工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ウォールナットのライティングビューロー

ライティングビューロー1
ある大手の保険会社からの受注で制作したミズナラのライティングビューローとともに、このブラックウォールナットのものを制作しておいた。
既にWebサイト「木工家具の工房悠」には楢材とともにマホガニーのライティングビューローを置いてあるのだが(こちら)、依頼主は家具関連サイトへの検索でこれにたどり着き、白羽の矢が立った、ということのよう。
あまたある家具関連サイトから選んでいただいたことは光栄なこと。
しかしこれはライティングビューローというものはあまり制作されることが少ないせいか、ネット上では意外と良質なものが探し出せなかったからなのかも知れない。
このブラックウォールナットの方は既に納品されたミズナラのものとは材種だけではなく、サイズ、お宮(内部の仕切り部分)のデザイン、鍵の構成、など、いくつかの違いはあったものの、基本的フレームなどでは共通部分が多いので、加工生産性も高まり、結果、制作費用の低減に繋がっている。
なお、同じ材種でやれば、木取り(木拾い)において、より良質な選択が可能となるだろうから、如何に受注制作とはいえ、こうした手法は有効である。
販売力があれば一定のLOTでの制作も可能となり、よりコストを押さえることができるようになるが、しかしある限度を超えるあたりから品質管理における別の問題が出てくるだろうから難しい選択ではあるね。
仕様など簡単に紹介しておこう。


ライティングclose駆体、帆立と天板の接合は天秤差し。天板、帆立は無論のこと一枚板。
こうした基本的な部材においては矧ぎはしたくないもの。
わずかに400〜450mmほどの幅であるので決して木取りにおいて過度な要求ということではないしね。
天板、帆立接合の手法にもいろいろあり得るが、これについては過去記事を参照していただきたい。(こちらこちら
次に台輪だがトラッドな様式では、一般に箱台輪方式が多いようだが、ボクはこのように帆立をそのまま接地させる様式を好む。したがって蹴込み台輪。
駆体下部は2杯の抽斗と観音開きの扉。
お宮はシンプルに、A4サイズの仕切りを基本とし、小抽斗の前板はクラロウォールナットの雅味な杢部分を持ってくる。
ライティングビューロー3
因みに上部扉の机面の羽目板部分もクラロウォールナットのバール杢。(画像上)これを展開張りする。
この部分は高級なものでは皮が用いられたりすることも多いのだが、ボクはそれに替えて、バール杢を練る。
ライティングビューロー4上部扉は鍵付き。抽手はなく、扉の開閉はこの鍵で行う。
この鍵を設けるというのはなかなかやっかいな仕事になるが、そのようなものとして取り掛かれば、存外楽しく仕事ができるもの。
なお背中だが、こうしたキャビネットではボクは框に組んだパネル(無垢材)で収めることが多い。いわば洋式家具によく見られる手法。
したがって壁際に置くのではなくとも、美質において良好。
次に機会があれば、このビューロー、大きくデザインを替えてチャンレンジしたい対象ではある。

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  • ライティングビューローには憧れのような感情を
    持っています。
    私は今のように家具作りを始める前に購入した北海道
    民藝家具の小型ライティングビューローを使っていますし
    私の父は松本民藝家具のそれを愛用しています。
    松本民藝家具では定番商品となっていますね。
    この手の家具が実用的か、と言われると?が付きますが
    やはり、一度は使ってみたいと思わせる何かがあると
    思います。
    ブラックウォールナットのビューローはまた全然違う
    雰囲気があって存在感があって良いですね。
    ただ個人的に気になるのは斜めに切られた木口が
    やけに自己主張しているところでしょうか。
    写真からだけの感想ですみません。
    濃淡がはっきりした木だけに難しいですね。

  • acanthogobiusさん、ご自身のことも含めての詳しいコメント興味深く拝読しました。
    確かにライティングビューローと言えば、その実用性に疑念を持たれるところもあるようですが、しかし家具は必ずしも実用性本位の用途ばかりでもないようで良くご婦人方から求められることも少なくないようです。寝室などで、ちょっとした読書、書き物をするには良いようです。
    仰るようにこのジャンルの家具では松本民藝家具、あるいは横浜クラシック家具あたりが代表格ですね。
    ボクが木工の基礎を学んだ松本の訓練校では、地域柄、松民のスタイルに準じたライティングビューローが良く課題となり、ボクも数台制作しましてこれが県下の訓練校による合同卒業記念展で最優秀賞を頂いた思い出深い家具でもあります。
    >斜めに切られた木口がやけに自己主張している
    確かにそうした見方もできますね。
    木の木目の配列(色調)から、そうした結果になったようです。
    ある種、一枚板ならではの制約とも言えますでしょうか。
    実物ではさほど気にならないものですが、画像にすると気付かされることもありますね。

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