クラロウォールナット、素材の力
かつて若かりし頃の話しで恐縮だが、あるグループ展へ出展した時のこと。
そこは大都会の郊外に位置する個人オーナーのギャラリーで、工芸全般の企画に熱心なところだった。
出展メンバーは、知人の木工家、陶芸家、ステンドグラス作家と、バラエティーに富んだ構成。
会期中、立派な体躯の50年配の来客があり、ある出品物のところに一直線で向かい、しげしげとそれを凝視。
立ち位置を変えたり、下からのぞき込んだりしながら、時にほくそ笑み、時に腕を組み、そしてギャラリー主人とふたこと三言。
そして、会場にいたボクのところに来て曰く。
「これはどのように入手したの?」と、
聞けば、ジョージ・ナカシマの家具のファンで、オフィスにはいくつものコレクションがあるとのこと。
知人からこの会場にクラロウォールナットのテーブルが展示されていることを聞きつけ、やってきたのだという。この材木はどのように入手したのかが気になる様子。
しばし、原木の入手から制作に至る話しやら、ナカシマの話しなどを交わし、帰って行った。
その翌日、このクラロウォールナットのテーブルを購入したいとの連絡が入る。
クラロウォールナットをこよなく愛する数寄者
(実はギャラリーオーナーの親族も望んでいたようだったが、これは後日あらためて同じ原木からの物で作ることになった)
その数年後、その会場から数100km離れたところでの個展会場には、また別の原木のクラロウォールナットのセンターテーブルを展示した。
そして、またその時と同じように数100kmを移動してこの客がやってきてくれた。
どうしてもこのクラロウォールナットを見たかったのだという。
この時のものは最初に買い上げてくれたものと較べればボリュームにおいては劣るものの、木理においてははるかに勝っていた。
そして、今度はクラロウォールナットのテーブルではなく、同じコーナーに設置してあった座布団チェアという、うちの定番椅子を1セット注文して帰って行った。
そして翌年のある日曜日の昼食を終えた頃、「ホームページで見たのだが、クラロウォールナットのテーブルは今はあるの?」と見知らぬ人からの電話。
たまたま在庫していたのが1台あった。
東京からの電話だったので、こちら方面に来られる序での時にでもご覧ください、と返事をしておいた。
そしてその日の夕刻である。美しい女性を供だって、この電話主が瀟洒な車でやってきた。
慌てて、倉庫から引きずりだしお見せすると、にんまりとし、それが欲しいと言い出した。
げに怖ろしや。
それぞれ、実は既にクラロウォールナットの家具を持っていて、その魅力に取り憑かれた人達である。
ひとりは都心の広大なオフィスにJ・ナカシマのデスク、キャビネットが鎮座していたし、もうひとりは、国内の無垢材をウリにする家具屋が作ったクラロウォールナットでできた小ぶりの食卓を持っていた。
このようにクラロウォールナットの魅力を良く知る数寄者たちではあったが、しかし、決して安価なものではなければ、購入への飛躍はいくつもの条件をクリアしなければならないのは言うまでもない。
クラロウォールナットという彼らにとってのアイコンも、自然有機素材であれば、実は様々な美質と魅力を固有に持っているのであり、その鑑識眼、美意識に応えるだけの素材の魅力、そしてこの魅力を十全に引き出すことのできる仕事力、つまりは削り仕上げることのできる腕力と鉋の使い手としての職人力、さらにはまたこの材種にふさわしい家具として整えられるデザイン造形力、そうした様々な条件をクリアしてはじめて、購入への飛躍を決意してくれだろうことも明らか。(少しは仕事における自負も記しておかねばまずいからね)
それでもなお、やはりクラロウォールナットという素材の力に助けられて、良い顧客との出会いを作ってくれことに違いはなく、木工という工芸分野における素材が持つ力に依存しつつ仕事をさせていただいていることへの思いは強い。
クラロウォールナットの塊から
さてそして、今回はそれらの製材過程で出てきた原木のブロックを再製材し、確保していた単板である。
1.200mmまで製材できる工場でも手に余る原木であったので、製材機に掛ける前に、大型チエンソーではつっていたもの。
いわゆる根杢。ご覧のようにバールがびっしりと出ているのだが、ピスセンターから放射状に広がる杢は縮み杢様に醸す。
テキストとして語り尽くすことのできようも無い、このクラロウォールナットの魅力におけるある種の極地とも言える代物ではないだろうか。
実は今回のこの撮影は何もBlogのためのものではなく、あるキャビネットの扉に用いるために、サンプルとして撮影し、顧客に提示するためのもの。
この顧客は若い人でありながら、木工芸と自然木に強く魅入られている数寄者のひとり。
午前中にメールで添付したところ、お昼過ぎには、了とするとの返信。
この6mm単板をスプルースなどの集成材に練り付け、ブラックウォールナット製のキャビネット扉を構成する。
仕事は来年の夏頃か。困難な仕事を請け負ったものではある。
しかしその困難さも、このクラロウォールナットに触れ、削り、撫で回すうちに快楽へと導いてくれるかもしれない。
Top画像(クリック拡大)は、天然乾燥後に再製材した単板。
木目を見ていただくために、水で濡らしただけの状態でパチリ。
(練るので、オイルは使えない)
中央部にバール杢が集中し、辺材側に向かい、放射状にバール杢が広がる。
その間の年輪を構成する木質細胞の例えようもない色調の豊かさはクラロ独特のもの。
画像下は元の同じ原木から作られたセンターテーブル。
1,400w 1,000d 350h、Clarowalnut、Blackwalnut、Curly Maplele
クラロウォールナット
ブラックウォールナットの亜種だが大変貴重な材種。
主に北米西海岸に産する。幼木の頃、米国産ブラックウォールナットに西欧のウォールナットを接ぎ木したもの。(その痕跡が板上にくっきり残っている)
性質もブラックウォールナット以上に粘りがあり、きめが細かく、色調もとても複雑で多くの色が絡む。
そのほとんどにちぢみ杢、こぶ杢などのさまざまな杢を醸す。
入手困難で高価なためそのほとんどは突き板、合板にされ高級家具となる。
acanthogobius
2010-12-21(火) 22:08
うーん、この雪?はすごく邪魔ですね。
折角のクラロが台無し。
artisan
2010-12-21(火) 23:42
お気を悪くさせてしまったようで、スミマセン。
お使いのブラウザの〈環境設定〉に〈JavaScript〉に関するタブがありますので、これを「無効にする」ことで降らせなくできます。
‥‥期間限定的なものですのでご容赦ください。
たいすけ
2010-12-21(火) 23:11
このイバリ、削ってみたいですねぇ、、。
製材の際のはつり屑は、何故か取っておいてしまいますね、根杢が多いからでしょうか。
僕の工房前にも、こんなブロックがいくつも転がってます、、もうじき雪をかぶります、、いい風景だと思います。
artisan
2010-12-21(火) 23:42
「イバリ」と呼ぶのですか。
なかなか言い得て妙な表現です。
実はこのCLAROに関しては、思われるほど鉋掛けは大変ではありません。
細胞配列が緻密で靱性が高く、粘着質がある感じで、破綻のリスクは少ないですね。
仰るように、こうしたブロックは原木を取り扱う者に与えられる特権です。