工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

James Krenov氏、訃報(追記あり)

Krenov巨星、墜つ !

現地時間9日に亡くなられました。1920生、89歳でした。

クレノフ氏ほど、木工という世界の豊穣さ、芸術性、思弁性、現代性、可能性をその劈頭で実践するとともに、優れた書籍を著すことで雄弁に語り、また教育現場から多くの優れた木工家を輩出した人は知りません。

決してメインストリームでのはなばなしい活躍ではなかったかもしれませんが、その影響力の深さという点においては、この人物に代わる人はいないでしょう。

私は1988年、高山における「キャビネットメイキング、サマ−セミナー」で短い期間ではあるものの、師事させていただくことができ、多くのことを学ぶことができました。

決してkrenovianを自称するほどの作風を獲得しているものでもなく、最も愚かな生徒の一人でしかありません。

しかしこれからも遺してくれた数冊のテキストを頼りに、木工という世界を信じるに足る豊かなものであることに揺るがずに、一歩前へと進めていきたいと思います。

近況を知る人の話からも、年齢からしても、ここ数年衰えつつあったことは聞いていましたが、やはりこの突然の訃報には胸が塞がれ、ただただ脱力と、憔悴に沈むだけで、有用な情報を挙げる気分にもなれません。

ありがとうの感謝の言葉とともに、心からのご冥福をお祈りしたいと思います。
合掌。

公式サイト
* 過去関連記事
こちらから

近影は『Furniture by James Krenov and Students』より拝借


* 追記(09/09/12)
米国の関連サイトに、簡単ながら比較的整理された伝記、および弔文がupされていますので、Linkを記します。
College of the Redwoods fineFURNITURE (James Krenov氏が教鞭を執ったカレッジ)
  ・A biography
  ・Students remember

Fine Woodwork Magazine(Taunton Press)
  ・The Editors Mailbox
なお、こうした伝記を含め、James Krenovの世界へ近づくには、著書を解読するのが最適であることは言うまでもありません。
上に張りましたLink、James Krenov directの「Books」メニューに5冊の著書が紹介されていますが、
最初に書き下ろされた『A Cabinetmaker’s notebook』は先般、木工家・三ツ橋修平氏により訳註書『木の家具 制作おぼえがき』として発刊されましたので、この書から入るのは良い選択だろうと思います。
・『木の家具 制作おぼえがき』(A Cabinetmaker’s notebook)三ツ橋修平 訳註
   A5版 249頁  ISBN 978-4-931553-12-5
   価 格:¥1,800   
   注文先:中井書店 Phone:072-474-1230 Fax:072-474-1231  
※ 三ツ橋修平氏による本著書の簡単な紹介記事を置きましたのでご参照下さい。(A4 1枚、PDF 247KB)
  こちらより
(印刷物からのスキャニングであるため、またPDF化のデータ量を抑制させるため、解像度が悪くなっていることを詫びます)

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 松本の阿部の息子です。ボクも今朝届いたメールで知り、びっくりしました。私も早速、留学時代のクレノフさんとの経験を少しブログに書きました。ジェイムス・クレノフ奨学金を設立するそうですので、もしも寄付にご興味あれば(また興味がありそうな方がいればお知らせください。私と父は少しだけ貢献の予定。

  • 譲之さん、さっそくのコメントありがとうございます。
    身近で過ごされた生徒さんならではの心暖かな貴Blogエントリ、拝見しました。
    短いものですが、あなたの評伝はクレノフ氏の本質のその1つを言い当てていると思いました。
    彼の影響を受けたがため、木工世界で木屑に埋もれるように木と対話している多くの名もない木工家がいるわけで、カネこそ全ての現代にあっては“罪深い”師匠であったわけですが、死してもなお、指標であり続けることでしょうね。
    ジェイムス・クレノフ奨学金のお話し、積極的に考えたいものです。
    さらにはまた、これを機として国内に於いてもクレノフ氏を核とした何らかのコミュニティーが持ち上がっても良いのではと、夢想したりしています。
    (このことはジェイムス・クレノフ氏の木工の真髄の1つがパーソナルなものであるということを考えれば矛盾でしか無いかも知れませんがね)

  • 今年はartisanさんからご紹介をいただいて和訳本を読むことができ
    James Krenovに対する印象を新たにできたのも、日本風に言えば
    何かのご縁だったのかもしれません。
    今年はSam Maloof氏に続いての訃報で、まだ短い私の経験の中でも
    手本として来た方々がほとんど亡くなられてしまって残念に思っています。

  • acanthogobiusさん、クレノフ氏の木工は、ある種のアマチュアリズム、究極のアマチュアと定義づけることも可能だろうと思います。
    著書を読まれたacanthogobiusさんであれば理解されるでしょう。
    つまり、プロ、アマの定義というものは、作られるものの品質(美醜、品格、洗練)をあらかじめ規定するものなどでは全くないという証左ですね。
    プロであることをエラそうに語るのではなく含羞を携えつつ‥‥(自省)
    クレノフ氏の人生をふり返るとき、あらためてそんなことを考えます。

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