工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

CLAROウォールナットの飾り棚

梅雨ど真ん中の今日この頃ですが、皆さんの地域は如何でしょう。
各地に被害をもたらした先週の土砂降り、当地域も豪雨でしたが、週末以降、空梅雨で推移しています。

陽性と言いますか、最近の日本列島の気象は南洋のようなメリハリがきつい傾向にあるようです。喜ばしいとは言えませんな。
日本は中庸がよろしいようで、‥‥、気性もそうですが、気象も、ですね。

しかし、今日など湿度計見れば、何と40%台。
ありがたくも、仕事の捗りはすこぶるよろしいです。

さて、この画像、作品名には、但し書きが必要かもしれない。
respect for Krenov と。

respect for Krenov

いわゆる飾り棚とでもいうキャビネットになるが、ボクがこれまで制作してきた様々な飾り棚とはひと味趣向が異なっている。
デザインというのか、構造というのか、まぁ両方だが、ご覧の通り、大きく二分割される上下はそれぞれ間口寸法が違っている。
上下に柱の太さが変わり、それを繋ぐ棚口、横桟なども合わせて、厚み方向で変化している。
左右それぞれわずかに2分ほどの絞り込みでしかないが、ただそれだけで化学変化をもたらしてくれる。

J・クレノフ氏の作品に親しむ人はただちに理解していただけるだろうと思う。
こうしたデザイン、構造のキャビネットを数種、展開している。
良く似たものもあれば、さらに上下に三分割され、間口寸法の変化を見せているものさえある。
あるいは、このような納まりではないが、ほぼ同様のフォルムを意識したデザインのものをたくさんみつけることができるはず。

それほどに思い入れのある作品群であると考えられるので、他者がこれを意識して作るからには、相応のクォリティーを持つモノとして作り上げねばならないだろうね。
またしたがって名称には〈respect for Krenov〉と付記したいと思う(せねばならない、と言った方が良いのかな?)。

さて、前振りはこの程度とし、紹介に入っていきたい。

まず材種だが、本体はブラックウォールナット。
樹齢のある原木製材、天然乾燥のものを使っているので、色調の良い良質なもので構成することができた。
鏡板、地板、天板なども全て矧ぎ無しの1枚板で構成。

扉と抽斗はClaroウォールナットである。
2枚づつの構成は、いずれもブックマッチ。
ただ扉だが、ご覧の通り框組みではない、1枚の板でプレーンに納めることにした。

したがって構造としてはラミネートである。表裏を3mm厚のClaroの単板、中央芯部はランバーコア材。

比較的最近、同様の構成での李朝棚をご覧にただいたことがあるが、同じClaroとは言ってもかなり杢の出方が違う。

前回は全面に瘤杢が配されていたが、今回のものは違う原木で柾目である。やや縮み杢が見えている。
ただ、特徴としてClaroとしての自己主張が明示的であることを上げることができる。
扉の最上部、やや色調、木理が明らかに異なる部分がご覧いただけると思うが、ここがClaro固有の木理である。

つまり接ぎ木された痕跡が、このように現れてきている。
下が台木であり、上が接ぎ木側だ。Claroを用木として用いるのは、専ら台木の方になるわけだが、あえてClaroのClaroたる所以を一部用いたというところ。

同様に、その上の抽斗中央部も、同じく接ぎ木部分。
前回の突鉋の被せは、このためのもの。
つまり、扉をプレーンな板で左右を合わせたので、直近にある抽斗部分に束を見せるわけにはいかんだろうという、判断。
Claro接ぎ木部分で構成された扉、抽斗を統一的に意匠として構成してみたわけである。

意匠と言うことで言えば、扉の抽手部分に木理の変化があるが、木取り段階でも、ここに抽手を配置しようということで考え、構成したのだが、さて、成功したと言えるだろうかね。

上下の変化

二層の李朝棚とも言えるキャビネットになるわけだが、冒頭述べたとおり上下に間口寸法の変化を見せている。
またこの主要な構成部位である柱は45度に捻っている。
この捻りがフォルム全体の奥行き感とともに構造体としての豊かな造形を見せていると思う。

ボクはかなり初期の頃に、同様のことを試みていた。
〈シルバーチェスト〉という小さなものだが、この45度の捻りを、さらにテリ脚に削り込むことで、独特の表情を作り出している。
もちろんこれも、Krenovキャビネットを意識したデザインだった。

さて、制作工程について少し触れておけば、かなり苦労した。
まず、この45度に捻った柱の見込み側に付けたカマボコ面の成形カッターを作ることからスタートしたのだったが、しかし上下の寸法変化への切削対応も、ちょっと大変であったし、これに結合してくる棚口、横桟などの成形、あるいは納まりも簡単では無かった。

この変化を見せる結節点の成形もややこしい。

もっと大変なのは組み立て。
ボンド塗布、組み立て後、適切に加圧するするための当て木の多くを破損させながらの作業を強いられた。

もちろん、そうした苦労に見合うだけの造形を見せてくれていることには満足している。
苦痛と快楽の間の距離は、さほど大きなものでは無いことに気づかされるに十分な過程だったというわけだ。

ただ、この満足は、まずは作り手としてのものでしかなく、何ら客観性を持つモノでは無いわけで、こうしたデザイン、構成のものを作ることは、積極的にお薦めできるものではない。
チャレンジ精神旺盛で、カネより気持ちだろ ! と〈通念的なものへの断念〉の思いを共有する人で無ければやらない方が良いかも知れないね。

明日からまた梅雨空が戻って来るという。
沈思木考か、読書か、呑むか?‥‥それが問題だ

hr

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  • 「気性もそうですが、気象も、ですね。」
    artisanさんでも駄洒落を言うとは知りませんでした(笑)

    こういう物が置ける家には一生住めそうにないです。
    ところで、先日のように一日に2点アップされると、取っ手の項目を見逃してました。
    こういうタイプの取っ手でも、通しホゾの割りクサビになって
    いるんですね。
    知りませんでした。

    • > 取っ手でも、通しホゾの割りクサビ
      比較的一般的な取り付け方のはず。
      繊維方向からして、あまり褒められるものでは無いのですが、
      木ねじで引っ張るより、よほど堅牢に結合できますね。

      ただ破損したときの取り替えはやっかい。

      だじゃれが少ないのは、ただ才能が無いだけのこと …>_<…
      同音異義語は日本語にはたくさんありますね。

      私は性格は良いのですが、Blog記事は時に正確さに欠けることも。へへ。
      読者にとって大切なのは、後者の方ですね。

  •  リスペクトクレノフ!  
     この背丈をもっても和室に似合いそうだと思うのは、杉山さんの持つ遺伝子や風土感がそうさせているのでしょうか。ブラボーです!

    • たいすけさん、痛いところを !
      ちょっと。いや、かなり大きめになってしまった。
      和室では無く、洋室に置いてもらいましょう。

      でもね。Krenovキャビネットの多くは、思いの外、小さいです。
      それはまるでモダンな仏壇のようなものもあったり‥‥と。

      大きくなったのは、扉にしたClaro単板のサイズから弾き出したことによります(いけない考え方です)

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