工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ミズナラの小卓

ミズナラの座卓

端正で美しい座卓です。
実はこれは2008年、東北のギャラリーを介し、個人の顧客から受注、制作したものだったのですが、テーブルトップの再塗装を依頼され、14年ぶりに工房に戻ってきたものでした。

制作時は写真撮影を行っていなかったため、あらためて撮影、保存したデータです。

制作から14年経過するところから、甲板部分は改めて削り直しの作業を経た上での再塗装になるだろうと覚悟していたものの…、驚きました。

確かに経年使用による甲板部分の風合いの劣化などは観られたものの、850mm幅の甲板の反りも全く無く、脚部に至っては、キズ1つ見当たらず、再塗装も不要なほどに納入時の状況を留めるものがありました。

無垢材ですので甲板の反りは避けがたいものがあるわけですが、脚部ディテールをご覧いただければお判りのように(下段に画像)、〈吸い付き寄せ蟻〉という手法で甲板を緊結していますので、長期に渡る使用にもかかわらず、反りは起こっていなかったようです。

加え、経年使用による甲板の痩せ(自然有機物であることで、大気に曝されることから少しづつ縮んでいく)も、この〈吸い付き寄せ蟻〉の内部で吸収され、外部への影響は与えてこなかったということです。

鉋イラスト

無垢材を用い、伝統的木工技法を投下し、丁寧な制作による木工家具がいかに耐久性が高く、高品質な価値を長期に留めるかの証しのような再塗装の依頼でした。

もちろん、この顧客のモノへの接し方、愛情を注ぎ、使い続けて来られたことゆえのものですので、あらためて感謝せねばいけませんし、また作者冥利に尽きる一件でした。

この小卓ですが、前回投稿の〈ミズナラの食卓〉と意匠においては同種のものになります。

テーブルから、座卓へとスケールダウンしたものですが、一部、異なるところがあります。

貫の意匠と、納まり

板脚と貫
板脚と、ここに貫通する貫

この小卓の構成ですが、左右の板脚を1本の貫で固定し、吸い付き寄せ蟻で構成されるということでは前回紹介のテーブルと同じですが、貫の端末は貫通したところへの閂(カンヌキ)は無く、逆台形状の枘を貫通させているだけです。

また全体的に弓状に成型してあります。
使用上、足の捌き、という合理的な意味もあるでしょうが、それ以上に美しさを追求する意匠的なもの。

閂をやめたのも、同じ。この程度のボリュームの座卓であれば、貫通していれば強度的には十分という考えです。
吸い付き桟の位置と大きく変わるものでは無く、抜け方向への圧力はさほど考えなくても良いということからです。

吸い付き寄せ蟻

座卓の構造

テーブルの方は、吸い付き寄せ蟻桟を介し、甲板に緊結されるという構造ですが、こちらは板脚の蟻からダイレクトに緊結されるという構造です。

ただ、一般の蟻の構造とは少し異なります。

実は、これは蟻のブロック部位のみ別材で制作し、これを板脚頂部に枘で埋め込むという手法を取っています。

確か、以前、このBlogでも紹介した事があるように記憶していますが(忘れました😓)、かなり昔からトライしてきたものです。

今回、14年経過も、甲板、板脚の緊結はまったく緩むことも無く推移していたことが確認できましたので、この二枚ホゾによる寄せ蟻仕口は場合によってはとても有用な手法となります。

鉋イラスト

以下、この枘建ての蟻ブロックについて加工プロセスを含め少しく詳しく解説します。

この板脚ですが、長手側も垂直では無く、ハの字に傾斜させています。
また、さらには板脚最上部の木口は内側のエッジは直線ですが、外側は円弧状に成形加工されています。

ここに蟻ブロックを形成させる加工上の難しさも重なるところから、蟻を板脚材の延長部に加工を施すのでは無く、ブロック状のものとし、枘で埋め込むことにしているのです。
(松本民藝家具においても、同様の技法があるようです。ただ私の修業時代にはこのような仕口は観ていませんでした)

加工は以下の通りです。

枘穴は2枚ホゾが必須です。
1枚の枘では、甲板の反張の力に負けてしまい、抜けるリスクがありますが、2枚であれば数倍の緊結力がありますので、ここは必須の要件になります。

枘穴の加工ですが、全体が傾斜しているところから、角度を持たせた枘穴加工が必要であり、簡単ではありません。こんな時に重宝するのがFestool社のDOMINOですね。

蟻のブロック加工

DOMINOを用いる事で、傾斜させた2枚ホゾを完璧な精度で穿つことが可能になります。
もちろん、このDOMINO加工では枘穴の両端がカッターの断面形状同様に半円状になってしまいますので、蟻ブロックの枘部位もこれに合わせ、半円加工しておきます。

ディテール画像ですが、このミズナラの小卓のものではなく、別の同様の意匠の時の画像ですが、読み替えて下さい。

なお、加工精度は極限的に高める必要があります。
蟻は強力な接合方法ですが、この精度が出ないことには、ユルユル、ガタガタになり、どうしようもなく無様なものにがちです。

二枚ホゾの蟻のブロック

ここでは、2枚ホゾの中央の抜いた部分の高さを一定にしなければ、蟻の高さを同一にすることはできません。
画像の通り、個々に加工するのでは無く、長い1本の部材を加工し、これを小割し、必要量を確保することで高精度の同一仕様のものを作ります。

ご覧になっている読者からすれば、こんなので本当に大丈夫なのかなと、懸念を待つ人もいるでしょうね。
機会があればぜひお試しあれ。

ただ私も、この傾斜角を有する場合など、この手法の活用は限定的です。
しかし、これまで抜けて緩くなるといったことは起きていないのも、事実であり、必要に応じてこうした二枚枘による蟻ブロックでの寄せ蟻を積極活用していこうと思います。。

hr

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