工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

アームチェア Yuh2022

ダイニングで用いるアームチェア。
新築住宅への調度品制作の構想を抱え、若いカップルがショールームに来訪していただいたのでしたが、いくつかの家具制作依頼の中の1つです。

椅子の展示品にも1つ1つ掛けていただき、気に入っていただいたものの、気紛れに旧い画像データを示したところ、工房起ちあげ間もない若い頃にデザイン、制作したアームチェアに刮目されてしまったのでした。

型板も処分してしまったところから、弱ったなと思いつつも、この旧作のアームチェアを新たにブラッシュアップさせ、制作することに。

意匠の基本部分はそのまま残しつつ、ワイドのボリュームアップと、前後脚部の造形をよりシンプルなものとして描き直す。
椅子としての基本的な機能を押さえつつ、過剰な装飾を排しつ、エレガントな美しさを追求。

また座板と脚部の結合の仕口も、より強度を増すよう改変。

材は真樺。一部、笠木などにミズメも混在。
笠木は105mmの厚みのものが必要で、ミズメの赤身で105角のものが潤沢に在庫していたことから、これを用いる。

座板は540mm幅もあるが、1枚板で構成。
真樺という材種そのものが大変品薄になっている中にあって、これはなかなか贅沢な木取りです。

座板の座刳り
座板の座刳り(矧ぎ無しの 1枚板)

バックの意匠は、元々のものを大きく変えるものでは無いのですが、幅広にしたこともあり、それに合わせ微調整。
この3枚の背当たり、機能上重要なのはその下部の貫ですね。
この部位は第3腰椎を支えることになり座り心地に大きく影響してきます。
この貫部分で上半身を支えてやることで、長時間の使用においても、身体に余分なストレスを与えること無く、寛ぐことができるものです。

脚部と座板の結合
初期のものはは、いわゆるマルーフの椅子の仕口を前後とも援用するものでしたが、前脚はそのままマルーフバリの段欠きで納め、後ろ脚は座板に枘を設け、段欠きの納まりとの併用。
少しややこしい仕口になったのですが、強度、納まりを考えれば高度でパーフェクトな仕口。

座板×脚部 段欠き 枘
座板×脚部 段欠き 枘(テスト)
この段欠きですが、替え刃式のルータービットを特注し、ベアリングとカッターの径に9mmの差を設け、トリマーにて加工し、4.5mmの段差のある加工を確保

図示の通り、ベアリング:10φ、カッター:19φ 。
その差異は9mmとなり、隅のRは9Rに。
したがって、ここに納まる脚部の角は3分の坊主面で面取りすることで、3方向及び、隅丸もジャストフィットすることになります。

なお、替え刃式にしたのは、他でも無く、研磨等で径が変わってしまうことは許容されないからです。
常に一定の段差、4.5mmが保証されねば、この仕口の強度はでません。

因みにこの超硬刃のカッター刃は四方、同一の寸法の正四角形ですので、4回、替えられるということです。つまり、研磨することもなく、摩耗しても4度使い回せますので、ランニングコストは研磨のものよりむしろ安価な計算となり、より合理的であると言えます。

段欠きの仕口というのは、密着度が全て。ここが甘いと、強度は大きく劣ることになります。いかにボンドが強力であるとは言え、木部の密着度が確保されないようでは、やがて破綻するのは目に見えていますからね。

またこのルーター刃の製造ですが、昨今、ネット通販等で多様な刃物の既製品が手軽に入手できる時代で、私の若い時代からすれば実にありがたい商品市場ではあるのですが、まだまだ望む全てが既製品で入手できるわけでは無いですね。
必要であれば、目的とする設計書を作り、刃物屋に特注することです。
(本稿、 制作におけるいくつかのポイントを残しておこうと思います、続)

hr

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