工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

芹沢美術館と椅子展

芹沢
静岡市内の名所旧跡を挙げて見ろ、と言われて答えられる人はどの程度いるのかは分かりませんが、以外と小、中学生なら正解は多いかもしれません。弥生時代の遺跡として有名な「登呂遺跡」ですね。
昨今では「三内丸山遺跡」やら「吉野ヶ里遺跡」にお株が奪われていますので、パッとしないようですが、健在です、はい。
今日紹介するのはそこではなく、同敷地内にある「静岡市立 芹沢けい介美術館」(けい は金へんに圭と書きますが、Macでは出せません。スミマセン)です。
登呂遺跡以上にマイナーな施設かもしれませんので、ご存じない人も多いかもしれません。
過去何度も訪れた美術館ですが、久々に行って来ました。企画展「芹沢けい介の集めた椅子」という企画展です。(本日 最終日)


この地に美術館を構えたのは生まれが静岡だったためですが、活動はもっぱら東京は大森です。1895生。東京高等工業高校、図案科卒。柳宋悦と、沖縄の染め物・紅型に出会ってから型染めを中心とした染色の道を歩み、人間国宝に認定されます。卓越した染色作品の数々はその色彩配色感覚といい、モダンなデザインは今も色褪せることなく、独自の世界を形成していますが、こうした本業に留まらず、本の装丁、陶器の上絵付けなどにも才能を見せています。
また見応えがあるのは彼のフィールドワークの豊かさでして、古今東西の工芸品の蒐集には並々ならぬ意欲を燃やし、その数6.000点にも及ぶのだそうです。
これまでボクが拝観したものだけでも、イコン、アフリカの仮面、諸国民族の装身具、陶磁器、絵画、家具などジャンルを問わず自らの鑑識眼のみを基準として集めに集めたようです。
これらは民族資料としても貴重なコレクションとして評価されているようです。
ファサードそして今回の企画は「椅子」です。ここでは詳細な紹介は出来ませんが、やはり印象深かったのはコートジボワール、ガーナ、ブルキナファソ、パプアニューギニア、アフガンなどのプリミティブなものです。
椅子という機能を押さえながらも、椅子の文化的発展を想像させるような様式美を見せていました。椅子というある種のヒエラルキーを背景とした使われ方を想像させる呪術的なデザイン(形態と、線刻、彫刻に見られるそれ)は民族によって実に多様で豊穣です。
彼は工房でこうした椅子を他の家具と共にディスプレーして楽しんでいたようです。
さて、この美術館へ注目したいのは、こうした染色、コレクションだけではありません。この美術館という建築物です。彼は生前に「白井晟一」氏に自らの作品とコレクションを収蔵する施設をつくるべく設計を依頼して完成させたのです。「石水館」と命名されています。
決して大きな施設ではありませんが、周りをさまざまな樹木で囲み、石を積み上げた量感のある外壁を持った勇壮で、格調のある建築物です。正面ファサードからは回廊式の展示ルームの中央に位置する池からの噴水が迎えてくれ、工芸鑑賞の期待を膨らませてくれるものになっています。
なお、館内は手斧(ちょうな)ではつった痕がユニークな無垢の楢材で張り上げた天井、そして同材種の扉にも注目したいと思います。
中津川、付知の「早川謙之輔」氏が白井氏からの依頼で施工したものです。(この工事が終了した翌年に早川さんにお会いしましたが、まだその時の熱気が冷めやらず、熱く語ってくれたものでした)
どうぞ静岡に来られるときがありましたらぜひお立ち寄りください。
静岡駅からタクシーで10分ほどです。おせっかいですが昼食、一休みは敷地隣の「もちの家」というところでどうぞ。(回し者ではありませんが、古民家を移築した趣のある茶店で、静岡名物「あべかわ餅」のつきたてもありますよ[参照] )
・写真上:ギャラリーショップからの土産「いろは文」の風呂敷その他です。
レジ袋やめて、風呂敷にしようかな。
・写真中:美術館ファサード正面
・写真下:美術館正面アプローチ看板
■静岡市立芹沢けい介美術館
 静岡市駿河区登呂5-10-5 Phone:054-282-5522
URL http://www.seribi.jp
ファサード2

《関連すると思われる記事》

                   
    

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.