アームチェア「大和」を組む
うちのアームチェアの定番「大和」(「暮らしの中の木の椅子展」第1回入選)を組んでいるの図だね。
この「大和」も初期のものから貫部分をH型にするなど少しづつ改良を重ねてきた。
今回はまた新たな改良を施し、10数脚を加工し終え、
とりあえず5脚ほど組んでいるところ。
Lot制作を基本とする椅子の場合、あらかじめ組み終え、完成品を在庫しておくようなことはあまりしない。
在庫の管理が大変だからね。
椅子は大抵2桁単位で木取り、加工し、部品で在庫させ、受注の度ごとにこれを組み上げ、完成させることにしている。
さてところで椅子に限らず、家具の組み上げにもいくつかのコツというものがあるだろうね。
今日はそこで1つだけ書き留めておこう。
いわゆる板差しではなく、こうした椅子も含めての框組みについての話しになる。
組み立てには枘穴と枘にボンドを塗布し、これを嵌め合わせ、完全に接合させることが求められるのだが、この場合玄翁の叩き込みだけで行うのか、あるいは端金(ハタガネ)を併用して行うのか、といったところの問題。
恐らくはほとんどの場合、この併用型が多いと思うがどうだろうか。
ところでこの併用型であるが、枘の5〜8割を玄翁で叩き込み、残りをハタガネで締め付けていくという人が多いのではないかと思われる。
無論それでも構わないのだが、玄翁で叩き込み嵌め込んでいくということに重点を置いた方が何かと都合が良いものだ。
つまりハタガネでじわりじわりと締め付けていく方法はあまり良い結果をもたらさないということがある。
高い接合度を確保するには、一定の強さでのショックを伴う叩き込みが、良い嵌め合わせを確保するに向いている場合が多い。
逆にハタガネで残り2〜5割の締め付けを行うという方法では、その作業が大変なばかりか、良い接合を確保するのが難しい。時にはハタガネで締め付け、ボンドが乾くまで圧締しておくことは良く行われることだが、後に緩んでくるというリスクが伴うものだ。
これに比し、十分に打ち付けて接合させたものは、このリスクははるかに低い。
これは詳述はしないが論理的説明も付く考え方であろう。
もう少し具体的に説明すれば、枘の数が多く、枘嵌め合いの摩擦抵抗が大きな場合、良い接合をさせるのはなかなか困難なものだが、ハタガネだけで締め込んでいくよりも、締め込み圧力を与えながら、大きな玄翁で打ち付けることで困難だった接合が一気に解決することは多いもの。
やはりジワジワ型よりも一気にバシッと叩き込む方が、摩擦抵抗の限界を突破させるのに向いているようだ。
このような場合、接合度が良ければクランピングは無用な場合も少なくない。
つまり一度接合できたなら、ハタガネを外し、そのままの状態でボンドの乾燥を待つのがよい。
もとより、これらは嵌め合いにおける加工精度をどのように設定するかでこうした手法の考え方も異なってこよう。
うちは加工対象のほとんどは広葉樹の比較的硬いものが多いと言うこともあるが、枘穴と枘との寸法は、同一としている、
例えば11×45mmの枘穴である場合、枘の方も同じ11×45mmとする。
誤差の許容値は厚み方向は0.1mmほど(但し決してきつめにはしない。枘の部品の方を片手で持ち、枘穴にはきつめに入る程度)
厚み方向はいちいち嵌め合いを見るなどと言うことはしない。
ノギスで計測し、ピタリの寸法に加工すること。
巾方向は手で入る程度では弱く、やや強めにする。
恐らくこれらの考え方というものは教科書通りだね。
これはあくまでも基本であり、個別具体的に対応させていくのが良い。
1つ具体的事例を挙げれば‥‥‥。
うちの「座布団椅子」という定番の椅子があるのだが、この背のラダーは12本。
個々の枘の断面サイズは11×22mm。
これを上述のような精度で加工すると、まず上手く組めないだろうね。
下手すれば破損してしまう。
この場合どうするかと言えば、端末と中央部の3個所をややきつめに加工し、残りは少し巾方向に逃げておく(0.1〜0.2mmほど)。
このことで組み上げもスムースに行き、なおかつ枘抜けも避けられる。
このように上手な組み上げをするには、それぞれの状況に適合させつつ、ビシッ、バシッと叩き込むことを基本とするのが良いようだ。
なお叩き込む道具であるが、画像のようにボクは昔からショックレスハンマーを使っている。
家具職人の多くも同様の手法ではないだろうか。
メリットは様々だが鉛の粒が封印されている構造だろうと思われるが、ハンマーを持つ手からのパワーが加重されて叩く対象に伝わり、一方作業者への反動は逆に少ないという構造は最初に手にしたときの驚きと喜びは大きいはず。
またボデーは厚めのウレタンで覆われているので、そのパワーの大きさにもかかわらず、与える衝撃は少なく、傷を付けることがないというのもありがたいこと。
したがって当然にも、当て木など無用。
因みに画像のショックレスハンマーの場合は2Kgのもの。この種のハンマーでは比較的大型。
普段は0.9Kgのものを使っているが、この椅子の後ろ脚と台輪を繋ぐ枘は30mmの長さがあったりするので、大型でバシッといくのが良い。
一件重量級のハンマーで叩くことの危うさを覚える人も少なくないと思うが、軽量のもので何度も何度も叩くことによる表面への打ち痕は無視できないものとなる。
意外にも重量級のハンマーでたっぷりの圧力を掛ける場合の方が、この打ち痕は少ないという事実がある。
付け加えれば、作業台もしっかりしたものでないと叩き込むパワーが適切に伝わらない。
合板などで作られた作業台では叩きつけるパワーは合板のふにゃふにゃ、だらしなさで削がれ、結果作業者は疲れ、接合も具合が悪いだろう。
うちのワークベンチ、トップは2〜3寸の厚みの樺材で構成されている。(作業者側には3寸の厚みで巾はその×2,つまり180mm、他は2寸の厚み)
また床の根太も他の部位の2倍の強度を確保している。
木工作業における快適な作業環境の1つに、この作業台の品質を上げなばならないことは言うまでもないが、ぜひ必須の品質を確保し、一生涯の使用に耐える頑固なものを作るのが良いだろう。
*参照:工房 悠(木工用作業台)
acanthogobius
2008-9-5(金) 12:39
ということは木殺しなどもしないのでしょうか?
自分の場合は締まり代をとり過ぎているかもしれません。
乾燥などによる緩みが怖いという思いが強いのでしょうか。
0.5ミリ位の締まり代になっていると思います。
あまり大きなショックレスハンマーは使用していませんが
ハンマーだけでは入らずにバキバキ音をたてながらポニー
クランプで組むことが多いです。
組んだ後もピストンの原理でホゾが押し出されて来そうで
接着剤が固まるまではクランプを掛けたままにしています。
木工舎
2008-9-5(金) 15:42
>受注の度ごとにこれを組み上げ、完成させることにしている。
とのことですが、保管中に材の方が動いたりして、後から組み立てる際に上手く組めなくなったりというようなことは、ほとんど起きないものですか?
もちろん、保管には温度や湿度に対しての当然の配慮を行っての上でのことだとは思うのですが。
他でもこの方法をとられているところがあるという話を聞いたことがあるのですが、最長保管期間はどれくらいまで可能なのか?など、気になっています。
artisan
2008-9-5(金) 23:26
acanthogobiusさん、
そうです、ほとんど“木殺し”はしません。
厚み方向で締まり代を取ることはしないと思いますが(割裂しちゃう)、巾方向ではスミ1本多く取るくらいかな。
(良く穴空けの時、スミの真ん中、外側、内側、などと指示することがありますね)
09/05のエントリに詳述しました。
木工舎さん、コメントありがとうございます。
Lot制作の場合のパーツの保存問題ですね。
たくさんつくって、たくさん売ってください。
09/05のエントリに詳述しました。