工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

チェリーの仏壇

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私は木工屋ですのでテーブルからキャビネット、椅子など、全般にわたり制作してきましたが、どちらかと言えばややキャビネットメーカーに傾斜していると言えるかも知れませんね。

そんな日常に時折仏壇の制作依頼があります。

桜が散り始める頃、以前より個展などをご覧いただいてきた画家のご婦人から仏壇制作の依頼が飛び込みました。
長期療養中であったご主人を亡くされ、間もなくのお話しでした。

これまでは描かれる絵の額の制作を請けた程度の関係でしたが、こうしてご主人のご位牌が納まる大切なものの制作依頼とあり、少し緊張が走りましたね。

遠方でご活躍されるご子息、娘さんとともに来訪され、ご相談させていただき、設計見積もスムースに運び、49日の法事には間に合いませんでしたが、最優先で制作に励んだものです。

ご婦人は高層階のマンションのお住まいということで、コンパクトなサイズで、自立、上下2段の構成としました。

  • 過飾を避け、シンプルな意匠で、かつ品位を感じさせるもの。
  • キホン矧ぎ無しの1枚板を用いたいが、予算もあるので、扉は框組で、

といった要望を基本とし、設計することに。


材種はアメリカン ブラックチェリー
ch-butudan03-main亡くされたパートナーは英語の教師を長年勤められ、米国へも頻繁に出掛けていたそうで、米国材を使うことに、これも何かの縁かも、と喜んでいただきました。

7〜8年ほど前、末口60cmほどの原木を求め、製材管理してきた良材があったればこその提案でしたが、良かったと思います。

下台の框に用いた50mm厚のものから、薄い鏡板まで、1本の材から穫られたものであるため、木取りにおける不自然さからは免れ、色調整せずとも統一感があります。

他の家具とは異なり、こうした聖なる祈りのための仏壇は木取りの段階から最上のものを使っていきたいものです。

私たちは材が無いと何も始まりません。
材があればこそ、顧客に具体的イメージを与えられ、ある程度のボリュームのあるキャビネットでも1本の丸太から供給することができ、統一感が確保できます。

上台

板差しの構成。幅広い帆立も矧ぎの無い1枚板。

内部は膳引き(引き出すことのできるトレー)を含み、須弥壇などの3段構成。
この仏壇は全てソリッド(無垢材)を用いていますが、膳引きのみは厚突きのチェリーをフェイスに、ランバーコアで錬っています(駆動部分であるため、反りの防止は必須)。

背板は框で組み、鏡板に本柾のブラックウォールナットを左右に配し、アクセントとして薄い黒檀を挟み、位牌を納める中央部には縮みのタモを逆三角形で構成しています。

内部照明

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2wのLEDランプ(電球色)を上部幕板裏側に取り付け、扉の開閉と連動させ、ON、OFFさせます。
当初、依頼者からは乾電池での駆動を求められ、そのように設計し、制作、納品したのですが、
扉を開けておくことが多く、電池の消耗が気になりAC電源に変えて欲しいとの改修依頼に。

元々、乾電池仕様でもUSB 5.5v供給での駆動であったことで、AC100v → USB 5.5v アダプタを介在させ、問題無くスムースに現場改修。

乾電池Boxは背部、下桟を彫り込み、納めています。内部からは隠れ、外部からもフラットに納まる設計。
内部配線も天板、帆立に溝を付け封印していますので、背板を外さないとアプローチできない構造です。

160919b仏壇の内部照明は以前より心がけ、依頼者へも積極的にアプローチしていましたが、最近の市場ではUSB規格の周辺機器(ランプ、配線端末、ケーブル等々)が充実し、容易に調達可能となりたいへん助かっています。

私は小学生の頃からラジオ作り(鉱石ラジオというもの)に励んだことがあり、ハンダコテ作業は得意ですし、今ではIT関連への関心も含め、こうした電気関連の作業にも自力で対応しています。

Mgキャッチ

扉のキャッチは、框最上部にマグネットを半埋込み。
対応する幕板側は、木部内部を彫り込み、ここにマグネットを埋込み、隠しています。
外部からはそれと感じさせることのない、完全な封印です。
マグネットはいずれもネオジム。
木部内部に隠すにはネオジムの強力な磁力が無いと無理です。

下台

ch-butudan02-det02框組です。
広い鏡板は、矧ぎの無い1枚板

上部に2杯の抽斗を配置し、その下は棚3段(上下可変)

抽斗前板は柾目の板を2分割で木取り。
ツマミはローズウッドで作り、前板を彫り込み、半埋込。抽斗の奥行きを確保するための処置でもありますね。意匠的にも好感されたようです。

Mgキャッチですが、こちらは隠さず、露出。
下台は開け放しておくことは無いので、あえて隠さなくても良いと言う判断です。
ただあまり目立たせたくは無いので、円形のネオジムを半埋めさせ、スマートに納めています。


最後に、読者の関心事だと思われる制作途上の画像を上げておきましょう。

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1つは帆立の組み立て。
チェリーはこうしてみますと、とても綺麗ですね。
柔らかな赤身が美しい。

框組の場合、いかに設計通りに平滑に、かつカネを確保し、しっかりと緊結させるかが鍵です。
加工段階での精度の高さも必要ですが、組み上げる段階で設計通りには組めない場合もままあるでしょう。

框に当てるクランプ、ハタガネの位置、圧締力でいくらでも変わってしまいます。
カネに配慮し、胴付きをしっかり緊結させた後、平滑さ、カネをあらためてチェックしますが、多くの場合、多少の捻れ、歪みは出てしまうものです。

これは修正されねばなりません。
直定規、スコヤなどで確認しつつ、ハタガネを当てる位置、圧力などのバランスで、いかようにも修正できます。
縦框、横框、計4本での構成であれば、上下2本ずつ、計4本のハタガネの当て方で歪みはほぼ完全に補正できます(当て木を介してのことになることは言うまでもありません)。

この段階で可能な限りに完璧に接合させておかないと、筺に組み上げようとした際、具合が悪いと言うことになります。

160919a右画像は帆立に、天板、地板を接合する段階のものです。
プレスの定盤に載せた状態です。

こうした板差しは、均等で強い圧締が必要となりますので、プレスでの締め付けが望ましいところです。

仕口はご覧の通り、奥行き360mmほどの幅ですので、前、後、中央、計三個所、それぞれ2枚枘を立て、それ以外のところは大入れで接合します。

私も様々な仕口を用いますが、このスタイルが一般的です。
ダボを用いたり(ラメロ、あるいはドミノを含み)、蟻で組んだりといくつかの方法があり得ますが、この枘建てがもっとも合理性が高く、接合度は高いものがあるでしょう。

なお、内部の棚板ですが、筺を組んだ後に、後ろから小穴を通して差し込む、という手法は量産家具では一般的ですが、うちは量産家具では無いので、
棚板・前後に枘を立てて埋けていますので、この画像の前段階で組み込んでおきます。


納品の際のスナップ
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  • 塗らない木地のナントモ桃色がいいかんじで。
    梨の木もモモも 林檎もフルーツウッドは制作途中が
    一番テクスチャー、色調フィーリング、視触感も素晴らし。
    製材時も同じように素材の一番輝く時間があり、
    作り手しか知らない美質時間がある陀。
    つかの間ですが、七変化で我を忘れ間。
    タモゴールドチジミ杢板の揺らぎ効果は
    取り合わせの妙 — お見事、自然素材の饗宴。

    背板が浄土の結界とみれば、何か素敵な「ことのは」がありそ。
    ブツ談の伽藍構造要素の研究は密かに、
    頼まれないうちに、呼ばれない内に
    心造語考えよっと。

    キオレーズ ABE

    キオリーズABE

    • Schreiberさんに見せていただいたPear woodの器の、あの柔らかく淡いピンク色には惚れ惚れとさせられたものです。
      Pearwoodも確かバラ科ですので、チェリーと同属だったでしょうか。

      仰る通り、制作プロセスで見せる素材の多彩な魅力に関しては、作者ならではの至福と言える領域かもしれません。
      オイルフィニッシュでさらに魅力を増すことも確かですが、このチェリーの色調に関する限り、無塗装の魅力は捨てがたいものがあります。

      1度、濡れ色を避けた塗装を試みたいものです。

      縮みのタモを配するのは、ややキッチュな感も否めず迷うところですが、コメントに意を強くしました。

      〈伽藍構造要素〉ですか。確かにチャレンジすべき問題かも知れません。
      宿題ですね。

  • ご無沙汰しています。
    このような蝶番の取り付け方はよく行われるのですか?
    扉の縦框に段欠きがしてあって、薄くなった部分に
    ネジ止めされている感じですね。
    しばらく考えてしまいました。

    • この扉はいわゆるアウトセット(=被せ)ですが、しかし、板厚ぜんぶを出すのは好みでは無いということがあり、そこで半分ほどを欠き取り、薄く見せ、納めているわけですね。
      その結果、ご指摘のように丁番固定部分は薄くなり、やや脆弱になります。

      私は一般的には扉の丁番の彫り込みは、すべて扉側で行うのですが、このケースではご覧の通り、本体側に大きく彫り込んでいます(扉側は、位置決め程度に薄く彫り込んでいる)

      その上で、脆弱さを補うためエポキシボンドでの固着も併用しています。

      当初、インセットでの設計を考えたのでしたが、間口も狭く、帆立板厚に框の幅を含めると、かなり重たく感じさせると思い、半被せにしたという経緯があります。

      框幅はもっと狭くても良かったかも知れません。
      ただあまり削ぎ込みますと、経年使用での変形が懸念され、この辺りはなかなかビミョウです。

      そのためにも、縦框の木取りは徹底して柾目を追求するということが重要なポイントになります。
      鏡板も同様ですね。
      鏡板は2寸板の柾目板から4枚を挽き割っています。
      扉の框材も1枚の板目材を挽き割り、木取っています。

      この仏壇に関しては、天地、および帆立を除けば、ほとんどの部材が柾目で木取られています。

  • ブラストゲートは見つかりましたか?
    大源商会さんでダンパーという名称で売られているのは
    いかがでしょう?
    125も150もあるようです。

    • おやっ、acanthogobiusさん、Twitterチェックしていただいているのですか、恐れ入ります。

      125φ〜のブラストゲート、数個たりない状況ですが、友人が余剰のものがあるかも、ということで、その確認を待っているところですよ。

      国内ではご指摘の大源商会の取り扱いのものが品質等信頼がおけますね。
      瑞東産業という専門メーカー製のようです。
      亜鉛メッキの鉄製かな?

      ただ@5,000円を超えるのは痛い。
      米国ではアルミ製で@3,000円ほど、プラ製で@1,000円ほど。

      しばらく友人からの連絡を待ちます。

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