工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

春は微温な気分で

楢
今日の仕事も快適にシアワセな気分で努めることができた。
工房内のオーディオプレイヤーから流れる「Buena Vista Social Club」に身を委ねたり、ヒッキー(宇多田ヒカル)の「Flavor Of Life」にエモーショナルな気分を高揚させられたからということだけではない。
乾湿計の針は30%台を指していた。
この時季なので、決して過乾燥という感じではなく、とても気持ちの良い陽気であったが、木工を生業にする者としてはとてもありがたい日々である。
今日はしたがってオイルフィニッシュ塗装を進めることができた。
Top画像はワードローブ・帆立部分、塗装途上のもの。(クリック拡大)
間口1,100、奥行き600、高さ2,000という比較的大きなサイズのものだが、帆立部分は框組、上下2分割で羽目板を収めているが、いずれも1枚板。
框の材は15年以上も前に全国広葉樹特別記念市で落札した、70cmを越える最上級のミズナラから木取りしたもので、柾目がストーンと通直しているすばらしい材。
一方画像で鮮明なように羽目板の方は、とても雅味のある木目が特徴的ないわゆる地楢(ジナラ)だ。
200年を越えるような樹齢のもの。
末口80cmを越え、長さも5m近いものだったが、これも地元の市で落札したもの。
下半分は虫害がひどく、それが嫌われあまりプロの人は投票しなかったのだろう。
でもボクはその原木の年輪に刻まれた樹齢とともに、かなりヌカ目でもあるために杢が期待できる木だと読んだ。
製材してみればいささか“あて”気味のところもあったが、なかなか木味の豊かな材だった。
これまで楢材の飾り棚などに限定して大切に使用してきた。
今回、このワードローブを制作依頼してきた首都圏のお若いカップルが、ぜひこの楢材でと、たっての頼み。
正直、ボクは一瞬我を失うほどに動揺した。
ワードローブのようなボリュームにふんだんに使われるのでは、これをもってこの滋味深い楢材は全て使い尽くすことを意味していたからだ。


他の客であったら断る勇気もあったが、この顧客、まだ未納品のクラロウォールナットのセンターテーブルをお買い上げ頂いた人であった。
そんな経緯もあったが、こうして見事なワードローブが制作されている。
さて、画像ではなかなかその色調は分かっていただけないと思うが、このオイルフィニッシュ。少し着色してある。
昨日も書いたばかりだが、楢材という白木にはオイルフィニッシュはあまり適切ではないとボクは考えている。
これは阿仙で着色した上にオイルフィニッシュしている。
やや濃い目の阿仙の水溶液を作り塗るのだが、無着色と較べると、ビミョウにライトオーク調に着色される。
本来は一般に民芸色を出すために、重クロム酸溶液で発色させるための媒染のようなものだが、これだけでも効果はある。
重クロム酸は劇薬であるから使わないというわけでも無く、時折使うこともあるのだが、今回は阿仙だけでいく。
昔、和光で前田純一さんの個展を観覧させていただいた際、確か栗のベンチとセンターテーブルだったか、良い雰囲気を出してたので伺ったことがあったのだが、これにも阿仙が使われていたように記憶している。
実は自家消費で同じ楢に阿仙着色+オイルフィニッシュの家具があるのだが、経年変化もなかなかに良く、大変気に入っているということもある。
ワードローブなので、この阿仙着色は外回りだけで内部は無着色。
一般に塗装は組み上がってからというのが基本であろうけど、拭漆を含め、組んでからだと首尾良く塗装が仕上がらないことも多く、こうして帆立だけ組んで一旦塗装しておくと言うことは良くある。さらにはこの羽目板も帆立を組む前に1度オイルを掛けている。痩せて無塗装の部分がでちゃうからね。
こうして最上級の楢材が、まずは良い状態で塗り上がったことに大いに感謝して冒頭に述べたシアワセな気分に浸ったというわけだ。
この後まだお釣りが来た。
週末恒例の買い出しで、禁漁が取れて、めでたく生の桜エビと生のシラスが手に入ったからね。これは残念だが静岡限定品。どちらも足が速いからね。
さて明日日曜日は地域の農水道の一斉大掃除。
非農家も全戸が駆り出され、汗を掻く。皆さんはお花見でしょ。
良いお天気になるでしょう。
実はネットである新製品を見つけたので、明日はそれを記事にしたいと考えている。明日はアルコールが回ってくるので、upできるかは未定だが。
まだMacからは「Buena Vista Social Club」の陽気な中にも哀愁を帯びたメロディーとラテンのリズムが流れて、気分はとてもおだやかだ。
そう言えばヴィム・ヴェンダースが新作を撮ったという話しがあったけど、チェックしなきゃ。
楢塗装

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • この羽目板は先日、製材所で薄く挽いてもらうところが記事に
    なっていたものですね。
    何か日本人の感性に訴えかけるような木目です。着色も色を付ける
    というよりは材の中に含まれている成分を色として表現してやるという
    方法が何か自然で良いですね。参考にさせていただきます。
    しかし、若いカップルがクラロのセンターテーブルに今回のワードローブ
    ですか。趣味の良さは分かりますがお金もあるんですね。

  • acanthogobiusさんこの週末工房は如何でしたか。
    >この羽目板は先日、製材所で薄く挽いてもらう
    そうですね。あれです。
    木目の画像ですが、鮮明に撮りたかったので、あえて自然光線が低い角度で入射するようにして撮りましたが、お分かり頂き嬉しいですね。
    植物染料はやはり顔料着色とはひと味違うようです。
    お客様も様々です。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.