業サイト記載)とのことですので、落ち着くべき処に落ち着いた、という感じですね。
    しかし、いずれにしろ60〜70年代の日本の高度消費社会の時代を画したとも言える民藝家具の今後における展望となりますと、やはり苦難を強いられることに変わりはなく(「松本民藝家具」などとの競合の問題を含め)、飛騨産業の戦略や如何に、というところです。

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