工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

一時代を画した〈マホガニー〉という材種

色の名称に〓マホガニー色〓(#692927)というものがあることは良く知られているが、他の木材でそのように色を表す一般名称として使われているのはあまり無いと思う。
これはマホガニーという材種がそれほどまでに独特な色調を持つということと、ポピュラーな材種であったということを意味している。

ポピュラーな材種ということでは、マホガニー時代、という時代呼称があることからも分かる。
18世紀、フランスではルイ15世、16世の頃になるが、クイン・アンとかロココ、さらにはチッペンデールと言われる様式家具の時代に代表的に使われた材種だからだ。
またギターにも良く用いられてきた材だね。

そしてボクにも〈マホガニー時代〉というものがかつてあった。
かれこれ20年ほど前のこと(ホントの時代とは1つ桁が違うけれど ♪苦笑)。
この頃、近隣の木工所が業務をたたむということで在庫処分の依頼を受け、元親方とローズウッドなどとともにマホガニー材をまとまった量で譲り受けることになった。

当時は既にワシントン条約で本当のマホガニー材は輸出入禁止であったはず。
(“本当の”という意味は、規制を免れて、多くの代用品が出回っているため)
しかしこの木工所は1970年代に大量に仕入れていたようで、その残りだった。

34mmから100mmを超えるフリッチ材まで様々の厚みがあったが、とにかくすばらしい材で、中米から産したいわゆる真性マホガニーと言われるものだった。

こういうことは続くもののようで、その翌年だったと記臆しているが、親方筋のところから、これは34mmばかりだったが、1㎥ほど、ほぼ同等クラスの真性マホガニーが入手できた。

これは余談だが、ジョージ・ナカシマのところには、世界の銘木が求めるとも無く、集まってくる、という話がある。
ぜひ名匠に使ってもらいたい(買ってもらいたい)という力学が働くからだろう。
ボクのところにもこうして集積されてきている、ということは、
もしや‥‥、同じような力学が  苦笑 ← ありえん話しか

マホガニー材でこしらえてきた家具で、資料で示すことのできるものは以下
エグゼクティヴ デスク
ビックテーブル
李朝棚

その材としてのすばらしさは、一時代を画しただけのものがあり、ただそれだけで推して知るべしだが、やはりボクたち家具職人の手で刃物を入れたとき、本当の意味ではじめて分かる。

マホガニーという名前こそ知っているものの、多くの職人(あるいはデザイナーも含め)は扱ったことが無いせいか、材を見せても、これラワン?などと言われ、ガクッと膝を折られてしまうことがある。
確かに一見しただけでは、ラワンとは色調が違うだけじゃん、などと言われるのも無理は無い。
しかし、いったん刃を入れれば、その重厚さ、靱性の高さ、細胞配列の緻密さ、刃掛かりの良さ、つまり物理的特性から、加工性の良さまで、まさに第1級の品質を持つことをただちに知ることとなる。

加えて、当然ながらも、その仕上がりの良さは独特のものがある。
(当然ながらも‥‥、という表現だが、上に上げたような性質を持てば、必然的に仕上げも良いのは当たり前)
絹目の肌、独特の美しい光沢、あるいは、経年変化でより濃色が進む。

そして今回、久々にマホガニー指定での家具の受注があった。
ブラックウォールナットを含む数種の材種で見積書を提示したところ、マホガニーにしたいとの意向を示す。
無論、価格は最も高いものになった。

着工はまだ先になるが、倉庫の材木整理に併せ、奥から引っ張り出し、荒木取りすることに。
画像は1.1寸(34mm)のものだが、13尺の長さがあり、1枚を2つに割っても、6尺(1,800mm)のテーブル甲板が取り出せる。

FWW誌などには、10mを超すとも思われる材が写ったセピア色の写真が出ていたりするので、これなどはまだまだ小さなものでしなかいのだろう。

これまで大切に使ってきたものの、さすがに、うちの在庫も底が見えて来た。
もう2度と入手はできない稀少材であるので、大切に保存しつつ、ここ一番の登場を待つことになる。
当然にもワシントン条約規制対象材ということでの、使用者としての責任も重い。
安易に切ってしまわずに、有効に、大切に使っていただくオーナーとの巡り会いを待って、切り出される。

画像Topは荒木取りの途上(切り粉が赤い)
下は、手板(塗装見本板[無着色のオイルフィニッシュ]、下は鉋掛けしただけの色調)

ところで、真性かどうかの見極めだが、ボクはこの他にアフリカンマホガニーという材を扱ったことがある。その比較で言えば、
アフリカンは、色が薄く、肌理が粗く、仕上げがシャキッとせず毛羽立つ。靱性に欠ける。
真性の1つの特徴として、導管から細かな黒いゴマのような粉が出てくることがある。
リボン杢が特徴の〈サペリ〉はよく見掛ける代替品だ。

最後に‥‥、どうか、ラワンと間違わないでもらいたい。お願いだから。

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  • 以前、名古屋の材木店を訪ねた時、店員さんとの話が貴殿の話に
    及び、「あそこには良い材があるからね」と聞いたことがあります。
    求めるとも無くお金が集まって来る方法はないかな。(失礼)

    ラワンも最近は貴重になり、ホームセンターなどではお目にかかれなく
    なってしまいました。

    • いやどうしてどうして、
      acanthogobiusは私などよりはるかに経済的余力と、
      精神的余裕があると思っていますが、違いましたかね?

      >名古屋材木店
      あそこには、何かと良い材木を手当してもらっていました。

      うちはビンボウですが、おかげで材木だけは並かも知れない。

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