工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

作業台、あるいはWorkbench(WorkTopの素材を考える)

現代では欠かせない合板という木質材料

Workbenchに用いる材料などについて見てきたわけですが、これまでは無垢材を対象としてきたものの、現場においてはワークトップ(甲板)については合板を用いるケースも少なく無いという実態もあるようです。

今回は補記的にそうした「木質材料」について少し見ていきたいと思います。
現在、建築から家具まで、使われる木材の多くはこの「木質材料」、特に合板が用いられています。

近代の合成樹脂接着剤の進歩を背景とし、工業資材として物理的安定が確保され、現場での施工も容易であることなどから普及しているわけです。

私の新しい工房兼住宅にも、大量の合板を使ってきました。
主要には床の下地材として、28mm針葉樹構造合板を数百枚、作業場の壁面にはポプラ合板を、これも100枚ほど。

これほどの枚数を使いますと、合板で懸念されるホルムアルデヒドの放散は、規制上、かなり抑制されているものの、果たしてその実態はどうであるのか、いわば人体実験に曝されている感もありますね。

建築資材としては耐力性、耐水性(プライ層の接着剤が耐水性をもたらす)などの効用が活かされ、また加工、施工なども容易なところから、現代建築では重要な資材になっていることも確かです。

こんな工業資材に依ること無く、すべて無垢材で建築できるのであれば良いのですが、私のような限られた資金での建築、あるいはその後のメンテナンス等を考えれば、そうした選択などできようもありません。

作業台・ワークトップに合板?

さて、本題です。
作業台、Workbenchのワークトップとしてはどうでしょうか。
加工も、施工も容易、比較的廉価に求められる、などと言うところから、これを用い、適宜ストッパーを設けたり、バイスを付属させたりと、業種内容に適合させたものが作られていることでしょう。

このように、作業台のワークトップに合板を用いる方法は、合板の特性の1つでもある様々な容易さを活用しているのだろうと察せられますが、ただ作業台、Workbenchに求められるであろう剛性、あるいは長期の過酷な使用環境に耐えられる耐久性から見たとき、果たして残念ながら無垢材には到底およばないというのが現実です。

合板は耐力性、あるいは寸法安定度などがあるとは言うものの、板面に対し、直角方向からの圧力など、あらかじめほとんど想定されておらず、したがって、こうした要求に応えられないのは無理も無いところです。

強い圧力で板面を叩けば、凹むでしょう。
無垢材ももちろん凹みますが、その比は較べようも無いほどのもの。
(無垢材は湿気を与えればある程度復元しますが、合板の復元はありません)

また凹むことに加え、表面が割裂するリスクも高いです。
無垢材とは異なり、数ミリ厚の単板で構成されている以上、これは仕方が無いところです。
割裂という損傷を受ければ、板自体の構造的強度は大きく疎外されます。

無垢材も表面に傷が付きますが、複層の単板で構成されているわけではないので、全体の強度が落ちるということにはなりません。

また作業台であれば。その作業工程上、ボンドの付着などは避けられないものですが、合板では、こうした除去にもかなり微妙な配慮が求められるでしょうが、無垢材であれば、スクレーパーなどで削ぎ取れば簡単に除去できます。
合板にスクレーパーなどは、およそ考えられません(フェイスが間違いなく剥離します)。

以上、これらはそれぞれの物理的特性から導き出される基本的な要件で、木工経験者であれば、広く一般に共有される事柄でしょう。

鉋イラスト

合板の問題はこれで言い尽くされるものではありません。
もっと重要な事があります。
無垢材の加工、組み立てにおける枘の接合部など、場合によっては大型のハンマーで叩き込むことも屡々です。

こうした作業は、合板のワークトップ上ではかなり無理があります。
数値的に表現できれば良いのですが、無垢材と合板では反発係数が全然違ってきますので、ハンマーの圧力の効果には大きな差が出てくるのは明らかでしょう。

フラッシュ構造の組み立てであれば、ほとんど枘など関係しませんので、合板のワークトップでも構わないと思います。
一定の面積と、相応の強度さえあれば事足りるでしょう。

枘構造の家具も組み上げは、枘を正しく、しっかりと打ち込むことが肝要です。
もちろん、打ち込むという工程を避け、クランプで締めることもできます。

いずれこれらに関しても記事に上げて見たいと思いますが、クランプで締める方法に過度に依存しますと、合理的で高精度(カネの精度など)の組み上げは、かなり無理が生じます。

しっかりと打ち込むことがまずは基本です。
クランプはその上で、接合を保持させるために有用なツールではありますが、枘を締めるために完全なもの足り得ません(このあたり、正しく理解される方々ばかりでは無いと思われますが、ここではこれ以上詳述しません)。

叩くことと併用することでクランピングも活きますが、まずは叩き込むのが良い結果をもたらしますので、これを前提として考えますと、それにふさわしい剛性の高い作業台が必須ということになります。
(なお、プレスによる組み上げは、より高精度で合理的な組み上げが可能ですが、ここではテーマの関係上、対象としていません)

先のコメントでも「あて板・ワークベンチを見れば腕前がわかる」とありましたが、あながち間違いでは無いのかも知れません。
日々の木工の内実、あるいは意欲というものが、その人が作る、作業台の品質として表れる、ということになります。

このBlogにコメントをくださるacanthogobiusさんですが、アマチュアでありながら、立派なワークベンチを作られ、毎週末、意欲的に家具制作に挑んでおられるようで、好ましく思われますし、そうしたアマチュアの方々も少なく無いものと視ています。

鉋イラスト

既に合板の作業台で日々木工に勤しんでおられ職人が、あらためて作り直すのも大変なことでしょうけれど、新たに木工に従事する方であれば、何はともあれ、無垢材のしっかりとした作業台、ワークベンチを作っていただきたいものです。

その職人が、鉋を置き、木工人生を終えるまで、有能なアシスタントとして過酷な作業に付き従い、大いに働いてくれることでしょう。

何事にも例外というものはあります

さて、これまで作業台のワークトップには、無垢材を、ということで考えてきましたが、合板という木質材料ならではのメリットは無視できません。
容易さ、廉価などと、その特徴を記してきましたが、無垢材では無理な中央部の要所要所を透かし、刳り抜きすることで、クランピング作業などを容易にさせる作り方もあるようです。

最近訪問した知人のワークベンチがそれでした。
厚く貼り合わせた合板は大きなメッシュ状に刳り抜かれ、どこからでもクランピング可能な構造となっているのでした。

上級者ならではの、合理性追求の結果の設計思想ですね。

複雑な構造での家具などを組み上げるには、有用で合理的な構造というわけです。
無垢材では、その細胞配列の物理的性質からして、こうした刳り抜きはできない相談です。

作業台を不要と考える木工環境

最後に、私の体験談を。
修行時代の話、無垢材での家具制作をしているある木工所に世話になっていた時期がありますが、ここには作業台はありませんでした。
その工房は100坪を越えるほどの床面積があるのにです。
そこには所狭しと様々な木工関連機械が設置されているのでした。

誠に不思議な作業環境ではありますが、どこで組むかと言えば、床であったり、機械の定盤の上、というわけです。

どこで鉋掛けするかと言えば、鉋など掛けませんので、作業台は不要と言うわけです。
手鉋など用いず、仕上げ工程は全てサンダーで済ませます。

そして「手作り、無垢の家具」を謳い、営業するのです。

こうして、様々な作業環境で木工家具が作られていますが、作業者の意志、意欲の表れの1つが作業台、ワークベンチにあるとすれば、自ずからその品質は、作られるモノにいみじくも反映していくことは避けがたいであろうことも、1つの真理であるのです。

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • あれまー、お褒めの言葉をいただき恐縮です。

    私も以前は合板のワークベンチを使用していたのですが
    貴ブログの多大なる影響を受けて、作り直す決心をしたのでした。
    無垢材のワークベンチ(ワークトップ)の利点については、artisanさんの言われる通りなのですが、アマチュアの私にとっての最大の利点は
    毎週ワークベンチに会いに行く楽しみが増えたことですね。

    ワークベンチはプロの方にとってはツールのひとつかもしれませんが
    週末しか工房に行けない私にとっては、自分の作品に会いに行く楽しみを
    与えてくれる物で、これだけは、合板のワークベンチでは絶対味わえない楽しみであると実感しています。

    • 失礼ながら、引き合いに出させていただきました。

      「毎週ワークベンチに会いに行く楽しみが増えた」
      「自分の作品に会いに行く楽しみを与えてくれる物」
      これらの言葉で、無垢材で自作されたワークベンチの存在感と、作る意味がほぼ言い尽くされているように思いますね。
      すばらしいです。

  • 佐久の日高工房 日高英夫の工房では、あて板二連をトップにし下台部収納でした。馬との組み合わせなど作業面の周囲からみで使いこなしています。建具は、手鉋長尺削りで斜めアテになるので立位でも西洋型がないようです。 超仕上げで終わった?
    足の長い御仁は、あて板の前に座るのが苦痛。大型箱物・足を使う職人仕事では、ベンチは無理。二刀流がよいかも。あて板に出来る良質桜・ウダイカンバはもう見かけませんが。
    家具・指し物分野の次世代には、コピーでなく日本型の良さを採り入れた新しい工夫をして創作を。
    名人のあて板・作業台を拝見すると仕事が見え、面白いです。

    • ウィンザーとシェイカーの、足の長い?日高さん、「あて板二連をトップにし下台部収納」は座式(あて板)と立ち台(ワークベンチ)のミックスですね。
      このスタイルは、私もよく見掛けます(訓練校にもあったような記憶が)

      私はこれにショルダー、テイル、2種のバイスを、左右それぞれに設けた、大型のワークベンチを作ってみたいです。(こんな

      私は足は使いません(使えない)が基本、二刀流ですね。

      なお、西洋型のWoekbench・ショルダーバイスですが、薄く、長く、大きな建具の見込み側アプローチには、大変有用です。
      この機能はあて板では考えられませんし、またバイス機構上、2本のロッドの有無は決定的です(Woekbench・ショルダーバイスにはロッドはありません 〈事例〉)

      カバは他の国産材同様、需給は逼迫しているのでしょうが、まだ枯渇しているワケではないので、制作構想があるようであれば、早めに手当しておかれることをお薦めします。
      3寸、2寸、合わせて1石もあれば足りますので。

  • 手と口をつかう新しいスタイルが生まれそうですね。
    松本民藝万力オプション+鉋台打ちの青山さんの挽き割りバイスなども組み込め。
    建具系は、もう手仕事は絶滅したでしょうか。ベンチワークの応用・岬エクステンドなど見せてください。チョトしたことがヒントですから。クランピだけでなく
    ハタガネ使い回しも。オリンピックのころまでは、ハタガネの名工も居られたのでし。菱形HSマークです。中野区あたり?屋号をどなたかごぞんじでしょうか?

    • 〈HSマークのハタガネ〉私の親方は、これだったと思います。
      私は起業時、2尺のハタガネ60本を揃えましたが、違うメーカーですね。
      これも、焼き入れ品質、スライドがスムースかどうか、などで優劣の差は大きいです。

      今はハタガネ使わず、様々な高機能クランプを使われる方が多いようですが、ハタガネの良さも認識して欲しいものです。
      私の親方は、寸法が足りない場合、木でエクステンション作ってましたよ。
      こんな光景、もはや見られないでしょうね

       またハタガネの使い方(カネに、平滑に、組むためのノウハウ)も重要
      (案外、親方筋の無い初心者は無視しがちですが、ハタガネで組んだ状態での歪みを直すことも容易にできますからね)

      我が家の和室の建具、地元の古老の建具屋によるもので、なかなかGood!
      確かに建具屋の業務内容も変貌しているのも確かです。北陸、東北、あるいは関西以西には、まだまだ在来方式の建具需要もあるはずですが、どうなのでしょう。

      口って、何ですか?(手の前に使う、私の減らず口?)

  • 口頭・口答。高等・好投ですョ。足を使う人は長生き。脳細胞が調和発達。
    締めているときに直せる芸当はハタさんですね。実ハ、微細加工用のミニハタをごっそり買い置き。文房具や絵画修復のように難しい締め具に重宝。
    スベリ・締め当たり、しめ伸びなども未だ言明なく、知らないまま過ぎるのは
    惜しいような。ハタ金さんの使い方だけでも多彩ですが、親方筋の無い人は知らんでも困らないようです。つまり、仕事が違う。クラン譜とかスランップで用があtりる。
    しやべら Nght 声が出ると頭が動くのですから、語り部サンが大事です、
    ハタがね、ハタ= 端 研究している人も無く。

    • 〈ハタ〉という呼称。私の親方(横浜・竹中系統)も同じくハタガネじゃなく〈ハタ〉(=端)でしたね。

      〈ミニハタ〉真鍮製のものですね。私も中小、10本ほど。
      〔スベリ〕ですが、やはり、加工精度、メッキなどの品質で、酷いものもありますので、要注意です。

      足、ですが、親方は一貫して足袋に草履でしたが、私は五本指靴下に、皮革製で鼻緒式の草履。

      閑話休題:うちの建築で様々な職人が出入りしましたが、クロックス履いてるのが少なく無く、 絶句

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