工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

テーブル納品とメンテナンス訪問


搬送車両の走行不良トラブルという思いがけないアクシデントに見舞われた災厄ではあったけれど、顧客への納品、設置の方は思った以上にスムースに事は運び、同じく翌日の顧客へのサポートも上々だった。
テーブルの納品、設置は阪神地区の私鉄沿線、とある駅近くの大きな鉄筋の個人住宅。
既にリタイアされているがビルの構えから何らかの病院を経営されていたドクターのようだ。
7月の阪急での個展に来場し、展示した大きなクラロウォールナットのテーブルを買いたい旨の希望を示して頂いたのだが、既に現物は売り上げられてしまっていた。
本当はこちらの客の方が早く来場し、気に入ってくれていたのだったが、丁度同じ時期に上のフロアで開催されていた大規模なovの展示会を見てから比較検討したいとの意向のようだったが、結果、少し遅れてきた別の客に買い上げられてしまうと言う経緯だった。
結局比較検討の結果工房 悠のものを気に入っていただき、同じものが出来るのであれば別途注文したいということだった。その結果この時季の納品ということになったものだ。


何しろ、いずれもクラロウォールナットという貴重な1枚板の大きなテーブルであるために、それを入手獲得するのもタイミングと、懐の余裕が要件となってくる。
ボクの作るものはそうした貴重なものから、一定のロット数で作るものまで様々だが、やはりこのようなものの制作、販売、納品という一連の過程は制作者としての充実感が大きいのは当然として、一方での首尾良く高品質の作品が出来、顧客を満足させることが出来るのかというストレスも大きく、それだけに無事に納品された時の安堵感は大きい。
印象的だったのはテーブルトップをただ黙って掌でゆっくりとさすり、笑みをたたえながら満足げに言ってくれたのだ。「○○さんのものとは明らかに削りが違うね……」
これは同じ百貨店の美術部が商う他の作家のものと較べてのものだった。
7月の個展会場でも同様のしぐさを見せていたので、かなり木工には厳しい鑑識眼を持っている客と見たのが思い出された。
この客の所作のように掌でテーブルトップをなでることでかなりの程度、その研削精度は確認できるのだ。
もっと明確に確認する方法があるが、これはナイショにしておこう(笑)
この鉋がけへの評価は「我が意を得たり」、ではあるのだが、削りという基本的工程をないがしろにする木工家が少なくないことへの厳しい指摘でもあり、同業者としては複雑な思いをさせられるものでもあった。
翌日の顧客へのサポートだが、これはテーブルトップの塗面が不良になったので改修してもらいたいという要望への対応だった。
top画像は許諾を得て撮らせて頂いたテーブルセット。
素敵なマンションの1室に納まったクラロウォールナットのテーブルと、アームチェア、アームレスのブラックウォールナットの「大和」。
このマンションの1室は、全て新たにモダンにリフォームされたもののようで、ブラックウォールナットの色調と、デザインが実に見事にマッチしていたのには驚いた。(納品は百貨店美術部スタッフが担ったので初めての訪問だった)
メンテナンス作業はテーブルトップをポータブルサンダーでサンディングし、あらためて塗装するというものだが、現場作業という制約下、比較的簡便で、しかし最大限でのプロ仕様で行った。
集塵能力の高いBOSCHのランダムアクションオービタルサンダーを用い、#180、#240、#400、と3段階で丁寧にサンディングし、ウレタン系のオイルフィニッシュを施した。
少し気になったのは、脚部の木が痩せてノックダウンの締め付けが緩みつつあったことだ。
理由は明確。この部屋、床暖房が完璧に設備されているせいなのだ。
これは増し締めすることで結合強度の強化を行った。
同手法を顧客にも説明して、今後できれば自身で行ってもらえるよう依頼したのだが、このような床暖房という環境が一般化する中で、家具製作における設置環境への対応はよりシビヤになってくることを思い知らされもした良い経験だった。
(当然、脚部の構造、デザインでの配慮が必要になるが、写真のような脚部ではもろ影響を受けるので望ましいものではないのだが、入居前の購入ということもあり、今回の場合やむを得ないものだった。底に厚めのフェルトを張るなどしていくらかの断熱を施した)
ありがたいことにこうしたことへの顧客の関心は高く理解も得られ、新たにいくつかの受注見込みも頂いた。
「座布団椅子」、「センターテーブル」、および納品のテーブルと同じものを親しい知人も望んでいるとのことで、これらが成約できれば、災厄でもあった大阪行も少しは厄が祓えるだろうか。

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  • はやく’木製MAC’を作ってください。

  • agojun55さま まずはIntel搭載機を待ちましょう(笑)
    iPodシリーズ着せる木のウェア(ケース)があるようですがね。
    ウム……。
    DynaBook(東芝ノートブック)では確かにウッドケースのものがカスタム仕様であったような気がする。
    ウム……。

  • 素晴らしい! 素晴らしいテーブルセットですね。
    部屋とのマッチングも素晴らしいです。
    ひょっとしたらこのテーブルセットに合わせてリフォームしたのか?と思えるほどです。(本当にそうなのかも)
    これほどの物を手に入れることが出来たご本人は、きっと満足されていることでしょうね。
    テーブルトップはいい艶が出ていますが、使用されたオイルはオリオ2ですか?
    オリオ2は私も2年程前から使っています。
    最初は吹き戻しが多くて苦労しましたが、その後改良されてずいぶん使いやすくなりました。
    熱やしみに強くて安心して使えるのですが、物性の高さゆえかやや艶が引けやすく、頻繁な水拭きで表面が荒れがちになるのにはオイルフィニッシュの限界を感じます。
    「削りという基本的工程をないがしろにする木工家が少なくないことへの厳しい指摘でもあり」との言葉、私も心します。

  • itsukiさま
    オイルの品種ですが、「オリオ2」ではありません。「オリオ2」も使っていましたが、実はこれに替わるものとして、別のものを現在試行中です。まだテスト段階で、公にお奨めできるものではないので、ここでは伏せます。
    興味がありましたらメールでご連絡ください。
    基本的には「オリオ2」同様に主剤は植物性オイルですがウレタン結合させるタイプのものです。
    今では様々なオイルが入手できますが、全ての要求を満たしてくれるというものはあり得ないと考えるべきなのでしょうね。
    制作者、顧客、それぞれが望む性能、質感などを総合的に勘案して選択するということになるのでしょうか。
    まだまだ日本ではオイルフィニッシュへの理解、上質家具のメンテナンスへの理解は低いので、顧客への説明は困難が伴いますが、臆せずやるべきでしょうね。

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