工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

木工家具制作におけるサンディング (その3)

サンディングバナー
サンディング無しの仕上げ
少しサンディングから脇道に逸れるが、仕上げ一般について別の角度から考えてみたい。
第1回目の項で、日本建築における仕上げ手法の特異性について語ったことをさらに少し膨らませてみる。
木工家具の製作にも様々な仕上げの考え方があることは既に少し述べてきたが、鉋の掛けっぱなし(サンディングをしない)、ということについて。
ある著名な木工家の仕上げには鉋を掛けっぱなし(サンディングは一切しない)、ということもあるようだ。というよりも、それをあえてテクスチャーとして尊ぶ、という考え方に基づいているようだ。
最初、展示会でそれらを見たときはその仕上げ方に驚くとともに新鮮な感覚を受けた。
いわゆる鉋枕(鉋掛けで生ずる際の浮き上がりを指す)であったり、鉋のビビリ[びりつき]などをあえて残して、それを味わいとしているのだった)
あるいは別の著名な木工家の家具では針葉樹を用いた仕上げに槍鉋を掛けて仕上げるという方法を取っていることは良く知られたところだ。
当然にもこれにはサンディングはされないのであろう。針葉樹という柔らかい材質という理由もあるが、せっかくの槍鉋の仕上げのテクスチャーが損なわれてしまう。
こうしたことは仕上げ方法における1つの見識として考えることができるだろう。
ただやはり先に述べたように逆目も何も残したままでの仕上げということであれば、必ずしも一般的なものというものではない。
余程鉋の切れ味を高め、優れた技能で臨まねば、その仕上げの品質は作家の意図から離れてキッチュなものに陥るリスクを抱えていると考えるべきだろう。
さらに言えば、こうした仕上げが安易かというと決してそのようなものではない。平滑に仕上げることは、ある程度の鉋掛けの技法と、それなりのサンディングシステムがあれば相当程度に仕上がる。
しかし一方、鉋仕上げフィニッシュでは、相応の美意識と、鉋、槍鉋の技能が求められる。
木工家具の様々な展示会、家具ショップ、あるいはWebサイトで見る家具の中には、板面の平滑性を求めず、如何にも無垢で、手作りでござい、というような仕上げ手法を訴えるものもめずらしく無いが、ボクの眼からすればちょっと違うんじゃないの、と思わされるものの方が多いかも知れない。
形を崩す、あるいは侘びさびを求める、という手法はかなり高度なものと知るべきだろう。
であれば凡庸なボクのような木工家はしっかりと鉋で平滑性を求め、良いサンディングをする方が真っ当な考え方だろうね。
切削における鉋とサンディングの違い
次に切削の工程において鉋を使うことと、サンディングで行うことの違いと特性についても見ておこうと思う。
ボクはどちらかと言えば、その限界と懐疑が問われつつあるとはいえ、近代合理主義の考え方に近いからなのかも知れないが、目的とする結果が同じであれば、より合理的な手法を取るべきと考えたい。
ここで言えば、例えば目的とする寸法にまで平滑に、あるいは目的とする形状へと、切っていく、あるいは削っていく、そのプロセスは基本的にはどのような手法を取ろうとも構わないとさえ考えている。
したがって例えば一定の寸法まで平滑に削るためには、鉋であれ、サンダーであれ構わない。
いわゆる量産工場では手鉋など無用であるばかりか、かえってそのような手業は忌避されるものと位置づけられるだろう。
(鉋を扱うことのできる職人がいないという理由もあるだろうが、それ以上に手鉋を使わなくて済むような設計と仕上げのシステムが整えられているためだ)
大きな工場では大体どこでもワイドベルトサンダーが設備されているだろうから、無垢の板であっても、これで削れば良い。
要するにサンダーと、鉋とどちらが切削能力があるのか、同時にまたどちらが切削精度が高いのか、という基準から考えて、選択すれば良いだろう。
個人の工房ではワイドベルトサンダーなど設備されているところはまず無いと見て良いだろう。
あるのはせいぜい3点ベルトサンダー、あるいはポータブルサンダーだね。
確かにそれらでもある程度は削ることが可能だろう。
しかし残念だが、ワイドベルトサンダーのように厚み規制が効かないので、正しい意味での平滑性を保証することは、ほぼ無理と考えるべきだろう。
(無理を承知でこうしたサンダーで削っている木工所も沢山あることは知っているが、ここではそうした低品質な木工を対象とはしていない)
一方手鉋であれ、下手なポータブルサンダーよりもはるかに切削性能は高いものだ。何も手鉋を使うことに職人的倫理観を求めたり、職人的ストイックを求めずとも、実際の切削能力において、サンダーよりも切削能力が高い、というところに選択の要を求めることが出来るものなのだ。(このあたりのことは意外と誤解されているかも知れない)
しかも、平滑性という重要な切削工程における必須要件を満たすためには、(ワイドベルトサンダーという利器を除けば)圧倒的と言っても良いほどに手鉋の方が優れていると断言しておこう。
以上平明に述べたつもりであるが、切削工程での道具、機械の選択において、合理的手法という考え方からしても鉋の選択ということが非合理的で頭でっかちな考え方ではないことにお気付きいただけただろう。
さらにもう1つ付け加えれば、切削肌ということからすれば、これまた同様に鉋で切削した方が良質な板面を求めることができると言うことは言うまでもないことである。
したがってワイドベルトサンダーの圧倒的な切削能力の前にあっても、この切削肌、という1点において鉋は優位に立つと言って良いものなのだ。
(ここでは切削能力を考えてきたが、ひとまずは生産性という要素はあまり重視してこなかった。確かに手鉋は疲れるし、鉋は研がなければ切れない。研げば鉋はチビる。
一定の切削能力を鉋に与えるためには、相応の修行も必要となる。
こうした生産性における彼我の差異は、別途考慮すべき問題ではあることは言うまでもない)

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  • 私はワイドサンダーやベルトサンダーの無い環境、つまり、自分で仕事をするようになってはじめて、それらの機械の威力を思い知らされました。と、同時に鉋などの手工具の有用性にもあらためて気付かされましたが。
    鉋で切削した面をペーパーで仕上げたものと、ワイドサンダーで仕上げたものは、見た目の違いはわかりにくいですが、触ると明らかに違いますよね。切削肌という点から考えると、やはり鉋に勝るものは無いと言うことになるのでしょうか。数年から数十年というオーダーで見たときの仕上げ方法による経時的な変化(色、ツヤ、手触り等々)の違いというのも気になっているところです。

  • TAZAWAさん コメント感謝します。
    やはり工場での体験が生きていますね。
    様々なプロセスを体得することでそれらの特性が見えてくるものです。
    >仕上げ方法による経時的な変化
    はより明瞭になっていくのではないでしょうか。

  • NO-3サンディング見ました、なかなか深いです。
    鉋とペーパー。木工作業に従事している人達は、同じ感覚でサンディングをしていると思います。たとえば、椀を伏せた、あの丸みをサンディングしてみたら?。なかなか曲者ですよ。

  • daughter’s papaさん、含蓄深いコメントありがとうございます。
    プロの塗装技師から見たサンディング仕上げの品質は、木地の職域での基準とはまた異なる厳しさがあるのは確かなこと。
    良くAさんに仕上げが悪いと言って突っ返されたことが屡々 汗;

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