工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

柄谷行人氏らの起ち上がりに快哉(脱原発100万人アクション)

フクシマの過酷な現状を超え‥‥

フクシマを巡っては日を追うごとにその深刻度は増す一方で、冷温安定化へ向けてのプロジェクトは困難を極めている。
その現状というものは、見方によってはチェルノブイリ原発事故をはるかに凌駕する惨状を呈していると考えられている。

事態収拾へ向けて東京電力が出した改編「工程表」[1] も、小出しに出される一連の現場の実態を聞くにつけ、信頼に値するものと言うよりも、現場から遠く離れた本社のエグゼクティヴ技術屋の机上の空論という方が正しいような代物であることが読み取れ、またさらに空しさがつのってくる。

このBlogでは、これまでこの原発問題に関しては「人類と相容れない原子力」という位置づけから、関連するいくつかの記事をあげてきたところだが、あらためて著者(artisan)の立場を明らかにしておいた方が良いと思う。

ボクが社会人1年生のスタートを切ったのは中部電力の社員としてだった。
電力マンの一員だったというわけだ。
ここで通信設備を設計監理する職場で働いていたという経歴を持つ。
その頃の中電は「芦浜あしはま原発」立地計画が頓挫し、一方の浜岡原子力発電所は計画段階で、通産省の電源開発調整審議会(電調審)の認可が下りるという頃だったように記憶している。(運転開始は退職後)
その後、一身上の理由で転職したということもあり(反原発で辞めたわけではないけどね)、必ずしも、この浜岡原子力発電所について、何らかの意思表明をするということもなくこれまできた。

むろん、平和と民主主義の申し子のような戦後派でもあるので、同世代の多くの方々同様に原子力に対しては強いアレルギーを持っていた。
しかし、そうした思いと、反原発の意思表明をし、何らかの具体的なアクションを起こすという狭間にはとても大きな距離と飛躍があるわけで、いわば「砂のような大衆」の一人でしかなっかたと言えるだろう。

しかしこの度、3.11を機とする反原発の多くの方々の運動の成果として、浜岡原発の稼働停止という事態を迎えた今、弛まずに運動を担ってきた彼らに深く敬意を表したいと思うし、同時にこれまでの自身の不明を恥じねばならないと思っている。

かりそめにも、いっとき電力マンだったという経歴を持つ身とは言え、原子力に関して決して専門的な知見を持っているわけでもなく、またまるで若くもなく、かといって年齢にふさわしいだけの人格者でもないボクが「反原発の意思表明をし、何らかの具体的なアクションを起こす」ことにどれだけの意味があるのか、そうした問いかけにすっくと起ち上がり、堂々と応えるということなどできようもないわけだが‥‥。

しかし以前このBlogへのコメントにあったように、専門家でもない者が批判するのはナンセンスというような次元を超え、今や全くの素人が、反原発・脱原発の意思表明をし、何らかのアクションを起こすというところに、実は大きな意味があると考えている。

つまり、こうした原発に対する何らかの意思表明をするというのは、何か政治的、思想的な運動という次元を超えた、新しい社会運動としての性格を持つに至っているということを考えて見たいと思う。

考えて見れば、日本における原子力平和利用(=原発導入)というものは、実はヒロシマ・ナガサキの街が世界初の原爆により灰燼に帰し、凄絶な苦しみにあえぎ、その硝煙さめやらない時期であったというのに「原子力の平和利用」という触れ込みで導入されていった経緯というものほど、米ソ冷戦という時代背景があったとはいえ、イデオロギーに充ち満ちた政治的選択であったことは良く知られたこと(NHK番組「現代史スクープドキュメントー原発導入のシナリオ~冷戦下の対日原子力戦略~」1/32/33/3)。

あるいは現実的にも地震列島、日本という狭い島国に52基もの原発が設置運用されているということ自体、科学立国の先端的分野という装いにくるまれながらも、その実態というものは実に政治的な代物であることの証しでなくて何であろう。
まさに一昨年の政権交代まで継続してきた55年体制とともに、国策として歩んできた道筋であったと言えるだろう。

しかし3.11をもって、科学立国なるもののその実態(脆弱な安全対策+安全神話+原子力問題のタブー視)は白日の下に晒され、自民党一党支配体制の崩壊から遅れること2年目ではあったが、まき散らされている夥しい放射線の下、やっと葬送の調べがあちこちで静かにおごそかに響き渡りつつあるのだ。

あのイケイケドンドンの小泉元首相でさえ、原発の新設などもうできないと漏らしたと言われるし、中電浜岡の4号,5号基の稼働停止という衝撃は、いかに防潮堤を嵩上げし、もう安全ですから運転させてね、との意向を示したとしても、恐らくは再稼働の期待は望み薄と言うのが大方の見込みというものだろう。

確かに昨日のドイツからの報道にあるような、かの国の鮮明な脱原発、再生可能エネルギーへの怒濤のごとくのシフトチェンジということにはならないとしても、この日本においても大きく軌道修正されていかざるを得ないというのが、現状から導き出される唯一の方向性というものだろう。

紀伊國屋シンポから 〈 脱原発100万人アクション 〉 へ

3.11から3ヶ月が経過しようというこの週末の6月11日、「脱原発100万人アクション」が全国規模で繰り広げられる。(いや、欧州、豪州、台湾など海外勢も含まれる)

現在、この企画には114件のアクション、4025件の賛同個人、605件の賛同団体が登録されている。(2011/06/07 22:00時点)

都内でもいくつかのデモンストレーションがあるようだが、この1つには柄谷行人氏ら、知識人(あまり好きな呼称ではないが)の顔ぶれが見られるはず。


一昨日の6月5日、紀伊國屋ホールで開催されたシンポジウム「震災・原発と新たな社会運動」を拝聴。
磯崎 新山口二郎大澤真幸柄谷行人、(司会:いとうせいこう)というパネラーから分かるように、それぞれの活動フィールドにおいて、この国を代表するような知の面々が壇上に並んだ。
(客席からの発言での参加:岡崎乾二郎奥泉 光丸川哲史浅田 彰 の各氏)

一般的なメディアでは報じられることは少ないかもしれないが、社会学、政治学、思想哲学、美術評論、建築、文学などの世界で強い影響力を持つ面々。

恐らくはこのテーマで、これほどのメンバーでのシンポが企画されるということ自体、異例なこと。
何かが動いたな、という感じさえしてくる。
しかもシンポの結語が四の五の言わずに6.11デモに起て、というのだから驚いた(笑)

それぞれに3.11を受けての衝撃と分析、解説、そして今後の展望というものを語ってくれた。
柄谷氏はそれぞれのパネラーの発言を受けてコメントすると言いながら、結局は原発の代案を示すことを条件、などという前に、まずは「停めろ」という運動の方が先だろ! と明確に語る。

大澤氏は『atプラス 08』での論考通りに『ソフィーの選択』を引き、原発と、子どもの人命を対比した場合、迷うことなくこどもたちの命を助けることを優先すべきことは明らかと重ねる(本文要約してくれているサイト)。
そして「友愛のコミュニティー」の発露の評価。

山口氏は会場に来る前に菅総理と会って議論をしてきたと語る。
菅が辞めても、その後に続く民主党党首(=首相)はそれ以下の人物でしかないのが残念なことと言い放つ。(確かに候補に挙がるそのほとんどが松下政経塾だもんね ←最悪)

客席からの発言では、やはり浅田先生のエネルギッシュな話しがが異彩を放っていたかな。
つまり、これまでの個別のテーマを対象とした市民運動とは異なり、反原発の運動は、まさに社会運動であることを論証。ドイツの緑の党の運動との対比で日本の市民運動を展望する。

ともかくも、その結語は、さらに議論を闘わせよう、というものではなく、まずは街頭に立とう、デモをしよう、叫ぼう、ということだった。

思い出してみるがいい。まるで70年代の熱き時代を彷彿とさせる行動規範のようだ。
磯崎氏はすかさずあれを繰り返しても仕方ないじゃないの、とくさすが、遮るように柄谷氏は国策としての原発であれば、市民は資本の運動そのものへの対抗軸を作らなきゃダメ、と釘を刺す。山口氏他もこれに応じる発言。

柄谷氏、2年ほど前に地元の講演会で聴いた時より、覇気があったな。

そして、ボクも6.11、地元静岡のアクションに参加しようと思っている。
デモのしっぽについて歩こう。
こんなの40年ぶりかな。
パレードの後ろの方でへっぴり腰の年寄りがいればそれがボクなので、声を掛けてください。

街頭で市民が意志を表すというのは、日本では絶えて久しい感じがするが、議会制民主主義とともに、民主主義という制度を構成する重要な要素だ。
日本もやっと真っ当な社会になってきたようで、重々しい気分も晴れてくる感じがしている。

先に示したように、100万人に届くかどうかはともかくも空前規模の全国一斉の脱原発アクションが繰り広げられようとしている。
呼びかけている団体は、その多くが3.11以降に起ち上がり、あるいは起ち上がろうとしている若い未経験な人たちと聞く。

私の知人(普通の市民)の幾人かも、友達を誘って、その地元のパレード(デモ)に行くために、今からどんなプラカードを作ろうかとはしゃいでいるらしい(夫を説得するのが大変だとぼやいていたが)。

ゴロンと、今、日本社会は動き出しつつある。
多大な犠牲を払いながらではあるが、3.11から何を学び、どのような希望を見いだすのかは、ボクたち市民一人ひとりの意識の在り様に掛かっている。


☆NEWS !! 城南信金理事長、浜岡原発廃止訴訟の原告団に加わる ♡
今日のニュースで、「浜岡原発の廃止を求める訴訟を7月1日に起こすことになり、ここに城南信金の吉原理事長が加わる」ことが明らかに。 ワオッ !!

*参照(YouTube):城南信用金庫が脱原発宣言〜理事長メッセージ


*【6.11 脱原発100万人アクション】こちらから

《関連すると思われる記事》


❖ 脚注
  1. 英訳ではRoad mapのはずだが「行程表」ではなく「工程表」という表記なのが、なんかヘンな感じ []
                   
    
  • 「脱原発」頭の中では大賛成なのですが、その覚悟はまるで
    できていない、というのが実情です。
    10年後に脱原発を目指すドイツにしても、実は電力の多くをフランスの原発に頼っている、ということらしいです。
    10年後、というようなソフトランディングにしても、それは容易では
    ないと思われます。

    ましてや、今すぐ止めるとなると、何が起きるのでしょう?
    生活のスタイルを見直すだけで済むことではなさそうです。
    おそらく、自分の今の仕事が無くなる、くらいの覚悟が必要なのでしょう。
    実際に何が起きて、何が起きないのか、中立的な立場で判断できる
    人もいないように思われます。
    確かに今は脱原発ブームであるでしょうし、一部の人たちは今がチャンスだと思っていることでしょう。
    でも、私にはその覚悟ができない。

    • 脱原発、という電力供給源の大きな転換への動きは、フクシマクライシスを受けての地球規模での人類の賢明な、そして決定的な選択なのだろうと考えています。
      命(数百万、数千万人という単位での、しかも使用済み核燃料の管理を考えると未来永劫に大きなリスクを抱え込む)と引き替えに、これまで通り潤沢な電力消費の社会を続けるのか、ここで立ち止まって持続可能な電力エネルギー源への転換を図っていくのか、という話しです。

      確かに原発立地促進でやってきたために、他の選択は絶対的に困難であるかのように考えがちですが、冷静に考えれば自然エネルギー確立へ向けての移行期間における供給態勢整備も決して無理ではなく、またエネルギーの生産ー利用のあり方の見直し(効率化、分散化)により、CO2削減にも繋がるでしょう。

      >ドイツにしても、実は電力の多くをフランスの原発に頼って
      ドイツの電力輸出入のデータは、かなり恣意的に語られているようですが、
      総量としては純輸入ではまったくなく、輸出量が多いという
      データもあります。

      仕事が無くなる等々の懸念というのは、原発推進派による悪意の脅しじゃないの。
      もうそんな脅しは通用しないところまで市民は覚醒しちゃってる。

  • 僕も脱原発に賛成です。
    今この選択を大人達が出来なければ、
    子供達は大人を見放し、未来に希望が持てなくなるのではないでしょうか?

    • mu-さん、仰るように、この問題の一方の主役はこどもたちですね。

      未来を生きる彼らには選択の余地は無く、放射線汚染によりもっとも強いダメージを受けてしまいます。

      早尾貴紀さんのBlogでは家族離散しながらの疎開の経緯を綴っていますが、こんな家族を生んでしまっている原発というものを今後も継続するという選択は、果たして正気の沙汰と言えるのでしょうか。

      私のこの問題への思いも、mu-さんと同じく子供たちの未来(未来の他者)を奪わないための今を生きる私たちの責任と考えていますよ。

    • すみません。もう少し‥‥
      この本文では、「脱原発100万人アクション」への参加を促すような記述にはしていません。私個人の思いを綴っているだけです。

      ここでは少し踏み込んでお話しさせていただきます。
      小さな子どもさんがいらっしゃる親ごさんもご覧になっているかも知れませんね。

      mu-さんのお考えに沿って、この「脱原発100万人アクション」を考えますと、これにそのような親ごさんが参加するということであれば、年齢によってはまだ自覚できないかも知れませんが、そのお子さんは自分の親が自分の命を守るために、自分を愛するがために、アクションに起ちあがったことを誇りに思い、そして世代間の繋がり、絆が強まるというものでは無いでしょうか。

      この全国規模、世界規模の企画には、さらに増えて147件のアクション、4753件の賛同個人、657件の賛同団体がエントリしているようですね(06/10 09時、)

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