工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木工職人にとっての冬の寒さとは

日本列島、北から南まで凍り付いているね。
当地でも一時はミゾレのようなものが落ちてくる寒い1日だった。
見上げれば空一面雪雲に覆われ、雪国のような張りつめた空気が支配していた。

静岡という風土は良く知られているように黒潮の影響で本州の中では最も温暖な土地だ。
一年で一番冷え込むこの時期でも氷点下まで気温が下がる朝はめずらしいほど。
陽が射す日中ともなれば10度ほどには上昇する。

そんな環境であるので工場では機械室、作業室それぞれ1台の薪ストーブが置いてあるだけ。
ただ屋根まで6mほどあったり、隙間だらけの囲いということもあり、部屋全体を暖めるということにはならない。
しかしながら薪ストーブが稼働するのも、朝晩のそれぞれ3時間づつほどだ。

ちょっと脇道に逸れるけれど、この薪ストーブの薪だが、言うまでもなく家具制作で出てくる切り落とし、廃材(時には失敗した部品など/苦笑)など。
これが巧い具合に、一冬ちょうど需給バランスが取れるんだね。

時には足りなくなって慌てることもあるが、それは前年、まじめに仕事をしなかったことの証左として受け入れるしか無い。その結果、寒さを堪え忍ぶのは自らに下す制裁というわけだね。

水仙木工業としてこの時期に困ることと言えば、手が荒れるといった身体的阻害もあるだろうが、業務上としては、接着剤の低温障害あたりか。

そうそう、古傷が痛むと言うことはある。
鋸で切ってしまった指先の古傷、普段は塞がっているものの、手が荒れ、寒さで硬直しがちなので、この傷口がパックリと開いてくると、この痛さったら例えようがないほどだ。

他には‥‥?、あまり無いかね。

しかし、冷寒地ではそうはいかない。
雪下ろし、道路の雪かき等々、様々な冬特有の業務が待ち構えていることは当然としても、
実は様々な木工所固有の問題が出てくる。

ボクは松本で2度の冬を体験しただけでエラそうな事は言えないが、その時の最低気温は
-14℃ ほどだった。
降雪はさほどではないものの、かなり冷え込んだ。
冷蔵庫は、野菜を凍らせないための保温庫になり、水道はヒーターを入れ忘れると凍結、膨張して破断する。道路はガチガチの氷で固まってしまう。

話を戻そう。木工固有という話しだった。
何度か兄弟子に怒られたことがある。
甲板を矧ぎ、乾かしている時のこと。
これを放置しておくことがお叱りの対象だった。

どういうことかと言うと、部屋では薪ストーブがうなるほどに燃えさかっているわけだが、その部屋内に置かれた矧ぎ最中の板は、片面だけがストーブの熱に晒され、過乾燥状態に置かれ、反張してしまうというわけだ。
数時間単位で表裏を引っ繰り返さねばいけない。
そんな単純なことが、当時のボクは配慮できなかった。

朝一番に工場に出掛け、ストーブの火を熾したりするわけだが、暖まるまでは木工機械に素手で触れるのはキケン。
時として鉄が凍り付いていて、素手で触れるとその手先がくっついてしまう。
冷凍庫の氷が手にへばりつく。あれと同じだ。

あるいはまた、板に鉋を掛ける前工程として、水拭きしたりするのだが、もし業務終了時にこれを放置して重ね置いたとしよう。
翌朝、さて、まずは鉋掛けから始めるか ! と1枚の板を取ろうとしても、取れない。
下の板とくっついてしまっているからだ。決して多くは無い湿気であっても、零下10何度かの低温下では凍り付く。こうした信じられないことも実際、起きる。

さらに、鉋の刃の仕立て、「裏打ち」というのがあるが、当時のボクは下手くそだったことが大いに関係したことも認めるが、割れやすいのだ。
この「裏打ち」を経験していなければ理解できない話しだろうけれど、叩き方が下手だと、鋼部分にクラックが入り、その部分は全く使えなくなる。
これがあまりの寒さによる硬直化、つまり鋼鉄の靱性(ねばり)を弱らせ、割れやすくなっていたことも明らか。

今ではさすがにそうしたことは無くなったが、これはボクの技量がまともになったというよりも、静岡の温暖な環境に拠っているんじゃない、と言ってしまった方が説得力ありそうだ。

この地に住み着き四半世紀。
しかし住みかを替えるとすれば、しょせんデラシネなので南国でも北の地でもOK。
でもやはり木工をしていく上で良い条件でなくちゃね。
これだけ機械を抱えて、材料を抱えて、簡単に引越などできようも無いわけだが、キリッと引き締まった北国で過ごすのも悪くないと思う。
少しは裏打ちも上達しただろうしね。

  • 画像右:庭の日本水仙
  • 画像下:近隣の見晴らしの良い路傍に咲く水仙
  • YouTube:今日は「Yellow Daffodils」を、欧州で活躍するJazzトランペットのEric Truffazと魅力的なボイスを持つMalia featで。
    検索で探し出した動画だけれど、収穫だった。

[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=-pqWcCQcUOI[/youtube]

水仙

日本水仙 by iPhone


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  • こんばんは。
    冬に裏打ちする時は、仰る様に割れ易いので
    人肌程度に暖めてから、と教わりました。
    そのおかげか、幸いにもまだ割らずに済んでます。

    松本ってそんなに冷えるのですね。
    因に機会に貼り付いた手は、どうやってハガスのでしょうか!?

    • うずまきさん、あなたのところでは今年の雪は如何ほどのものでしょう。

      >裏打ち‥‥まだ割らずに済んで
      それはきっとあなたが上手だからでしょ。

      >機械に貼り付いた手
      アロンアルファ(シアノアクリレート)の剥離剤があるでしょ、あれ、
      というのはウソです。
      貼り付くと申しても、取れなくなっちゃうほどのものでは無いので、
      ちょっとデフォルメがちな表現でしたが、しかしやはりくっつくのは確かでした。

      冬の寒さを楽しみましょう (?!)

  • 今朝起きると庭が白くなっていました。
    気温が低いために午後になっても日陰は雪が残っています。
    通勤の日でなくて良かったです。
    私は関東以外での生活経験はありませんので、実感はありませんが
    砥石が割れる話は聞いたことがあります。
    でも、日本は日本海で熱交換して雪が降るために、この程度の気温で
    済んでいるんでしょうね。
    大陸はとんでもない低温でしょう。

    • acanthogobiusさん、
      砥石が割れる、ということは私は経験していません。
      が、砥石に含まれる水分が凍結し、割れるという事があるようですね。
      その対処として砥石側面に麻布を巻き、漆で固める、という方法が一般に取られている事は良く知られていますね。

      >日本は日本海で熱交換して
      ちょっとおもしろい解釈(表現)ですね。

      今日は当地、静岡でも午後から降雪が観測。

  •  小僧の頃、熱海近辺の現場に行って、「暖かいところとは何といいところだ」と痛感致しました。 
     今日の付知は日中少し晴れ間が出て、雪掻きをしたところは溶けていたのに、先程また降りはじめて数分で真っ白です。遠く国道ではレスキュー車のサイレンが鳴っています、誰か事故ったな、、。

     機械(鉄)に手が凍り付いたら、お◯っこをかけるのですよ(苦笑)。山仕事のときに実際やったことがあります(恥)。

    • たいすけさん、本年もどうぞよしなに。

      自分の手に、自分のお◯っこを、というのも、なかなかアクロバティックな感じですね。

  • こんばんは。
    数週間前の雪が日陰に残っていますが、量は大した事はありません。
    しかし、昨日からの寒気はキツイです。
    (凍結で破損した水道の修理を先程終えました)
    昨年末からMacの修理等慌ただしい限りです。

    ○しっこですか。了解致し…ません(笑)
    しかし、山なら背に腹は代えられぬ所なのでしょうね。

    • うずまきさんもMacユーザーでしたね。
      そう言えば私の場合も5年間使い続けてきたPowerMacがちょうど1年前の年越しの時期に絶不調になり、明けて1月6日に現有 iMacに更新されたのでした。

      こちらでは今朝方にかけ降雪。
      それも庭一面が真っ白という、当地にしてはめずらしい積雪でした。

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