工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ミズナラのテーブル

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このデザインは、工房 悠の、ある種、定番的なものです。
自分の中では未だ古びず、お気に入りです。

なにゆえ、と聴かれても返答に窮してしまいますが、
無駄を省き、テーブルとしての機能を満たしつつ、
端正な造形の美しさが出ているといったところでしょうか。。

造形、その1:甲板

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妻手は、なだらかな円弧にカットしています。
タイトな長形にするのも良いのですが、
こうして一部に曲線を取り込むと、柔らかな味がでます。

今回はナラ柾をブックマッチで剥いでいます。
その結果、いわゆるブナ科特有の虎斑(トラフ)と呼び習わす、斑が醸されます。
細胞学的には、樹芯中央から表皮へ向けほぼ水平に放射状に配列される随線と呼ばれるものですが、とても硬質であるために、こうした斑となって現れるわけです。

家具業界では、このトラフを嫌う傾向もあるやに聞きますが、英国家具で代表的な材種でもあるオーク材を用いたものは、このトラフが積極的に使われているのは周知の通りです。

これは板目木取りですと、どうしても反張の影響を受け反りやすいため、楢材は柾目木取りが基本とされたことによるものと考えられますが、
楢という木質ならではのトラフへの美的評価も加味されての、積極的使用法だったのではと思いますよ。

造形、その2:脚部

151023c脚部は妻手側から視ても、長手側から視ても、台形に造形、デザインさせています。
いわゆるハの字型ですね。

台形にすることで、物理的にはもちろんですが、視覚的な安定感が出てきますし、少しこうして転ばすことで、親しみやすさも出ますね。

現代のミニマルデザインとか言うのですか?
カチカチッとしたものが多いですが、これは近代合理主義(あるいは生産合理主義)からいきついたところの潮流であるとすれば、少しそれに反発しつつ、人間くさい、暖かみのあるものを志向しているとも言えるわけです。


左右、脚部の台形ですが、一見薄く見せているものの45mmの厚みを持っています。
これを外側だけなだらかに円弧状に削り込んであります。

円弧状に削り込んだのは、甲板妻手にも合わせつつ、薄いけれど、ボリュームを感を見せているわけです。

現代デザインにおいて、その先端を見せてくれているのがカーデザインであるといっても良いと思いますが、気品があり、洗練された車種のものは、こうしたボリューム感をうまく引きだしているところが共通するように思います。
(かといって、やたらと過剰に曲面を持たせたものは逆にやぼったいものです。さりげなくエッジを効かせたり、何気ない柔らかなラインが美しさを産むように思います)

仕事としてはこの円弧状カットが大変ではあるのですが、シコシコと平鉋を一汗、二汗と掻きつつ、狙いの円弧まで攻め込んでいくのは、苦行では無く、楽しい作業ではあるのですね。
うちは疎外労働には無縁で、好きにやっていますので、一見苦行に見えているとは言え、全てが楽しいというわけです(多少、やせ我慢もあるかしら?)。


なお、中心部に黒いラインが入っていますが、これは甲板同様、柾目木取りの材、2枚を剥いでいるのですが、矧ぎ口の雇い核なのですね。
このローズウッドの雇い核を、正面側だけスリット状にあえて見せ、アクセントとしているわけです。(工房 悠の意匠登録、その12、なんちゃって)

そして、この左右の脚部を4度ほど傾斜させ、甲板に送り寄せ蟻で接合しているわけです。

この角度もいろいろと検討した結果、4度となったのですが、なかなかビミョウですよ。

造形、その3:貫

左右の脚部を繫ぐ貫ですが、断面はただの長形ではなく、4隅を大きく楕円状に削り込んでいます。
一見、シンプルなデザインですが、やるべきことはしっかりと攻め込んでいくのが工房 悠の造形デザインです。

この造形デザインですが、あまり大きなテーブルには向かないかも知れません。
これは1.600mmほどですが、このあたりが限界かも知れません。

・・・う〜ん、美しい。自画自賛!

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 4度の脚部傾斜、ビミョウですね。
    わたしは、以前欅文机の脚部を5度傾斜の留め隠し蟻で組み上げたのですが、文机の高さだから広がり過ぎない安定感を持てましたが、テーブルでの5度は広がり過ぎて潰れていくような不安感が出て来るのでしょうね。
    写真だからでしょうか、わたしの見聞の浅さのせいでしょうか、全体的に小テーブル風に見てしまいます。
    お邪魔する際には、是非拝見させてください。(あっ!納品されて無いか!)

    考えないでおこう、そう思っていても空(くう)を見て作業していることがしばしばです。大きな怪我はしないようにせねば‥‥

    • 4度、5度、この差、1度の違いは意外と大きいのかも知れませんね。
      因みに脚部そのものの台形傾斜角は6度。
      これも必ずしも一律ではなく、全体のボリューム、バランスから導き出される最適解、というわけですね。

      記事では触れていませんでしたが、脚部、地摺りの中央付近の削り込み(エンジェル ライン)ですが、坊主面取りではなく、大きめの角面であえてラインを誇張させています。

      湖北の秋は早いと思いますが、暫し作業の手を休め、高い空(そら)を見上げるのも一興かと。

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