工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

iWood4 という工芸品 Vol.2

iwood4

iWood 4 ブラックウォールナット材


デジタルガジェットを自然素材の木材加工品でパッケージする、という行動形態はどのように解釈すべきなのか。
デジタル機器を手にした時の冷たさ、よそよそしさ、親しみの無さ、マシン然とした佇まいへの違和感。
これらを中和し、人と親和性のあるものに装う、といった人間特有の受容のあり方を見ることができるよね。

ただAppleユーザーの少なくない人々が、その美しいデザインと佇まいに魂を奪われてしまっていることからすれば、そのような行為は理解しがたい逸脱かな。ははは。

数日前、ローズゴールド製フレームに約500個、合計100カラット超のダイヤモンドが貼り込まれたiPhone 4のケースが500万ポンド(約6億6,320万円)で発売されたと言うが(こちら)、Top画像はそれではなくiPhone 4対応の新しい〈iWood〉の方。
オランダはminiot社製造によるものだね。

ボクもAppleユーザーの端っこにぶら下がり、iPhoneを愛玩する一人ではあるのだが、外観を隠すという掟破りをしたのには理由があるんだ。
この〈iWood〉があまりにも美しく、工芸的クォリティーを獲得している事へのリスペクトゆえの事として許してもらうほかない。
さほどカネには執着心がないので、ダイヤがちりばめられた「iPhone 4 Diamond Rose」よりもスタイリッシュと見ているからね(やや強がりかな)。


かつて国内においてスマートフォン普及のの口火を切ったiPhone G3の導入の時に装着したのも、このiWoodだった。(このBlogにおいていまだなお少なくないアクセスを寄せる記事がこちら、およびこちら

さてこの2代目。
それまでの1代目と基本仕様は変わらない。
つまり1つの固有の木のブロックからスタイリッシュに全てが作られているのが最大の特徴だったが、これはそのまま踏襲されている。
電源ボタンも、音量ボリュームボタンもその部位の木部から切り離され、再度納めていることでクォリティーを高めているんだ。
そして全ての外部からのアクセスに対応するポートを確保しているのも当然。

ただiPhone駆体が大きく変わったことで、これへの対応の範囲で形状が変わった。
裏が以前の緩やかな湾曲から平面になっているのも当然か。(画像1、3、6)
音量ボリュームがシーソースイッチから+、ー 独立したボタンに変わった。これもiPhone 4 そのものを複製したかのようだね(画像1)
シリコン素材のケースなどではそのようなものも少なくないが、これが何と言ったって木で確保しているんだぜ。ワォッ !

miniot社の解説は以下の通り

iWood 4, by Miniot
I received an email form Miniot a short time ago. Seems they are ready for orders. I’ve never owned one before but they look pretty neat.

Made in Holland
Every iWood 4 is carved with great precision and care from a single block of selected woods.
Because of this, and because no two pieces of wood are alike, each iWood4 is unique.
We use the finest wood species we can find, obtained from well-managed forests, and FSC-certified supply.
All iWood 4’s are created in our ateliers in Schagen, the Netherlands.

A true enhancement to your iPhone 4
The iPhone 4’s aesthetics inspired us to create the all new iWood 4. Its contours provide a much better grip and comfortable handling.
On top of that, wood is completely transparent to any type of radiation, and insensitive to static, guaranteeing optimal performance of your iPhone 4.
Thanks to the inner construction, the iWood 4 fits like a glove, with the iPhone 4 push buttons recreated in wood, and all ports easily accessible.

Make it yours for free
To make your iWood 4 even more personal, we’ll engrave your message, monogram, art or logo for free for a limited time.

Pricing and availability
The iWood 4 is available to order at www.miniot.com.
We ship worlwide priority mail or FedEx overnight.
Deliveries start at august 30.

次にディテール部分について見ていこう。

*画像はクリック拡大

iWood iWood pack iWood inside iWood inside2 iWood thickness iWood joint iWood dock iWood iphone dock2 logo other

  1. 木でiPhoneを包むことで懸念される問題
    数種使われている周波数帯の電波障害(キャリア、Wi-Fi、GPS、Bluetoothなど)だが、miniot社によれば全くクリヤしているとのこと。
  2. 外形、上下のエッジ処理のデザイン
    ぐるりと上下に、いわゆる片銀杏で面処理されているが、これはiPhone 4の外形を模し、また木部としての脆弱性を補うものとしての物理的、かつデザイン的な処理と考えられるよね。
  3. iPhone 4の機能部分、ポートへのアプローチなどの処理
    • 電源、および音量ボタン
      このiPhone 4ボタンはiPhone 3GのシーソーSWと異なり、よりメカニカルな構造となっているけれど、これに見事に対応している。
      iWood3においてもそうであったが、同一材からレーザーカットされた部位をそのままそれぞれの機能ボタンとして使われているが、これにはもうほとんど極限的なこだわりを見ることができるね。
      木材加工のプロのボクとしても驚嘆してしまうほどのこだわりと精度。

      後述するけれど、かなり設計・製造において困難を伴ったことが予約発注者に知らされていた。
      恐らくはこの機能ボタンの製造の困難さも大きな要因の1つであったろうことは容易に想像できる。

      その操作性はヌードのiPhoneと比較しても、何ら遜色のないスムースさであり、また使い続けてきたiWood3の使用状況からしても、その耐久性に何ら懸念を覚えるものでもないと思う。
    • 開口部(カメラレンズ部、イヤホン差し込み口、ドックコネクタ差し込み口、マイク兼スピーカー開口部など)
      いずれも完璧。必要にして十分な処理がされている、そのエッジ処理も高精度。
      イヤホン差し込み口はやや大きく改善されている。
      iWood3の時は、Apple純正品のような細口でないと無理だったが、これによって3rdパーティー社のかなりのものに対応したのではないかな。
    • マナーボタンへのアクセスが悪すぎるとのネット評も散見されるけれど、これは木部としてのぎりぎりの構造的強度を確保してのものであることを考えれば理解されねばならない範囲のものだ。実際、ごつい成年男子の指先ではアクセスは困難かも知れない。
      ボクは小指の爪で操作しているが何ら問題はないけど。
    • さて、問題はドックコネクタ差し込み口
      純正品であればドンピシャのサイズながら、実は多くの3rdパーティ社のものが入らないほどの大きさでしかない。
      これには理由があるんだ。

      そもそも、このiPhone 4の設計が極限的な薄さを追求したものとなっていて、外部アクセスのポートのサイズ(幅と厚み)と、本体のサイズの差異はわずかしかない。
      したがってこのiWoodもポートへのアクセス部分は限界的な薄さとならざるを得ないことは理解したいと思う。
      事実、Dock部分の上端の木部はわずかに1.2t × 2.8w(しかも三角形の断面) であるからね。
      また両隣のマイク兼スピーカーに隣接し、これ以上開口部を幅広くすることはできないための設計であることも分かる。(画像4、8)

      むしろこうしたiPhone固有の設計上の追求に対応させたminiot社の困難な製造に敬意を表するというのがカスタマーの姿勢でありたいよね。
      であるとすれば、必要に応じてコネクタの方を合わせるしかないだろう。

      今回、ボクにとっては必須の2つのコネクタの厚み処理をして対応させた。
      1つは充電池の接続ケーブル。もう1つがストラップを装着させるためのコネクタ。
      いずれもベルトサンダーで両側合わせて2mmほど薄くすることで対応させたよ(画像7、8)

  4. 上下の結合処理と内部切削技法を見る
    • 上下の接合処理はiWood3と変更は無い。
      主要部は布で裏打ちされた硬質の樹脂素材が貼られ、iPhoneへの緩衝材と、結合処理機能を確保している(画像3)
      実はiWood3と較べると、とてもタイトな処理であり、iPhoneの装着には気をつかう。乱暴に取り扱わないでね。(画像4)
    • 内部は隅角のR径と同一の外径を持ち、かつ上下の段欠き成形のための形状を持たせた刃物で高速回転・切削している事は明らかだね。NC機械による高次元の切削技法だろう。
      しかしその仕上げ処理の美しさには圧倒されるほど。
      今回はiPhone 3Gの湾曲部を含む成形と較べれば、底がフラットだけ容易になっているはず。

  5. サイズ、重量
    恐らくは多くの人がヌードと較べれば重たく、大きくなってしまったのでは、との印象を持つかも知れない。
    以下、詳しくiPhone 4の元データとの比較を示そうか。

    • 厚み:9.8 → 11.8mm
    • 幅:58.6 → 63.8mm
    • 高さ:115.2 → 121mm
    • 重量:140g → 18g加算

    これをどう評価するかは様々だろうね。
    1つだけ補足すれば、一般に良く用いられるケース素材であるシリコンのものと較べてみると、何とその差は1.5gしかなかったんだ(これまで使ってきたGRIFFIN社のものとの比較 画像10)。
    木が重いという概念などほとんど吹き飛んでしまうほどのデータだね。
    ご覧のように(画像5)、底などはわずかに2mmほどの厚みしかないのだから。

  6.    

  7. 使用木材と、仕上げ塗装問題
    ボクが選んだブラックウォールナットだが、期待するほど良質のものでは無かった。ちょっと残念だったね。
    はっきり確認できないが、もしかしたらオランダ製ということを考えればヨーロピアンウォールナットかもしれない。ブラックウォールナットと較べると色が淡い。
    あるいは米国産のブラックウォールナットではあっても、一般に流通しているスチーム・ド・ウォールナットである可能性が高いだろうね。(人工乾燥過程で本来の色調が損なわれてしまっている)

    また仕上げ塗装はウレタンフィニッシュのようだ。
    確かにセミオープンポアほどのテクスチャーがあるものの、本来の素材感は失われている。
    これはしかし当然の処理と考えるべきかな。
    掌(たなごころ)で使われるものであれば、防汚、防水など、総合的に考えてのものだろうね。甘受すべきだ。

おおよそ以上のような記述でお分かりいただけたと思うが、木部でケータイを包み込むというチャレンジングな志向の背景には優れた設計思想と加工技術の粋が投下されていることが看て取れる。

実はネット上で「iWood」で検索すると、このオランダのminiot社の他にも数社が同様なものを市場投下しているようだ。
ただ残念ながら電源、および音量ボタンなどの機能部分のほとんどを削除し、ただの開口部として処理されたものが多く、木工加工技術としてはさほど見るべきものを持たないと思っている。
しょせん、Miniot社の劣位に設計製造されたコピー商品でしかないのでは。
もちろん価格も大きく差別化が図られていることはご想像の通りだがね。

因みにiWoodの方は6種の木材のうち、ウェンジを除き、75ユーロ。(iWood 3と較べると10ユーロ値下げされている)
$14.00の運送費を含め、支払額は€86.00 = $ 109.00。
円換算で1万円を切る程度かな。

75ユーロという価格だが、その品質からすれば納得のいく価格と見るが如何だろう。
冒頭のローズゴールド製フレームと比較すると1/70,000だものね(苦笑)

さてiWood 4にはユーザーの希望により任意のレーザー刻印が施される。
iWood 3の時はただの文字数の制約があるメッセージ、モノグラムなどテキストのみの打刻であったが、今回からロゴなどのアートワークスのレーザー加工が可能となっているんだ。
うちのURL入りロゴも破綻無く、見事に彫刻されていた。

画像9、右は昔、名刺入れとして入手した時のレーザー加工のものだが、その後のWebサイト起ちあげの際に慣れないIllustlaterを駆使して作った稚拙なロゴもこうして見れば見栄えもするから不思議なものだね。

なお、このiWood 4は現在はAmazonを含め、国内業者数社の代理店取り扱いがあるが、価格は15,750円ほどとかなり割高な設定となっているようだ。
■ Amazon:iWood 4
■ Yahooショッピング:iWood 4

しかしこれらは彫刻サービスは請けていない。
オランダminiot社からまとめ買いして、国内販売しているわけだから仕方がないだろうね。
こうして諸々考えれば、希望者は然るべく直接Miniot社のWeb販売サイトへとアクセスした方がはるかに良いだろうね。
Webに繋がるコンピューターと、クレジットカードがあれば誰でも OKだ。

なおこのminiot社のweb決裁に難があったので注意を要するよ。
クレジット処理における3Dセキュアで引っかかる。(不具合の理由は不明)
ボクの場合は結局はPayPalで処理した。

また発注から製造、配達までかなりのインターバルがあると考えておいた方がよいだろう。
ボクの場合、クレジット処理問題で一時は諦めかけていたりしたこともあり、正式発注が9月下旬になってしまったのだが、届いたのが先週の10日。
約6Week掛かった計算。それぐらいは我慢しないとね。

実は発売のリリースがあってから、数ヶ月にわたり製造困難とのことで市場供給は大きく遅れていたのだが、現在はそれなりに供給力が整ってきているのではと思われる。

急がないと、iPhoneのバージョンアップなどで入手できないかも (∩.∩)

用いられる樹種は以下の6種。
Walnut Padouk MahoganyOakCherryWenge

Walnutを選んだのは落ち着いた色調であることから。
最初はiWood 3の時には無かったWengeも魅力を感じていたが、やや硬質すぎ、耐久性において懸念を覚えたので、結局iWood 3の時と同様にWalnutとなった。
これは工房 悠にふさわしい樹種だしね。

なお、最後に余談かも知れないが、パッケージデザインにも触れておこう。
梱包材の白段ボール外装もシンプルにして美しく、これを開けると「iWood 4」のフォントが切り抜かれた真っ黒の中箱が表れ、小さな最小限の説明が記述された2つ折りの印刷物と、本体が収まっている。
これらはApple社のMacマシン梱包スタイルとほぼ同様のスタイルだね。
つまり、荷が安全にカスタマーの元に届き、これを開梱するユーザーへのトキメキを与え、かつ省資源を徹底追求したスタイルが意識されているというわけだ。

オランダといえば、フランスとドイツ、両者の文化圏にある伝統的なお国だが、こうしたスタイリッシュでクールな,モノ作りが根付いていることにはあらためて着目したいと思う。

さて、今後はこれをお伴として掌で愛玩していくわけだが、落下破損だけは注意しなければならない。
これまでiWood3は3度ほどの落下を経験し、大きな破損もあった。
しかしこの破損はiPhone本体へのダメージを抑止させるものとしての代償だったと考えているので複雑(苦笑)。
木の修理は得意であれば、さほど心配はしていないけれどね。

*補記
今回少し詳しく紹介してきたが、実はこのiWood関連記事は以前のBlogでもかなりのアクセス数があり、ネット上には類種の他の記事も多いながら、必ずしもボクのような木工芸としての適切な切り口での紹介は無かったので、あらためてこの新たらしいバージョンでも紹介の労を取らせていただいた。
もちろんminiot社の回し者ではなくあくまでも純然たる個人的なインプレッションであることを付け加えて終わりにしよう。

iPhoneというスタイリッシュなガジェットには、このminiot社のデザイン・技術者を奮い立たせる何ものかがある、ということを感じていただくとすればありがたいね。

* miniot社Webサイト:https://www.miniot.com/webshop/

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • そろそろスマートフォンとも思うし、買っても使わないかな、
    とも思う今日この頃です。(笑)
    ところで、artisanさんはiPhoneをどのように使っているのでしょう?
    工房で仕事中は使わないと思いますが、外出時の携帯&メール使用、
    インターネット使用、スケジュール管理などの他、写真や音楽も入っていますか?
    よかったら少しご紹介ください。
    それと、バージョンアップの噂があるのでしょうか?

  • おや、あれほど敬遠されていたacanthogobiusさんもスマートフォンですか。
    時代は動いておりますねぇ
    Macユーザーでもあるacanthogobiusですので、親和性、その他の理由でiPhone 4 大いにお薦めです。

    様々な使い方があるわけですが、基本的な考え方としては、おうちのデスクトップMacのデータの多くを、このiPhoneに同期し持ち歩くことができる、ということでお考えいただければ、理解が早いでしょうか。

    つまり音楽でも画像でもそうですが、他にもテキストデータ、PDF、Excel、カレンダー、etc,
    ほぼどんなファイルでも持ち歩けますし、また表示できます。
    これらいちいち、iPhone側で操作することなく、Macで作られたファイルを一括同期するのが基本ですね。

    これによりiPhotoで作った作品のスライドショーをiPhoneで再生したりもできますので、簡単なプレゼンも可能です。

    また双方がネットに繋がっていれば(3GキャリアでもWi-Fiどちらでも)、いずれか片方で作られたファイルも、瞬時にもう片方にも同期できるという無料のアプリ(例えば「Evernote」)もあります。
    つまり、「クラウド」という概念を大いに活用するというわけです。

    加えて、出先の周囲の情報を瞬時に掴み取ることができ(画像、音声、テキスト)、またここで入手し、付け加えた情報が瞬時に自分のMacに送られ、同期してくれる(特段の操作が無くとも)といった快適な使い方が、簡単にどなたでもできるということですね。

    最近活用しはじめたのが、Googleマップの経路検索です。
    iPhoneでもGoogleマップ・経路検索ができますが、ルートをマウスでつまんでカスタマイズするという一般的な機能は提供されていません。
    ところがMac側でカスタマイズしたGマップ経路をメールでiPhoneに送り、これを取得すれば表示、活用できます。
    iPhoneで自分流のルートでナビできると言うわけです。

    とりあえず、こんなところで止めませんと紙幅が足りませぬ。

    • iPhoneの更新についての回答がされていませんでしたね。

      これは全く分かりませんが、一般論としまして、例年第二四半期末頃に機種更新がなされていますので、また来年同時期に更新される可能性はあるでしょうね。
      その際、iPhone、およびiPadのOSであるiOSも更新されてくるでしょうね。

      更新内容は全く不明ですが、例のアンテナ問題を改善してのものとなることだけは間違いないでしょう。

      個人的にはsoftbankの2年縛りが開けるまではメジャーな機種更新が無いことを期待したいものです。

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