工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

舞良戸

舞良戸1
室内の建具も最近ではもっぱら戸板に化粧合板を用いたフラッシュ戸が用いられるというのが一般的だが、日本建築の空間を仕切る建具を安易に考えて良いということにはならない。
ことに和風建築ともなれば、端正さ、粋に見せるための材質の選択、デザイン、仕事の品質が求められるというものだね。
今回用いた舞良戸は古来より広く用いられてきた建具の基本的なデザイン。
数枚の板で構成された戸板を舞良子と呼ばれる桟で直交させ、框で組んだ枠に納めるという簡素なものだが、針葉樹の板目の戸板と、戸枠、舞良子の柾目の端正さが活かされた存在感のある建具だ。


舞良戸2かつて、前田南齋氏の多くの作品が収められている遠山記念館を訪ねたことがあるが、ここの建具にこの舞良戸が用いられていたことを思い出す。
この舞良戸の表情は枠のバランス、舞良子の見付け寸法とピッチの関係、あるいは舞良子の断面デザイン(面取り)などで決まる。
詳細は建築関連の様々なテキストとして提供されているので、それらを参照すれば良いだろう。
うちでは家具の扉においても、水屋風のカップボードなどにこの舞良戸を取り入れることが多い。
しかし今回のように秋田杉での舞良戸という本格的な建具制作の経験はめったにはない。
このような経験を与えてくれた施主には感謝したいと思う。
舞良戸3今回の舞良戸の関連する寸法を記しておこう。

  • 枠組:2,060L 825W
  • 縦框:32t 40w
  • 横框(上桟):32t 95w
  • 横框(下桟):32t 160w
  • 舞良子:24w 14t
  • 戸板(1枚板):12t

横框が標準よりも、かなり幅が広い。
これは入手できた戸板(面材)寸法が1,800mmという制約からきたものであり、仕方がなかった。(市場では、この1,800mmというのが標準なので仕方がない)
また4分(12mm)は厚すぎると思う。6〜7mmほどが一般的かな。
そもそも舞良戸というものは、板戸を軽くしながらも堅牢さが確保できるものということであるからね。
しかし今回は化粧合板の対極で厚めにした、というわけじゃ(強がり (-_-;)
なお表情を決定づける要素の1つでもある面形状だが、枠の内法はごく一般的な1分の角面(したがって仕口は蛇口)、舞良子は兜布面。
画像は特に説明は不要だろう。
1つだけ付記すれば、上下の桟の鴨居、敷居に接する部分には真樺を埋め込んでいる。
言うまでもなく、鴨居、敷居の滑りを良くさせ、摩擦による経年劣化を防ぐための配慮。
真樺の四方柾の木取りである。
なお框、舞良子の木取りはくれぐれも良く乾燥したもので、また目の詰んだ柾目の木取りでいきたいもの。
端正さ、粋を見せるには、板目では重く、やぼったくなる。
これは建具の機能上要請される反りの防止という意味もある。
今日は二十四節気の「穀雨」。これを意識してのものか?、明日からは雨だそうだ。
木工仕事もたいしたことはできなくなる。

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  • こういう建具の入った家に住んでみたいものです。
    良い香りも伝わって来そうです。
    せっせと宝くじでも買いますか。
    これだけ長い距離の蟻桟を、これだけの本数納めるのは
    やはり加工精度が重要なのでしょうね。
    ところで、この舞良戸は家の中の、どのような位置に
    納まる物なのでしょうか?
    所謂、襖と同じような使われ方と考えて良いのでしょうか?
    と、言うことは、今回は同じ物を何枚か作られたのでしょうか?

  • 失礼しました。
    2つ前の記事に記載がありました。
    茶室用でした。
    ということは、これは一枚だけですね。

  • きれいな戸ですね。まいらどと読むのでしょうか?桟がまいらこ?初めて耳にする言葉です。素人ですみません。なんか素敵な呼び名ですね。

  • acanthogobiusさん、あなたらしい質問ですが、加工精度についてはさほど難易度が高いものでもありませんよ。
    舞良子は24wですが、蟻溝は底が20mmほどのルータービット、1発で突くだけですからね。
    嵌め合わせの堅さのばらつきは少しは出てしまいますが、堅からず、柔らかからずの案配でやれば上手くいくものです。あまりきつすぎると、杉ですので折れちゃうでしょうね。
    茶道口に嵌めるもので1枚だけです。
    同じ戸板を数枚セットで確保しちゃいましたので、どなかた注文くださいませんでしょうか(苦笑)
    Y.Oさん、ごめんなさいね。解説もなしで書き進めてしまいました。
    舞良戸はお察しの通り、まいらど、と読みます。
    細い桟が“まいらこ”ですね。舞良桟とも言いますが。
    日本古来の建具の代表的な様式です。
    元を辿れば、蔀戸というものから発する様式であることは知られています。
    余計に分からなくなってしまったかな。
    蔀戸(しとみど)というのは書院造りに良く用いられたものですが、建築史的にはかなり年代を遡ることができるはずです。
    この蔀戸というのは、外部と室内を仕切るものですが、上桟を支点として、紐で外に跳ね上げるという機能を持つものです。
    これは框に板を嵌め、これを細い格子で押さえるという、まさに舞良戸の様式を既に備えたものでした。
    現在では茶室、あるいは社寺仏閣で観ることができますよ。
    古刹などご覧いただく機会があれば、ぜひ注目してみてください。
    舞良戸は、これを扉式に進化させたものと考えれば良いでしょう。
    なお、舞良戸、という呼称の語源は諸説あるようで定かではありません。
    家具の建具に取り込むのも、なかなか良いものですよ。

  • 丁寧な解説ありがとうございました。蔀戸ですか。ルビがなければ読めない。舞良戸といい、蔀戸といい、語源が知りたくなりました。言われを知ると忘れませんね。舞良戸は普通サイズの建具には使われないものですか?家具とか茶室というとサイズが小さいものにむくのですか?

  • Y.Oさん、
    >語源が知りたくなりました
    語源を知るというのは、その原初的な形態に接近する最も適切で有効な考えですね。
    (現代における)舞良戸の一般的なサイズは、やはり3×6尺でしょうね。

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