工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ワークベンチ、その活用事例

Tail vise

Tail Vise

ワークベンチ、いわゆる作業台に関する記事については過去何度も上げてきているが、体系的な記述での投稿はいまだ取りかかれずにいる。

怠慢との誹りを受けるのは甘受せねばならないけれど、根が無精なせいもあるが、工場でのワークベンチ周りの整理やら、撮影やら、さらには広く資料検索をした上でのテキスト記述やらと、多くのことをクリアさせずには結実しないので踏み切れないというところだね。

現在、Blog移行に伴う作業として、記事のアーカイブを少しづつ整序しつつあるところだが、あらためて思うこととして、1テーマで10回を超える(それぞれ1回の記事も少なくないボリュームで)投稿を重ねるカテゴリーもあったりと、良くもまぁ、ここまでやれたもんだと、我ながら呆れるほどなのだが、また同様のことを行うのかと考えると、さすがに少し腰も引けてくる。

さて、そんなわけで今回もこれまで同様の断片的なものでしかないのだが、ワークベンチの活用法の話しでお付き合い願いたい。

画像複数枚はいずれもワークベンチの作業の一コマ。
汚いワークベンチと見られてしまうかも知れないが、20数年も酷使し、オーナーである自分にとってはいとおしい奴なのでお許しいただきたい。
ただ確かに傷だらけではあるものの、ワークベンチとしての機能は何ら損なわれているわけではないことは言っておこう(苦笑)

今回はいずれもうちのスタッキングスツールの最終仕上げ工程でのもの。
座枠に脚部ほぞを差し込み、クサビ止めし、乾燥後の仕上げ削りなどをしているところである。


少し順を追って説明してみよう。

Tail Vise

まず最初の画像は以前も紹介したかも知れないが、ワークベンチのテールバイス(Tail vise とは言っても、作業者の手元側の万力のこと)のアゴに1本の脚を圧締し、また座板をワークトップに平滑に置いたところ。
(画像、矢印・白は鉋掛けする部分、矢印・黄色はViseに挟まれた1本の脚部)
この姿勢で飛び出しているクサビをカットし、手鉋でメチ払いし、またサンディングに移る。
座板はただ水平に置かれているだけなのに、あたかもそれだけが固定されているかのようにしっかりと圧締されているので、安定的に切削、研磨などの作業ができる。

手工具を用いた加工というものは、被加工材を安定的、かつ強力に保持することで、軽快で高精度な作業が可能となることは言うまでもない。

例えば今回のような貫通ホゾ+クサビのメチ払いなどでカンナを掛けるのは、決して容易な作業ではない。
重心が上にあるし、鉋台と、被加工材の接触面積は広く確保できないのでとても不安定なものとなりがち。
せめて被加工材を安定的に固定するということが必須の要件となってくるわけだね。

こうした機構がなければ、片手でスツールのどこかを支え、もう片手で鉋掛けを行うという、とても不安定な作業となり、それでなくとも容易ではないこうした鉋掛けはやっかいな工程となる。

このスカンジナビアンタイプの場合、圧締機構が2ヶ所あり、また単に2個所ということではなく、それぞれに特性があり、要求される条件により使い分けることができる。

また今回の脚部のようにわずかに50mmほどの圧締面積であっても、圧締個所への圧力は偏ることなく、均等に圧締するという優れた機構を持つので、とても使い勝手がよい。

Shoulder Vise

workbench

workbench/shoulder vise

次の画像はショルダーバイスにスツールを90度傾けて固定しているところ。

この姿勢で脚部と座枠の結合部へとアクセスし、仕上げ作業環境を確保する。

こうしたことが可能なのは、万力の機構でありながら、このアゴの部分には万力機構として必須の2本のバーが無いことによる。
つまりワークベンチという全体の機構の中に作り込まれた万力であるために、そうしたバーを不要なものとしているわけだね。

これは使用範囲を妨げない実に有用な機構となっている。
3 × 6尺ほどの大きな板をこの部分に挟み込んで上部木口にアクセスするというような芸当だって可能にするからね。

Work Top

workbench

workbench/worktop

次の画像は座枠に脚部ほぞを差し込み、くさびを打ち込んでいるところ。

こういった圧締も意外と難しい。
つまり、脚部の垂直度を確保しつつ、接合部が密着するように、しっかりと、均等に力が掛からなければうまくない。

脚部の位置決め治具を作り、ボデープレスで行うのも悪くないが(恐らく量産工場ではこの方法を取る)、このワークベンチでは画像のような方法を取れば良い。

片側を作業台の下からクランピングし、逆側はワークトップに穿った穴にハタガネを差し込むことで、それぞれ均等に圧締することができるというわけだ。

このワークトップの穴は本来はドッグホールという被加工材を挟むペグの入る穴なのだけど、これを活用したというところ。

このワークベンチ、気が向いたらまた体系的に記述したいと思うが、ともかくも作業台にはこうした機能性を有したものがあるという認識を持っていただき、良い作業台を活用するようにしたいもの。


合板で間に合わせにするというような考え方では、木工への志向というものをその程度のものに貶めるものになりかねないからね。

古来より日本の木工の現場では、職人に加工を任せるようになった場合、まず最初に与えるのが、鋸や鉋などの基本的な手工具とともに、当て台と言われる、3寸ほどの樺の1枚の板で作られた台だった。(訓練校でもそれなりに立派な当て台が、1人に1台あてがわれる)

つまり、何が無くとも、まずは当て台が基本であったわけだが、昨今ではフラッシュ家具と言われる合板の家具が一般的になったためか、こうした堅牢な当て台も不要となり、間に合わせの合板の作業台に取って代わられているようだ。
しかし無垢の頑固な家具を加工し、仕上げ、組み立てるには、やはり3寸板の樺の作業台は必須であることは昔も今も、何ら変わるものでは無い。

欧米においても、ワークトップは同様なもので、ここに複数の万力機構を有したものが一般的に使われているが、日本のボクたちもこうしたことを認識し、よりよい、自身の作業環境に即した、立派な作業台を使っていきたいものだ。

なおここでは詳しく述べないが、合板のワークトップがダメなのは

  • 剛性に全く欠けること(ホゾを打ち込むだけの堅牢な台にはなり得ない)
  • 刃物を使う作業台として、合板という素材はとても具合が悪い(繊維がぼろぼろになり、薄いFaceがほじれていく)
  • 作業台はボンドなどが付着する作業環境だが、この処理をすることでFaceが破ける

ま、これらは常識的な理解でお分かりになる範囲のことなので、この程度に。

また、ボクが使っているワークベンチ、スカンジナビアンタイプのものだが、制作に必要とされる図面などのデータはいくつもの出版物として刊行されているので、それらを参照すれば良いと思う。
ただこれをそのまま援用するのではなく、鉋掛け作業など、日本の道具のスタイルとは異なるところもあるので、一部カスタマイズした設計が必要となるかも知れないね。

最後の画像はクラロウォールナットをショルダーバイスで固定し、木口へアプローチしようとしてるところ

スカンジナビアンタイプ、ワークベンチ

Workbench

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 今までの、このブログの記載を参考にしつつ、最近作ったワークベンチですが
    まだ十分には使いこなせていないと感じますね。
    でも、毎回、工房で無垢の木のワークベンチに出会うのも楽しみのひとつです。
    まずは、鉋の練習も兼ねて、もう少しトップの平面を出す所から始めたいと
    思っています。

    ところで、artisanさんが最近良く使うカスタマライズという言葉。
    これは新しい単語でしょうか?それとも日本語英語でしょうか?
    私の乏しいボキャブラリーではカスタマイズ(customize)しか出てこない
    のです。
    カスタマライズだとcustomerizeと表記すると思うのですが、辞書を引いても
    出て来ません。
    でも、ネット上では散見されるようですね。
    もしカスタマイズと区別して使われているのでしたら、違いを教えてください。

    • いやぁ、失敬しました。
      私の言語能力の愚かさを指摘されてしまいましたね。
      訂正しまして、お詫びします。

  • そうですか?
    カスタマライズもcustomerizeも検索すると少なからずヒットします。
    「カスタマイズからカスタマライズへ」などと言っている企業も
    ネット上では見られるので、ある意味、造語かもしれませんが
    新しい言葉が生まれつつあるのかもしれません。
    ただ、両者をどのように区別しているのかは良く分かりませんでした。

  • -izeは、それを付けることで、自動詞、他動詞になる接尾語ですが、何にでも付ければ良いわけでもないですし、元々正しい言語もあるので、やはり本来の用法ではないと言うことですね。
    したがって一部の誤用はあっても、これが一般化することは無いでしょう。

  • こんばんは。
    今、artisanさんがワークベンチを作るとしたら
    どこか改良を加えますか?

    • >どこか改良
      スタンダードな“スカンジナビアンタイプ”への改良、という問いでしょうか。

      〈寸法〉
      置かれるスペース問題もありますが、一般には2尺(≒2フィート)ほどの幅のものが多いようですがせめて2.5〜3尺近いものがあれば甲板の仕上げなどに対応しますし、さらにスペースがあれば両側にVice機構を持ってくれば複数人が使えます。

      〈機構〉
      ドックホールという締め付けの際のストッパーのペグ穴も本来の1列のところを、2列にすることで被加工物固定が安定します。

      またワークトップにはこのドックホールの他、ホールドダウンの圧締金具を使うための穴を適宜あけておくととても有効です(最近の記事では11/30付けの4番目の画像)

      なおワークベンチのボデーはスペース活用上においても、手工具(手鉋、ノミ等)のツールチェストとして利用するととても良いと思います(この記事の最後の画像)。
      木工所では鉋を外部に晒しておく事が多いようですが、管理保管上からも過度に環境に晒さない方が良いですし、作業中手元のチェストにすぐにアクセスできるのは快適なものです。

      それと、ワークトップには一般にはツールレストと言われる、凹んだ部分を設けていますが、これもとても有用です。

      他にもいくつかありますが、このコメント欄ではこの程度に。
      納得のいく、堅牢でで至便なものを作ってください。

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