工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

「Secretary」あるいはビューローへ

鍵
ここ数日デスクワークが続き、なかなか集中的に作業に入れない日が続いている。
ボクがこのようなもの作りの世界に飛び込んだというのも、事務作業が向いていないという自覚があったからで、少々手先が器用だ、もの作りが好きだ、ということよりも実は大きなインセンティヴだったのかも知れない。
そんな訳で今日もドラフターに向かったり、Macに向かったりと部屋で過ごす時間の方が多い日は身体が優れない。
やはり工房に入り浸って、機械加工やら、鉋掛けで汗を流す方が身体には良いようだ。
適度に身体を動かし、少しばかり頭も回転させ‥‥と、この木工稼業というのも仕事としてはまさに天職だな、とひとりほくそ笑むのだが‥‥。
そうした仕事を充実させるためにも逃げてばかりいられないのがデスクワークであることも確か。
今日はある大手出版社発行の雑誌メディアからの投稿依頼の原稿を作ったり、ボクが制作する家具のラインナップの中では高級な部類に属する「Secretary」(ライティングビューロー)の制作依頼に関する設計見積もりをしたりと勤しんだ。


この「Secretary」だが、顧客からは引き出し、扉にそれぞれ施錠が出来るように、との要望。
Webではそうした鍵付きのものも掲載してあるように、決してめずらしいケースではない。
ただ、これまでの金具メーカーでのこのデザインに合う鍵が廃盤になってしまったものも多いようで実際困り果てている。
もうとにかくこうした金具メーカーも市場原理主義とか言う奴の影響なのだろうか、需要が少なく採算の合わないような金具はバッタバッタと切り捨てるというような経営戦略を強めつつあるのように感じられてならない。
面付けタイプのものだとシリンダー錠も比較的選択肢もあるのだが、彫り込みに対応するものは国産ではほとんど無く、頼りの独HÄFELEも廃盤にしたものが多い。
若干在庫もあるので今回は何とかなるのだが、今後は新たなメーカーへのアプローチも含めた対応が求められるだろうね。
あと、何らか銘木で杢の厚突きを探さねばならない。
机面(ワークトップ)において必要とされる必須のものだから。
框組みされた表側は通例に無垢板を嵌め込み、その裏、つまり机面になる羽目板部分は完全に動きを止め、隙間なくタイトに嵌め殺し(おぅ怖っ)しなければならないところだからからね。ベニアリングしなければならない。そのフェイスに杢板を張る。
一般に高級なものでは皮が貼られることも多いが、耐久性他考慮し、ボクは杢板を練ることが多い。杢をシンプルに貼られるのも良いだろうが、展開張りなどで趣を与えるのもおもしろいもの。
良く、うちは無垢で作っています ! 、ドンナモンダィとばかりに机面も無垢板をそのまま落とし込むこともよく見かけるが、これはトンデモナイ手法。
無垢板でありさえすれば高級だなんてのは嘘っぱち。
無垢板は当然にも痩せ、框枠との間に隙間ができ、書き物をすればペンがはまり込み、用紙はずたずた。
机に求められる基本的な機能など無視した所業というわけだね。
この「Secretary」(ライティングビューロー)だが、実は訓練校での修行当時にもかなり本格的なもの(松本民藝の定番のような)を数台作らせていただいたことからスタートし、その後、横浜クラシック家具の職人だった親方から、さらに様々なバリエーションのものを作らせてもらうという機会に恵まれてきた。
あるいは上述のワークトップの仕口については、カールマルムステン帰りのMさんに様々な情報を伝授されるなどして、この「Secretary」に関してはいわば自家薬籠中のものといった得意な分野となっている。
そうした恵まれた修業時代を経てきたおかげで独立後も機会を頂く度に、様々なスタイルのものを制作してきた。
やはり如何に時代が進化し、ネット社会という情報革命の後であっても、こうした技というものは練達された職人の手から、職人志向の若者への手へと伝えられるという意味に於いては実にアナログな世界ならではのものがあるのかもしれない。
さて上述の雑誌メディアからの投稿依頼だが、掲載されるようだったらうれしいが、またその時にご案内したい。
*お詫び:そうそう昨日の記述に間違いがあった。
今年の大寒は21日、今日なのだそうだ。
体感的にもそうだよね。ブルルッ、だね。
寒冷地の皆々様、大寒 お見舞い申し上げます。
(大寒と言った二十四節気については、必ずしも日が決まっているというのではなく、月齢との関わりの強い太陰太陽暦からきていて、年によって多少のずれがあることなので、許されたい)

《関連すると思われる記事》

                   
    

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.