工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

馬蹄形アームチェアの課題



馬蹄形という形状は、どちらかと言えば堅いデザインの多いボクのものとしては少しばかり異質なものになる。

この発想は

  • ラミネートという成形手法
  • 畳ズリを持つ椅子(和室への対応)

こうした要件から導き出された手法で、ある種の必然性を持つ。

つまりボクにとっては初トライのラミネートという手法であるため、もっともシンプルな形状のデザインとし、これを座枠と、畳みズリの脚としたわけだ。
しかも単一のRのジグで両方やっちゃおうというスマートさ(賢さ or ずるさ?)
これらの手法はデザインにおける合目的的な、合理性追求の結果でもある。

デザインを考えるとき、1つのモノにあれやこれやのエレメントを加えていくのは決して良い結果は生まない。
明確なデザインを志向するには、可能な限りにシンプルに、あるいは統一したデザインエレメントで攻めていくというのが基本的な考え方だろう。

一方ただシンプルにすれば良いというものでもなく、そのモノに制作者がどのような美意識、造形感覚を込めるか、ということがなくちゃいけない。

この椅子の場合、2つの馬蹄形枠組みとこれに組み合わされるエレガントな前脚、そしてアームのラインがそれにあたる。
前脚はややテーパー状に削り込まれ、前傾させ、緩やかなカーヴでアームへと接合する。
こうしたデザイン処理により、ある種の破調が生まれ、“動き”作られる。

アームはたっぷりとした広さで肘を支え、笠木へと滑らかに連続的に繋がっていく。
アーム上面は内側に緩やかに大きく削り込まれ、全ての部位において無段階的に丁寧にシェイプされ、整えられている。

このように普段取り組んでいるハコモノとは様々なところでアプローチが異なり、いくつもの種類の手鉋、小鉋を駆使してのものであったりするので、それだけに独特の、作り手ならではの“快楽”を覚える。

使い手も様々だろうが、手に伝わる感触によって、それらの造形を静かに感受し、楽しんでくれる人もいるだろうしね。

さて、このアームチェア、ほぼ完成したわけだが、座を作らねばならない。
近隣の街で椅子張りをしている職人に張ってもらっている。
これは本皮を張る予定。

下の画像はその座板の型板を作っているところ。
この板をテンプレートとして倣い、15mmの合板を成形加工する。
(厚い合板をいきなり成形し仕上げるというのは得策では無い。
いったん薄い合板を型板として成型し ← 薄いので成型は楽だ この型板をテンプレートとして厚い合板で複数枚の複製を作る)

このカーヴの切削だが、ご覧のように手鋸で切っている。
手鋸の弾性、しなやかな鋼の剛性を利用するのである。
この程度のカーヴであればジグソー、帯ノコなどを用いるよりはるかに手鋸の方が早いし、また美しくカットできちゃうんだね。(250Rほど)

手鋸でカットされたものは次に手鉋で仕上げられる。

つまり切削も仕上げも日本の在来手工具で行う。
これは何も伝統工具利用に傾斜させようといったストイックな考えからのものなどではない。

いかに早く(生産性)、かつ美しく(高精度)加工するために導き出される、必然的な手法というわけだ。

手鋸であれば手鋸の弾性によるしなりが、切削運動の方向性を制御させ、なめらかにカットでき、また手鉋によることで、その台鉋ならではの制御された削りで滑らかなカーヴを生み出すことになる。

これがジグソーであったり、ヤスリであればどうだろう。
切削における規制は掛からず、細部においてあらぬ方向へと誘われてしまうリスクの高まりは必至だ。

道具の選択とはボクたちの作業においてかくも重要な領域の問題となる。

おっと、今日はタイトルと内容が乖離しちゃってる。
最後に軌道修正だ。

タイトルのように、実は課題がある。
ラミネートの手法は再考し、この馬蹄形を曲げ木でやってみたい。


hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 結局、その課題が何なのかは明かされませんでしたが
    最近は、個人工房で採用するような曲げ木の手法も色々
    開発されているようで、アルミホイルで包んで、アイロンなどと
    言うのもあるんですね。
    artisanさんが、どのような手法を採用するのか楽しみにしています。

    • “課題”は記事最後にもあるように260Rをラミネートでは無く、曲げ木で行おう、というものです。
      実はこの断面(50 × 28 mm)のものを曲げ木で行うというのは、樹種にもよりますがまず容易ではありません(破断、割裂、歩留まり)。
      この“課題”を何とかクリアしてより高品質なものにしていきたいですね。

  • 質問のしかたが悪かったですね。
    なぜ、曲木を課題としたのか?というべきでした。ラミネートに何か
    不都合があったのか、それとも曲木に何か思う所が出で来たのか?
    ということです。

    私は50X30mmまで曲げたことがあります。
    ケンポナシだったので、どちらかと言えば曲げ安い部類でしょうか。
    ケンポナシの中でも比較的目が粗く、靭性の高い材だったと思います。
    今でもいくつか工房の片隅に転がっていますが。

    • その成形の精度から考えた場合には、曲げ木よりはラミネート(積層曲面成型)の方が良いと考えられます。
      ただやはり、ラミネートはしょせん接着剤の強度に依存しているところから、将来における脆弱性の露呈が気懸かり、というところです。

      しかしこれも実際、長時間を掛けてのTestが必要ですので、そうしたことも含め、今後の課題ですね。

      >ケンポナシ
      この樹種が曲げ易い、ということは無いと思いますがね。
      acanthogobiusさんの根性の結果でしょう。

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