工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

「輪島 器の創造」角偉三郎(NHK新日曜美術館)

NHK教育・新日曜美術館の次回(07/08)は「角 偉三郎」さんの特集。(NHKサイト
一昨年10月に鬼籍に入った角さんだが、彼の作品世界はそれまでの漆芸の概念を大きく塗り替えるような破天荒なまでのものだった。
あれはいつの頃だったろうか、彼の代表的な作風の1つである合鹿椀が話題になってきた頃、何度かお会いしたことがあった。(1980年代末頃?)
簡単にそのいきさつを明かすと、地元では少し知られた和食屋が新しい丼ものを専門にする食事処を開くということで、店主に請われその什器、テーブル、カウンター、椅子の製作に携わったことがあった。
ボクも独立企業して間もない頃でもあったので、訓練校を卒業したばかりの友人Sさんの力も借り、大いに力を入れて製作させていただいたものだった。(あの頃はボクも若く力あふれていたのだった)
ここで丼に使われたのが「角 偉三郎」さんの合鹿椀だ。


この店主・経営者は地元でも名の知れた食の腕利きで「角 偉三郎」さんの合鹿椀をメインにして、高級な丼ものを提供しようというねらいであったが、まだバブルの弾ける前でもあったことも幸いしなかなかの繁盛ぶりであった。
合鹿椀は紅殻のもの、黒漆と2種のものを使っていたと記憶している。
木地の形状も若干異なり黒のものは高台がより高かった。
ご存じの方も多いと思うが、角さんの漆は生漆を手先に取り、これをリズム感良く、左手に持った木地を回転させつつ塗っていくのだが、それだけに漆の力というものをダイレクトに感じさせる独特のテクスチャーを持つものであった。
しかし決して野卑なものではなく、日本文化の古層に沈殿している漆文化を引っ張り出してくるような力強さを感じさせるものだった。
これに盛られるカツ丼の具、親子丼の具、等々、素材を吟味し、サクサクに揚げられた具は絶品で、角さんの力強い丼にも負けない逸品だった(本業がもともととんかつ屋)。
いやいや、食卓等調度品を造らせていただいたボクの仕事もなかなかのものだったはず (^_^;
この店舗作りの過程で、静岡に来られた角さんにお会いしお話しさせていただいた。
一度は確か『CONFORT』という雑誌が創刊されて間もない頃、当地静岡の料亭で角さんとオークビレッジ代表の稲本さんの雑誌掲載へ向けての対談が行われるということがあり、その直前にお会いしたときのこと。
角さんはとてももの静かな方であったが、眼に力を感じさせる如何にも輪島の塗師(ぬし)という風貌の人だった。
角さんから「杉山さん、稲本さんという人はどういう人なの?」と聞かれて、どのように応えたら良いのか窮したことを覚えている。
雑誌編集者からはは木に関わる作家どおしの対談を、とのことであったようで、同じ業界の者に事前にそのプロフィールを知りたかったのだろう。
角偉三郎の世界NHK放送でも詳しく紹介されるはずだが、亡くなる直前にオープンした「角偉三郎 美術館」を拝観し、あらためてその全貌に触れたいと思う。
なかなか石川県まで脚を伸ばすのは困難だが、是非にと思う。
■  NHK 教育 7月8日(日)am9 – 10 〔再放送〕20 – 21
  新日曜美術館
なお番組にはゲストで鯉江良二さんが出演されるというので、これもうれしいこと。
個性豊かな工芸家同士がどのような関係であったのか明かしてくれるかも知れない。
■ 画像:『漆人―角偉三郎の世界』 ISBN:9784340401178 梧桐書院
■ 記事で取り上げた店舗は今は無いが本店の方では角偉三郎さんの椀で召し上がることができるようだ。(静岡・清水「かつ好」
*関連記事 角偉三郎と合鹿椀(漆芸とは)
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  • おお!録画せねば。
    忘れずに録画予約を。

  • kentさん、今晩は。
    kentさんはWoodlatheされていますので、木地の方への関心が強いかも知れませんね。角さんの合鹿椀も高台のバランスも含め、あの何とも言えない腰の張った輪郭が良いですよね。木地師と塗師のコラボレーションです。

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