工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

国立新美術館・ポンピドー・センター所蔵作品展を観て

裏口、ロゴ
六本木のTV局に所用で出掛けたついでに、同地域に新たにオープンした「国立新美術館」に立ち寄った。
美術愛好家ならずとも、この地域が上野に次ぐ新たな美術館ゾーンになることは知られているところだろう。
既に4年前に開館した森美術館(六本木ヒルズ森タワー)、間もなく開館予定のサントリー美術館(東京ミッドタウン)、そしてこの国立新美術館と、都心の一角に3つの美術館が集中オープンする。
さて、オープン間もない美術館では企画展「異邦人(エトランジェ)たちのパリ 1900ー2005 ポンピドー・センター所蔵作品展」を開催中で、これを観覧した。
正面新しい美術館のオープン記念展であるので、当然その美術館の所蔵作品が展示されるのかと思うのは大きな勘違い。
オープン記念として企画されたのはパリのポンピドー・センター所蔵の作品を展示するものだ。
この美術館は構想当初「ナショナル・ギャラリー」と仮称されたのだったが、実は所蔵作品を一切持たない。貸しギャラリー、レンタルスペースというわけだ。
日展、二科会、国画会などの公募展展示場などとして機能する。
これまでは東京都美術館が大小様々な公募展を担っていたのだが、十分な展示スペースが確保できない、スケジュールが一杯、などという状況の打開策として構想されたのが、この新美術館という訳だ。
この新しい美術館への様々な評価は後述するとして、まず企画展の感想から。
20世紀の世界的芸術の中心地、パリに集った外国人芸術家たちの作品約200点を展示するもの。
世界に誇る近現代美術の殿堂、レンゾ・ピアノ設計で有名なポンピドゥー・センター収蔵のものからだ。
藤田嗣治:カフェにてレオナール・フジタ(藤田嗣治)をはじめ、ピカソ、シャガール、ミロ、マティス、モディリアーニ、キスリング、ブランクーシ、ジャコメッティ、マン・レイ等々。
様々にアイデンティティを模索してたどり着いたパリ。フジタのように故国から追われるように求めた安住の地、パリ。
異郷の地でエトランジェとしての葛藤をバネとした創作活動の成果だ。
これだけ20世紀を俯瞰する芸術作品が一堂に揃えば確かに壮観。
しかしこれだけでは美術教科書を復習うようなもの(無論、ホンモノとの邂逅はそれだけで至福ではあるだろうが)。
こうした美術史に名を残す著名な芸術家以外にも、現役で旺盛な制作活動をしている若いエトランゼたち(南米、アジア、アフリカなどの)の作品もいくつかあり、ポンピドゥー・センターの美術界における現在的意味を感じさせるものともなっている。
チケットを購入する時は、かなり混雑するとのおどしも受けたが、さほどでもなく、一つ一つの作品をじっくりと鑑賞できた。


ところでまずこの巨大な建造物だが、正面は全面ガラスのカーテンウォールで覆われているのに驚かされる。
このあまりにも有り体で何か投げやりな名称を持つ美術館の総工費は一説では365億円とも言われているが、土地はもともと東大の生産技術研究所跡地の活用なので、土地取得の費用は含まれないのだろうから、巨額の建築費と言って良いだろう。
同じハコモノ行政とはいえ、こうした文化行政への投資へのケチ付けは無粋なものとしてあまり問題にされることも少ないであろうことは想定できるところ。
設計は黒川紀章。文化庁Webサイトによれば(新国立美術展示施設(ナショナル・ギャラリー)(仮称)の設計について)、コンペによる選定ではなかったようだ。
円錐状上のレストラン概観したところ、ボクにはあまり趣味の良い設計とは思えない。
氏の「メタボリズム」という設計思想は良く分からないが、若い頃の代表的な建築物、銀座のとば口にそびえる「中銀カプセルタワービル」を見れば大凡のコンセプトは分かる。(美術館の展示場では黒川紀章展も開かれていて、このカプセル内部が良く分かる写真も掲示されている)
近未来社会の住居をイメージさせるカプセル状の構造物を「新陳代謝」させていくということなのだろうけれど、これは都市の破壊と開発を促進させるようなものではなかったかとの批判も肯ける。
同じ丹下健三門下の磯崎新であればもっと刺激的で魅力あるアートな建築にしてくれたと思うが、国が施主であれば黒川紀章指名も当然と言えるのだろう。
因みに氏は「日本会議」代表委員の一人。(なるほど)
カップに虹ところでこガラスウォールだが、2Fカフェでお茶していて、うなじに当たる西日が暑いほどだった。店員は済まなそうに詫びてくれたが、真冬の日射しにしてこうなのだから夏はどうなっちゃうのだろうか。(WEbサイトにはこうある〔日射熱・紫外線を100%カットする省エネ設計〕 ?? 店員は「これから夏対策としての遮光工事がはじまるので…でも夜はステキですよ。またお出でください…」とのこと ?)
画像はこのカフェでのものだが、西日が差し込み、カップに美しい虹を映してくれていた。紀章氏の設計はここまで想定していたのか。フム。
ウェグナー、イージーチェアなお、館内は比較的木部も多く取り入れられていて、至る所に休憩が出来る場所が確保されているが、そのほとんどに北欧のデザイナー家具が使われていた。
気がついただけでも以下のようなラインナップ。
〈ハンス J ウェグナー〉

  • Yチェア
    楢のソープフィニッシュの方ではなく、オイルフィニッシュ(2Fカフェ内)
  • イージーチェア(1F、2F各休憩コーナー)
  • スリーレッグシェルチェアは3種とも
     ・レッドウレタン
     ・ブラックウレタンフィニッシュ
     ・ブラックウォールナット、ウレタンフィニッシュ(1F 休憩コーナー)

ウェグナー、スリーレッグ〈アルネ・ヤコブセン〉

  • アントチェア(B1F カフェ)
  • セブンチェア
    ・ビーチ(3Fレストラン内、画像、逆さま円錐上がレストラン)
    ・ブラック、およびホワイトのウレタンフィニッシュ

これらは確かに新美術館のモダンな佇まいにフィットしてとけ込んでいた。
しかし何だね。何故日本のデザイナーのものではいけないのだろう?
アントチェア途中で取りやめたとはいえ「ナショナル・ギャラリー」を標榜するのであれば、名称にふさわしく日本のデザイナーのものにすべきところではなかったのか。
何も狭隘なナショナリズムを鼓吹する積もりはさらさらないが、採用にあたってはどこまで真剣に検討されたのかは知りたいところ。
国民の税金で建造・運営されるハコであり、海外へ向けアートを発信する場所であればなおさらのこと、日本のデザイナーのものを置き、掛けてもらい、日本のデザインの秀逸さをアピールすべきではなかったのか。
国立という行政運営の性格上、国内の特定の個人のものを採用することの是非からの回避というお役人的配慮の故なのか?
さて、この国内最大規模の美術館だが、どのような美術館として位置づけられているのだろう。

国立新美術館の活動方針
国立新美術館は、コレクションを持たず、国内最大級の展示スペース(14,000m2)を生かした多彩な展覧会の開催、美術に関する情報や資料の収集・公開・提供、教育普及など、アートセンターとしての役割を果たす、新しいタイプの美術館です。
内外から人やモノ、情報が集まる国際都市、東京に立地する美術館として、「美術」を介して人々がさまざまな価値観に触れる機会を提供し、相互理解と共生の視点に立った新しい文化の創造に寄与します。
        公式Webサイトより

レストラン、前こうした官僚の名文からは伺うことの出来ない様々な問題が指摘されている。
横浜美術館館長 雪山行二氏からは「七つの展示室のうち五つは団体展専用となる。……私が関心をもつのは、残る2室で年に合計8本開催されるという大型企画展である。そのうちの数本は自前の展覧会を考えているようだが、文化庁が付ける予算には限りがある。多くは新聞社・テレビ局の企画と財布に頼らざるを得ないだろう。それにしてもわずか6人の学芸員でこれだけの仕事をこなすのは至難の業だ。
横浜美術館も時折、新聞社・テレビ局から大型企画展を共同主催しないかという提案を受ける。開催時期はすべて06年以前である。07年以降、この種の展覧会は、東京国立博物館と国立西洋美術館を除けば、ほとんどすべてこの新美術館に集中するだろう。横浜はカヤの外かな。」と首都圏の美術展業界に大きな影響が出ることを懸念する言葉があった。(「業界に影響必至 国立の新美術館」朝日マリオン04/05/20)
Web上には他にも様々な論評があるようだが、その嚆矢は次のものに尽きるのかな。
「日本美術のゴミだめを、国が作るというなら、それはそれで一つの役割があるのかもしれない」“爆”(針生一郎)
*画像キャプション 上から(Topを除き、クリック拡大)

    
  • >六本木のTV局に所用で出掛けたついでに、
    うーむ、artisan もついに、TV出演するようになったか(笑)。
    いや、質・量ともにたっぷりのご紹介、artisan をここまで動かし得たんだから、こんど TOKYO に行ったらぜひ、国立新美術館に寄ってみよう。
    コーヒーカップに映ったみごとなスペクトル――きっと、ガラス窓の一部にプリズムが施されていて、それで屈折率の差となって現れたんだね。Newton も、まさかこんなところで自分の発見が演出されるとは、思ってもみなかっただろう。
    まさに、「新」美術館だなあ……。

  • 風に吹かれて さん
    4月からはモネ大回顧展というのがあるようですよ。
    体力に自信がありましたら、3つの美術館をはしごするのも一興かと。

  • ものすごぉく興味深く、楽しく拝見しました☆
    私は海外の美術館の企画展にはあまり興味が無いのですが
    ここはいつかアホみたいに素晴らしい建築を見に行きたいです、笑。
    「日本のデザイナーの椅子を」に大賛成。
    それも「日本人デザイナー=柳宗理」みたいにお決まりではない所にセンスを感じてみたいです。

  • サワノさん、行くの、あなた?。
    カフェには美味しいケーキもあったよ。
    >それも「日本人デザイナー=柳宗理」みたいにお決まりではない所に…
    1票入れます。
    しかしこの記事をリリースした二日後に黒川氏が石原都知事を倒すために都知事選に打って出るとはね〜。
    国立新美術館のオープンに合わせるかのようにね〜。
    ぼくぁ、知らんよ。そんな積もりでエントリした訳ではないからね。
    しかし国立美術館ともあろうところが、公式WEBサイトの何とチープなことよ。
    TOPページに黒川氏サイトのハイパーリンクをしてるなんて、すごすぎ。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.