工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

南京鉋は、Push or Pull ?

南京鉋


家具制作における木材加工の仕上げには、手鉋での仕上げ作業は欠かせないが、曲面切削で活躍するのが南京鉋。
台裏の曲率を様々にすることで、ほとんどの凹曲面から凸曲面まで良質な仕上げを叶えてくれる家具職人としては欠かすことのできない鉋。

南京鉋という名称からして大陸伝来のものであることは明らかだが、いわゆる平鉋という台鉋が日本固有の発展を遂げて今に至る経緯を辿ったのに対し、この南京鉋はかなり原型を留めているところから名称もそうしたものとして意味付与されているのかもしれない(日本における道具史の研究家でもないのでこれ以上詳細には立ち入らないでおこう)。

今日はこの南京鉋を使う職人としての技について気になったところを考えてみる。
難しいことでは無い。
引くか、押すか、の違いについて、である。


一般には平鉋などは向こうから手前に引くことによって鉋が掛けられる。
西洋ではその逆であることは一般にも知られていることだと思う。
南京、つまり中国の鉋も西洋と同じく押すのが一般的であるようだ。

しかし昔ある木工のワークショップで、キャリアのあるアマチュアの人が1.6寸平鉋を押して掛けているので驚いたことがあった。ご丁寧にも台頭には手に持ちやすいようにフックまで付けてあった。

鉋掛けとは作業台に立ち、順目になるように板を置き、向こうから手前に鉋を操作するわけだが、当然にも1枚の板には様々な木理が絡み、逆目になってしまう部位はいくらでも出てくる。
逆目は鉋仕上げをする上では大変やっかいなものなのだが、しかしこの逆目を嫌っていたのでは木の仕事をする資格の半分は放棄するに等しい。
木という素材が持つ魅力の1つがこの逆目にあると言っても良いくらいだ。
この順目、逆目が絡み、独特の木理を醸すことで他の素材には無い、木材固有の、あるいはその板固有の美麗な木目が現れる。

この逆目部分は良好に仕込まれた鉋であれば、やや白濁する程度で綺麗に仕上げることもできるが、強い逆目である場合など、やはり鉋を通常とは逆に押すことで逆目難度を乗り越えると言うこともある。

このワークショップの御仁は、そうしたものではなく基本姿勢が“押す”ことになっていたのだが。

昨今、日本の鉋が優秀であることは広く世界に知られてきているので、海外の家具職人も日本の鉋を使う人も多いと聞く。
彼らは果たして西洋鉋のように押しながら日本の鉋を操作しているのだろうか。

これは道具に纏わる民族的な比較文化として興味のある領域の事柄だが、ここではそうした高尚な知見を披瀝しようというのではない。

南京鉋は押すのか、引くのか、という職人としての単純なる興味のことだ。
ボクはケースバイケースで両方と言うべきなのだが、正直に言えば他の台鉋のように引くという動作より、この南京鉋の場合は押す方がフィーリングが合う。
これはどうしたわけだろう?

「フィーリングが合う」という物言いもビミョウだが、まぁ要するに「制御しやすい」と言えば理解いただける表現になるだろうか。

差し支えなければ、木工に関わる読者の方々の南京使いの手法をコソリと教えていただければありがたい。
このように押す方が削りやすいというのはボクだけ?

ここで言えることがあるとすれば、“引く”よりも“押す”方がコントロールしやすいというのは、ボクの鉋掛けの技量もまだまだ確立したものでは無いということぐらいか。
また、こんな結語に持ってくる積もりはなかったのだが、そうしたことも含め未熟者だということか。やれやれ‥‥

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  • 私は訓練校で、“引く”で習いました。
    “押す”で作業したことが無いので今度試してみます^^

  • ぽーるさん、やっぱり“引く”ですか。
    鉋の王道を行くK先生仕込みでしょうからね。
    この記事には呆れられてしまうかな(笑)

  • こんばんは。
    僕も(も、というのはオコガマしいですが)押し引き両方です。
    切削対象と台のRを合わせたりしていないので
    刃口(というか刃そのもの)を意識して削ります。
    特に長い距離を削る時は、押す方が切削面と南京の塩梅を掴み易いように感じてます。
    追伸
    ケンシロウの如く浮き出た血管は
    鉋掛けのせいですか!?

  • うずまきさん、あなたも南京鉋は多用されていらっしゃるようですね。
    「刃口を意識して‥‥」は全く同意できることでして、
    平鉋を含め鉋全般に言える真髄であると考えていますね。
    (以前もそれをテーマとした記事を上げた覚えもあります)
    >浮き出た血管
    ははは、ただ低脂肪体質 or プアな食生活 ?

  • 僕も押し引き両方です。南京に限らずですがその時の木目や感覚で自然に持ち替えています。
    平鉋でも押し掛けや左引き?ができると幅広の一枚板削りで有効だと思います。
    刳り物仕事では左手で加工物を保持し豆鉋を包むようにして片手使いすることが多いですがその際も押し引きしています。
    自分の体や加工物の向きを変えるより鉋を持ち替えていろいろな削り方ができたほうが楽に仕事できる場合が多いように思います。

  • 古谷さん、うずまきさん、それぞれにコメントのポイントは異なるものの、両方使いの効用を解いていることにおいては共通するようですね。
    それぞれに私の記事への関心と、内容において補強していただけるものとなっており、感謝するとともに、意を強くしました。
    ありがとうございます。
    ここ数日、ネットもケータイキャリアも届かない山中に篭っていましてコメント遅れました。
    明日からまた忙しい日々が始まります。

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