工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

接着剤は何を使えば良いのか(追記あり)

タイトボンド
使い続けてきたTitebond(タイトボンド)1ガロンのボトルの底が見えてきた。
そろそろ購入しなければ、と考えていた矢先に「Fine WoodWorking」(以下FWW誌)最新号の「How strong is Your Glue ?」という特集記事が届いた。
日本で木工ボンドといえば酢酸ビニルエマルジョン(通常“酢ビ”と言ったり、“白ボンド”と言ったりする、アレ)が一般的だが、他にエマルジョン系としてもαオレフィン系、EVA系など耐水性、耐熱性を高めたものなどがあるので、用途に応じて使い分けているはず。
またこのような水性エマルジョン系以外としてはPIボンド(大鹿振興)などの水性ビニルウレタン系(水性高分子イソシアネート系)のもの、さらにはエポキシなどがあるだろう。
うちでは、一般的な酢ビ、Titebond、PIボンド、エポキシグルーの4つを常用している。これまでも様々なものを使ってきて、ここに落ち着いたというところ。
さて、FWW誌の「How strong is Your Glue ?」。
詳細はこの雑誌に譲るが(Webサイトからも会員登録すれば誌面と同じデータがPDF形式で取得できる)、6種のボンドを対象としてその接合強度を科学的に検証した記事でとても有益なものになっている。
被験ボンドは次の6つ
・traditional yellow glue (PVA):Titebond Original Wood Glueなど
・Type I waterproof PVA :Titebond III
・liquid hide glue:いわゆる膠
・hot hide glue
・slow-set epoxy:エポキシ
・polyurethane:ゴリラ、など


実験の方法:6種のボンドをそれぞれほぞ加工の接合部位の嵌め合わせのタイトさを3段階に分け、さらにはMaple、Oak、IPE(イペ、って知らないな。ブラジルのハードウッドのようだけれど)3種の材種を対象とし、大型プレス機械での破壊に至る圧力を計測、観察したものだ。
Titebond IIIその結果を見て驚いたね。エポキシグルーよりもTitebond III の方が強い。
最高の評価を受けている。
いや、Titebondの強さについては以前より実証済みで、実際大いに助けられてきていたが、まさかエポキシよりとはね。
さらに驚いたのはその接着強度がホゾ加工の嵌め合いの加工精度にあまり関係なく確保されているということ。(エポキシと較べて)
つまりエポキシは周知の通り充填性が高いということで接着強度とともに他にはない特性を誇っていたはずであるのに、Titebond III はその特性をも兼ね備えているというのだから。
ただやはりエポキシにおいては嵌め合いの加工精度による接着強度の大きな差異は見られないが、このTitebond IIIでは材種にもよるが加工精度においては少なからぬ差異が認められるので、如何に接着強度の高いボンドを使用するとは言っても加工精度の確保の重要さに変わるものではないようだ。(変なところに期待しないように)
この部分のFWWのコメントを見てみよう

The betting before the test was that this glue would be the strongest.
It came in a close second,
but given its high cost and longer preparation time,
this was disappointing.
In particular, it didn’t prove to be the clear choice for gap-filling.

もうさんざんな評価だね。
価格は高いし、圧締時間は長いし、充填性においても好い選択とは言えない‥‥だって。
実はこのタイプはこれまでボクが使ってきた「Titebond」とは異なる。これは正しくは「Titebond Original Wood Glue」というものだが、「Titebond III 」は最新のタイプのもののようだ。

・Titebond III:PVAタイプ(Polyethylene Vinyl Acetate の略称)
いわゆるYellow Glueと呼ばれるものだが、酢酸ビニルということに変わりはない。

これまでもTitebondを使ってきていたのは、明らかに酢ビよりも硬化速度も速く、硬度も高く(粘性が低い)、総じて接着強度には信頼を於いてきたのだったが、今後はもう「Titebond III 」をキホンということにしていくのが好い選択であるようだ。
なお、Titebond III の詳細な仕様はサイトから取得してもらう(下にLink情報)として、関心の強いところだけピックアップすれば‥‥、
・耐水性:ANSI/HPVA Type I (これは米国の規格で最高ランク)
・安全性:FDA(米国食品医薬品局)の認可を受ける
毒性は低くダイオキシン対策もOK。ということで日本のJAS規格よりもさらに高いハードルの基準をパスしているようなので、安心、安全で使えるようだ。(FDAに関する情報は日本のサイトにも多いので興味のある方は独自にどうぞ。昨今の日本の食を巡る安全神話の崩壊との関わりから多くの情報が取得できると思う)
なお耐水性が強い、ということは使い勝手がどうなのかという懸念も生じよう。
往々にして過度に塗布することで余分にはみ出しその処理に困ることは多いもの。これが水性エマルジョンタイプであれば温湯で簡単に取り除ける。(エポキシなどはこうはいかない)
Titebond IIIも同様に水性エマルジョンタイプで、仕様にもWater cleanupと記されているので恐らくは問題ないだろう(現在使用しているTitebondについては問題ない)。
このTitebondのサイトには、かなり詳細な試験データもあるので、参照されたい。
ここにも記述されているのだがポリウレタン系ボンド(例えば「ゴリラ」などの)は一見耐水性が高く接着強度があるのではと考え入手してみたことがあったが、圧締硬化中に発泡膨張し挙げ句の果てに硬化してはみ出した樹脂の処理のやっかいさで使用を止めたが、この判断は正解であったようだ。検体中最悪の6番目にランクされている。
ところで、これまでのところは了解するとして、さらにオーシカのPIボンドとの性能比較をどこかの機関でやってもらえないだろうかね。
何度かこのBlogでも触れてきたがPIボンドへの信頼は高いものがある。
しかしちょっと使い勝手がね‥‥。
硬化剤混合後の可使時間が短い、手に付くと指紋の中まで浸透しなかなか取り除けないetc。
もし比較検証結果によっては、このTitebond IIIへと全面的に移行させることもあり得るだろう。
またこのTitebond III を既に使っていてこの記事に目を留めてくれる人がいたら、ぜひコメントいただきたい。
なお既に日本においてもこれを販売しているところがあるので、探してみて欲しい。海外からの個人輸入も楽しいけれど、ボンドは価格の割りには重量があり運賃など輸入のコストが大きいので留意されたい。
■ Titebond III サイト(こちら
■ 同Titebond III PDF(ダウンロード) 1.1Mb
オーシカ(旧大鹿振興)
FWWサイト
‥‥なおここからは余談だが‥‥、
このFWW誌は米国の木工関連雑誌としても評価の高いものでアマチュアからプロまでその守備範囲は広いと考えられる。
ボクも創刊間もない頃(1984年頃?)から定期購読していて、その頃は必至になって辞書を片手に読み進めていたもので、楽しみな雑誌であった。
ただしかし、詳細に紹介されている仕口の加工方法など実にどんくさいものも少なくないようだ。
ボクたち日本の木工家からすると、何でこんなアホらしい手法をとるのか呆れてしまうと言った‥‥。
木工機械の使い方然り、手加工の手法然り。
こうした領域のことについて知りたい方は、こんな雑誌に依拠せずに、ぜひ地元にいくらでもいる老練な木工職人(家具でも大工でも建具屋でも‥)諸先輩に訪ね歩く方がよほどまともな技法が手に入るだろう。
日本にはこれほど良質な木工関連雑誌は無いかも知れないが、しかし木工技法においては彼の国をはるかに凌駕する体系を持っていることを誇りとすべき。しかしこれも若い方々に使ってもらわなければ死に絶えてしまうからね。
したがってこうした基本的な木工技法についてはまずは日本で培われてきている木工技法を習得し、その後にこうした海外の雑誌にあたるというのが賢い優先順位の付け方だね。
‥‥例えばFWW最新号ではP62〜の「Miterd Molding」など。
こういうものは批評の対象として意味のあるものではあっても頑なに信じ込むのは問題。

な〜んて悔し紛れなことを言ってしまったが、この雑誌のすばらしさにおいては他に代替できるものはないことは言うまでもない。今回の科学的実証的記事などをはじめ参照すべきことは大いにある。他にもデザイン、チップス、あるいはまた J・クレノフ氏の哲学的思考などの記事、等々。
殊に最近ではWebサイトの情報も強化されアーカイブも含め様々な情報が取得できる。PDF提供はありがたい。また動画の提供は会員でなくても可能だ。
つまりは良く言われることであるがリテラシーを高め、自覚し、このあふれかえる情報を如何に取捨選択し、ヨリ高いところで活用するのかということになるだろう。
ところで本誌裏表紙にはJonathan Binzen氏のWood Turner, Carverによる作品が2点ほど掲載されているが、これはすごい。興味があったので対象のサイトを見ると、本人の語りとともにスライドショーで様々な作品が紹介されていた。すばらしい、の一言。その精緻さ、芸術性には脱帽。上條さんにも見せてあげなくては‥‥。
* 追記 (07/07/05)
実はこの記事を書きながら衰えが進行しているボクの海馬が何かを検索していることが気になって仕方がなかった。解決せずに寝入ってしまったのだが‥‥。
翌朝あらためてFWWサイトで検索掛けたら、やはり発見できた(このような検索効率の良さはボクの海馬の衰えを促進させるだけという懸念も無視できないものの、ダンボールに詰め込んだバックナンバーを探す手間が省けありがたいのは事実)。
無駄話はともかく‥‥、

  • FWW誌#176(2005)に「Six Essential Glues」として良い記事があった。
    今回のように破壊試験を行うようなものではないが、Titebond IIIも含め、詳細な解説記事である。
    著者はScott Gibson氏という人で、FWW誌によく登場する木工家であるので、実践に即したインプレッションになっている。
    因みにここで対象とされたのは‥‥、
    ・PVA(Yellow Glue)
    ・Polyurethane
    ・Epoxy
    ・Cyanoacrylate(いわゆる瞬間接着剤)
    ・Hide Glue(いわゆる膠)
    ・Urea Formaldehyde(いわゆるユーロイドなど。松民の頃はよく使っていたな)
    なお詳細は本誌あるいはWebサイトへ。
  • 記事中Titebond IIIとエポキシの接着強度について記しているが、接着強度だけではなくそれぞれの特性を考慮して使い分けることが必要であることは言うまでもない。例えば異種材の接着は、やはりエポキシに勝ものはない、と言ったように
  • Titebondの国内での取り扱いはPIボンドの製造メーカー「オーシカ」がやっている。
    しかし確認したところ、現段階では「Titebond III」の取り扱いの予定は無いとの回答であった。
    読者の方々で興味を持たれた方はぜひこの「オーシカ」への販売取り扱いの強い依頼を願いたいと希望しておこう。
    「オーシカ」メルアドは上に記したLinkからどうぞ。
  • エントリ記事中サイトの会員登録について触れたが、これは読者のカスタマーナンバーが必要であることを付記しておかねばならなかった。 \(__ )

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • いつも更新を楽しみに、こちらのブログで勉強させて頂いております。
    若輩者ではありますが、「Titebond III を既に使っていてこの記事に目を留めてくれる人がいたら、ぜひコメントを〜」の言葉に勇気付けられ、微々たる経験ですがコメントさせて頂きます。
    僕は家具や木の雑貨作りをしていますが、板はぎと木のおもちゃの組立に、このタイトボンド?を使っています。国内での使用データは得られなかったのですが、あちら(米国)での評判と性能値に期待して使いはじめました。
    このボンドは色は若干灰色がかっていて、硬化後もこの色は残ります。粘度が低くて伸びも良いので板はぎ作業では扱いやすいです(僕はビスケット併用で板はぎに使っています)。
    木のおもちゃ作りでは、赤ちゃん向けのモノを作っているので、口に入れても安心、耐水性もある(よだれ攻撃にも耐性がある)という点で、安全性をアピールできるのが、このボンドを採用している理由です。
    僕にとっての使用上の難点(?)は硬化速度の速さです。数モノの組立作業の時には筆塗りのために取り出して使うのですが、10分もすると、表面が膜状に固まり始めます。小物の数物を作る作業で、ボンドをまとめて出してしまうとどんどん固まってしまうので、いつも小出しにして使うようにしています。
    手数のかかる家具の組立では、この硬化の速さが怖いので、僕は従来の白ボンド(CH18)を使っています。が、これは僕の技量が未熟だからでありまして、はるかに技量、作業速度に勝る諸先輩方においては問題無いかもしれません。
    板はぎの時はボトルから直接はぎ面に、ぴゃ〜っと出して、後はヘラでささっと広げるようにして使っています。16オンスまでのボトルは平口になっているので、板はぎに適量なボンドが出てきますので使いやすいです。
    かつては板はぎにPIを使っていたことがありますが、タッパに取り出して使うため、作業が後の方になるとボンドが固まり、伸びが悪く苦労しました。タイトボンド?だと、この苦労が無くなると思います。手についても簡単に落とせますので、PIのように1ヵ月経っても手に残る…なんてことはありません(←不精者ならではの経験です…お恥ずかしい…)。
    でも、やはり舶来品ということで、経年強度について身近なデータが無い(僕自身、経験値が少ないのでたいしたデータが無い)というのが不安材料でした。今回のFWW誌の結果はそういう意味で嬉しいものでした。これをきっかけに、国内のユーザーの声、使用データなどが浮き上がってきたら嬉しいな…と他力本願な自分を恥じつつも思います。
    つたない経験、文章を長々と失礼しました。これからもartizan氏の新鮮な木工の話題を楽しみにしております。

  • 若手木工家さん、ご訪問、コメントありがとうございます。
    よくご覧いただいているようで感謝します。今回もあなたのような若い先進的な方からのコメントを期待していたところです。
    経験者ならではの詳細な使用感とデータの提供ですね。
    >板はぎ作業では扱いやすい
    >粘度が低くて伸びも良い
    >16オンスまでのボトルは平口になっている‥適量なボンドが出てくる
    >手についても簡単に落とせます
    >口に入れても安心、耐水性もある‥‥安全性をアピールできる
    オーシカPIに代えて“板はぎ”に使用しているということのようで、それだけで接着強度への信頼が判ろうというものです。
    他にもいくつかのメリットがあるようですね。
    一方問題点として
    >硬化速度の速さ、>作業速度が求められる
    これはどのような環境で、どのようなケースで、どのような目的で使うのか、ということが考慮されねばならない、ということになるのでしょう。
    また圧締時間が短くて良いというのは、逆に湾曲成形のラミネートなどには向かないかも知れません(この辺り強い関心事です)。
    強度と効果というものもコインの裏表のようなもので、当然にも使う上での注意点が出てくるのは必然と考えましょう。
    なお矧ぎなどの面部分への塗布にはローラーの併用も考えて見ましょうか。
    >経年強度について
    「one-year shelf life」とありますが、ボクなどはボンドは工房に置かれた冷蔵庫で保存しています(残念ですがビールは冷えていません)のでもっと持つのでは‥。
    近日中にもTitebond IIIが入手できそうですので、提供された情報に即してテストしてみたいと思います。
    どうぞこれからも臆せず積極的にコメントくださればうれしいです。
    ありがとうございました。

  • タイトボンドで検索してこちらにたどり着きました。
    長年エポキシを使ってきましたが、今はほとんどの接着がタイトボンド?で済んでしまいます。最初は?も使いましたが、一度?を使ってしまうと、雲泥の差…とまで感じます。作業時間は確かに短いですが、工程・手順でやりくりすれば問題ないと思います。
    マイナス20度の環境でも凍結しなかった、頼もしいヤツです。
    なかなか入手出来ないのが一番の難点。とくにガロンで購入できるところはほとんどありません。現在わたくしは→
    http://www.nidoco.co.jp/v4/seihin/titebond3/titebond3.html
    こちらで購入しておりますが、artisanさんはどちらで入手されましたか?

  • 購入先間違えました、すみません、コチラでした→
    https://www.diyna.com/wj/ace/procs/dispInd.php?subcat=28001&pid=1229731

  • 北の木工屋さん、ようこそ。
    Titebond?の愛好者ですね。
    Macでは機種依存文字が文字化けしてしまいますので、一部判読できませんが、Titebondの後ろのローマ数字の文字化けだと解釈しました。
    冷寒地でも使用に耐えられるのはありがたいですよね。
    北海道でなくとも、信州、飛騨の方々にも朗報です。
    荷姿はガロンで入手したいところですね(単位価格から)
    国内での入手はどうしても高くならざるを得ませんし、米国からでは重量物ですので運賃も嵩む。
    そこで米国からの関連ツール、素材などの購入の際に同梱させるのが良いかも知れませんね。
    コメントありがとうございました

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