工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

杉の芳香

板戸
ここ数日工房に入ると独特の芳香が漂う。
杉の香である。
樽酒、和菓子の箱などにも好んで用いられるのもこのため。
産地によっても少し異なるのだろうか。
さすがに秋田杉というべきか。特有の香りは作業をしていても心地よい。
ただ、加工、仕上げではいささか苦労させられる材種ではある。
柔らかいことで傷が付きやすいことはもちろんのことだが、これは作業者が注意すれば良いだけのこと。
日本の針葉樹の中でも軽軟であり、また前回述べたように春材、晩材の強いコントラストは良い加工と良い仕上げを阻んでくるものとなる。


機械加工においては、使用する刃物は良好な状態のものでないとダメだ。
切れ味が落ちた刃物であれば本来の切削よりも先に、機械切削の強力な衝撃力でむしれるように肌を荒らす。
また鉋掛けも半端ではない。
軽軟であることは一見鉋掛けも楽なように見えるかも知れないが、あにはからんやかなり困難な部類の材種である。
広葉樹の鉋掛けと較べるとその違いが良く分かる。
ある一定の広さの板を削るのに求められる研ぎ直しの回数を考えた場合、広葉樹では1回で済ますことができても、杉では2〜3回、研ぎ場に向かわなければならない、と言ったように。
これはどういうことか。
春材の繊維細胞は実に脆弱。これをシャープにカットするには切れ刃が最良の状態でないとダメ。
ほじくれたり、ぼそぼそになったりと、良い肌を出すことは難しい。
今回のように3尺近い幅の1枚板の戸板では台の調整を最良なものに維持することを求められるのは無論であるしね。
こうした針葉樹は一枚刃の鉋の方が良い削りができる。
しかしこれはこれで仕込み、調整は高度なものが求められ、決して安易であるわけではない。
ただ完璧に掛けることができるならば、独特の光沢と艶を醸し、広葉樹のそれとは全く異なる肌目に出会うことができ、これは嬉しいことだ。
へたな塗装など不要。杉の白木の良さは見事な鉋捌きで光り輝く。
明日は“うずくり”の道具を近くの大工道具屋に買いに出掛けねばあかん。
数カ所電話で確認したが、ほとんどは既に扱いをやめていて、隣町、焼津の道具屋にあった。
ごしごし、とがんばっていこう。

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • こんばんは。
    経験は浅いですが、杉について同感です。
    また、道具の仕込み以上に、扱う技術があらわになる材だとも感じました。

  • しろうと、さん。杉材を良く扱われる方のようですね。
    同じ針葉樹のヒノキともかなり異なるフィーリングです。
    >道具の仕込み以上に、扱う技術があらわになる
    そうかも知れません。
    雑木(広葉樹)はある種、力任せに御することもできるかもしれませんが、
    杉は本来の力量が問われるものなのかも知れません。
    鉋を片手で軽く引くだけで良い削りができるような感じ、とでも申しましょうか。
    無論、鉋に限らず、鋸、鑿でも同様に力量の本質が問われますね。
    コメントありがとうございました。

  • うずくり、平出さんのHPにも出ていますね。
    3種類掲載されています。
    荒加工から仕上げまでの3種類でしょうか。

  • 薄削りで有名な大工の阿保さんも杉が一番難しいと
    言ってました。
    わたしには出来そうにありませんね・・・

  • acanthogobius さんは杉を扱われたことありますか?
    道具屋には結局“かるかや”のものしかなく、他は無かったので、調理器具を扱う店舗でシュロを束ねたものを求め、この2種で仕上げました。“かるかや”はかなり粗い仕上げになってしまいますね。
    (平出の“ツグ”はシュロと同等の粗さと思われますからね)
    ユマニテさん、
    >大工の阿保さんも杉が一番難しいと
    やはりそうですか。
    あなたの刃物へのこだわりは半端ではないので、機会があればぜひ挑んでいただき、序でに極めてください。

  • 私の工房のある所は山武杉で有名な所です。
    所々、杉林がありますが、あまり手入れはされていないようです。
    工房の敷地の中にも杉の木が生えています。
    サンディングなんかしたら凸凹になりそうですね。
    今のところ私には家具としては縁がないかな。

  • acanthogobiusさん、確かに杉材で家具、というのは、ちょっとね。
    ヒノキでしたら、大いにあり得ますがね。
    ただ挽き物ですと、杉材はなかなか魅力的な素材になります。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.