機械、電動工具をその性能、品質から考える(海外メーカーとの比較において)【その6】
木工機械、電動工具の現状
木工機械産業の低迷
うちで稼働している木工機械で、現在もなお経営を継続している製造メーカーを探すのは、実はとても困難です。考えて視ればこれは異様な状態と言うべきでしょう。
その多くは業界でも屈指のメーカーばかりです。永和工業所の「横切盤」、桑原製作所の「自動一面鉋盤」、太洋製作所の「手押鉋盤」、等々。
この3社以外にも、木工機械専業メーカーは、ここ数十年の間、次々と廃業しています。
NCマシンなどの開発力のあるメーカーは残存しているようですが、汎用機を主たる製造対象としていたメーカーは業務を畳む方向へと経営判断をしているというのが実態です。
この理由についてはあえてここで詳述することもないほどに自明なこと。
日本における木工産業は衰退の一途を辿りつつあることが最大の理由ですね。
家具業界は相応の需要があるでしょうが、国内で生産するという業種では無くなってきているわけです。
マーケットそれ自体は、人口減少とともに、わずかながら縮小傾向にあるのかもしれませんが、それにしても、です。
いくつかの原因が考えられますが、ニトリ、IKEAに代表されるように、海外から価格遡及での廉価な家具商品が雪崩を打って輸入され、消費者の足はそこに向かっていっているという現状から読み解くことは容易ですね。
あるいは、製造会社としてはまだまだ力を持ちながらも、製造拠点の多くは海外へとシフトさせられ、国内では商品開発と営業部門だけ、といった実態であれば、日本の機械メーカーが弱体化するのも当然です。
丸仲鐵工所など、一部のメーカーなどは以前より海外進出を図り、国内需要の低迷を補っているようですが、そうした海外進出のノウハウを持たず、国内需要のみで経営してたところは軒並み経営状況は悪化の一途で、廃業へと向かうしか無かったのでしょう。
これはとても残念なことです。
日本の木工機械の性能も様々ですが、冒頭に上げた桑原の昇降盤、自動一面鉋、ジョインターなどは世界の市場でも、その先端に位置する品質と性能を持っていると考えられますし、ここ静岡では服部というメーカー(10年ほど前に廃業)の昇降盤などの機械群は、中古市場においても引っ張りだこという状態です。(人気度を示す逸話ですが、以前、この服部が作る銘品、昇降盤の完全コピー商品が台湾から出回った時期がありました。)
そうした性能と品質を誇るメーカーの技術体系が断絶してしまうというのは実に哀しいことです。
例え、そうした機械が残存し、設計図も残っていたとし、別メーカーがそれと同じ機械の製造に踏み切ったとしても、本来の性能を再興するのは決して簡単なものでは無いでしょう。
どういうことかと言えば、人的資源が途絶え、技術の伝承が為されず、図面だけで再興できるほど甘くは無い、技術の集積、職人集団の成果であるからです。
さて、それらに比肩する海外の木工機械は決して多くはありませんし、またあったとしても積極的に輸入している代理店も多くは無いというのが実態。
(汎用機における海外メーカー代理店展開:DELTAの輸入代理店も半ば休業、オーストリア・Felder社くらいでしょうか)
将来的には需要を見込み、日本市場を相手に販売展開をはじめるところも出てくるでしょうが、今は端境期とでも言うところかもしれません。
今後の推移を考えますと、やはり木工産業の動向如何に関わってくるわけですので、安易な見通しは立たないというのが正直なところです。
中古木工機械
こうした現状を背景とし、元気に活動している木工機械屋も少なくありません。
他でも無く、中古木工機械を積極的に扱う業者です。
木工機械は、必ずしも先端的な工業技術が集積したものである必要性は無く、堅牢な鋳物を素材とし、高度の機械精度と、使い勝手の良い構造、機能が要求されるという特性から、製造年度が例え旧くても、回転部分、ベアリングなどの摩耗個所を交換し、摺動部分を洗浄し、オーバーホール、メンテナンスすれば、かなりの耐久性がありますので、中古機械とは言っても、十分に使用に耐えるものという特徴があります。
因みに、冒頭画像の3台の機械のう中で、新品で導入したのは永和の横切盤だけです。
桑原の600mmの自動一面鉋盤など、4百〜5百万円ほどの価格でしたので、とてもとても新品では買えません。
ただ、こうした中古機械のメリットを活かすには、高度な技術と経験豊かな職人の力量が問われますので、ここでも技術の継承が欠かせないということでは、木工機械製造産業と同様の問題を抱えていると言えるでしょう。
国内での技能五輪への機械産業の関わり
数年前、静岡県沼津市で開催された「2007年ユニバーサル技能五輪国際大会」(「WorldSkills Shizuoka 2007」)というイベントがあったっことは記憶に新しいところです。(Blog内、関連記事:以前のBlog記事で、改行タグが壊れてしまっており読みづらいですが)(右画像は〈WorldSkills 2007 Shizuoka〉キャビネットメイキングの会場スナップ:公式サイトから提供されている画像より)
この木工分野における機械、工具のサプライヤーになったのはオーストリアに本社を置くFELDER社、Festool社、日立工機などでした。
(右画像はWorldSkills 2007 Shizuokaにおけるスポンサー、サプライヤーの一蘭)
恐らくは世界大的な販売網を持ち、日本国内でも代理店展開をしているようです。
しかし、日本国内での技能五輪への機械のサプライヤーが、どうして国内の機械メーカーではなく海外であるのかに困惑を覚えるのは私だけでしょうか。
どのような選考過程があったのかは知りませんが、こうしたところにも日本の木工機械産業の衰退を観る思いがしますが、むしろ問題は他にあるのでしょう。
つまり、日本の木工機械は国際基準を満たしていないのではないのか、という問題が背景にありはしないか。
あるいはまた、一企業としてサプライヤーになるだけの余力が無いということもあるかもしれない。
恐らくは海外への輸出実績において、Felder社ほどに展開している国内企業は無いでしょう。Felderは米国にはいくつもの拠点を展開していますからね。
穿った見方をすれば、そうした社会的貢献への企業理念が成熟していない、といったことも考えられますね。
いずれにしろ、この技能五輪を巡っては、木工機械産業の業界組合はさぞかしホゾを噛む事態だったのではないでしょうか(それすら無いようでは、救われないです)。
日本の木工機械産業が活性化し、今後も良質で革新的なマシンを作り続けていく道があるとすれば、国内木工業を元気にし、企業体力を強化し、そしてその威力を駆って海外へと積極的に展開していくしかないだろうと思いますね。
そのためにも、グローバルスタンダードな仕様を基本とした設計指針が求められることは言うまでも無いでしょう。
こんなことを期待し、夢想するのは「世間知らず」の私くらいしかいないのでしょうか。
【World Skills Shizuoka, Cabinet Making 関連ビデオ】
[youtube]http://youtu.be/Vm0YOEiQUoU[/youtube]