工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

抽手の仕口を〈寄せ蟻〉で

寄せ蟻 抽手(手前左だけが加工済み)

抽手やつまみを木製のカスタムメイドで作ることがあります。

私は抽手やつまみは基本的にはハードウェアとしての金属製が望ましいと考える立場ですが、思うようなものが入手できない場合などでは木製という選択肢に拡げることもあります。

刃物ストレージ(抽斗部分はルータービット収納)

これまで多くの抽手を作り使ってきましたが、あらたに木製のハンドルを作ることに。
これは刃物の収納キャビネットを制作した際に試みたもので、いわば試作段階ですが、結構いけてますので意匠的にはさらにブラッシュアップさせたうえで定番にしようかと考えているところ。

形状に特段の新奇性があるわけでは無いのですが、仕口はちょっとユニークかも知れません。
抽斗前板との接合部(脚にあたる部位)を寄せ蟻の仕口にしてみたのです。

以下、少し詳しく紹介します。
この種のハンドルは珍しくも無く、よく用いられる意匠の1つです。

画像をクリックし、表れる別画像でGIFが動き、寄せ蟻のイメージが展開します

ただ一般には前板との接合は大入れで仕込み、ここに裏から木ねじ止めという方法、あるいはそのまま密着させ、後ろから木ねじ止め(既製品ではもっぱらこのスタイル)、といった手法が取られています。

それに代わり、寄せ蟻で納めることで背部にはネジ頭も見えずスマートに納まり、かつ密着度、緊結力は確実にという良い事ずくめ。

イザ作るとなると難易度は高いのではと思われるやも知れませんが、さにあらず、作ってみたところ意外と巧くいくものです。

さて、上のgif画像は〈寄せ蟻〉の動きを示したものです(画像クリックすることで表れる別画像:GIFが寄せ蟻の「寄せ」のイメージが展開します)。ここでは10mmほどスライドさせ、緊結させています。

鉋イラスト

右画像はボンドを塗布し、接合させる直前のもので、前板の彫り込み、蟻加工された部位を示すものです。
家具本体に接合される脚の部分を蟻状に削り出し、これを寄せ蟻として加工した抽出 前板に差し入れるという手法です。

スマートな納まりだと考えますが、問題が無いわけでは無い。
蟻の寸法に制約があるところです。

今回、用いた蟻のビット。うちでも2桁ほどの数の蟻ビットがありますが、その中でも最も小さなものを用いたものの、それでも底が11mmあり、したがってハンドルの厚みはギリギリで12mmにせざるをえず、ややゴツすぎるなぁと、嘆息したものです。

望むべくはせめて10mmほどの厚みとしたいものですが、さらに極小の蟻ビットを市場から探し出すか、カスタムメイドで蟻ビットを作る事にいたしましょう。

また全体の長さも今回のものは大きすぎますね。寸法の割り振りも微調整し、スタイリッシュにしなくちゃ。

以下、ハンドルの成形も含め、加工プロセスを記しておきましょう。
さほど難易度の高いものではありませんので、興味のある方は試みて下さい。

鉋イラスト

ルーターマシンでの凹面成形(2種のビットを駆使して)

オス 加工

  1. 木取り(加工工程の安全性を考えた場合、ある程度の幅のある材が望ましい)、厚みは1寸ほど?
  2. 凹部分の切削(脚部と寄せ蟻に必要な寸法を足した残りの部位をなだらかな円弧状になるように切削加工)
    ・方法としては、いくつかその手法はあるでしょうが、私は半円状のカッターを昇降盤に装着し、任意の角度で被加工材をスライドさせる2本のフェンスを設定。
    ・ここをスライド運行させることで、任意の幅の円弧状の凹面ができます。
  3. 寄せ蟻に必要な寸法部分を段欠き(左右の蟻部分の長さが10mmであれば、10+数mmの長さを)
  4. 凸部側のR加工(うちでは画像上のようにルーターマシンで。設置されていない場合はハンドルーター?、適切なビットが無ければ丸鋸を数段階に分け傾斜カット〜手鉋仕上げ?)
  5. この段階で凹凸両面、全体の仕上げ加工(手鉋仕上げ、サンディング仕上げなど)を行っておく
  6. 所定の厚みに小割する
  7. 蟻加工 
    ・アゴ部分の縦挽き 
    ・蟻傾斜加工(メスに合わせて)
  8. 面取り加工後、鋸での小割の板面を鉋掛け、サンディングなどの最終仕上げ。
手鉋での整形作業
全体が仕上がったら小割

メス 加工

  1. 墨付け
  2. なだらかな凹面を掘り出す(然るべく形状のルータービット)
  3. 寄せ蟻を落とし込む部位の穴開け(角ノミ)
  4. 蟻ビットで蟻の彫り込み加工(角ノミで開けたところにビットを落とし込み、そのまま切削運行。
    うちではルーターマシンで加工するため比較的容易な工程だが、ハンドルーターでは然るべくフェンスやストッパーなどを用意し、慎重に臨みたい)

以上ですが、寄せ蟻は板面の任意な場所での緊結を叶える仕口として、様々なところにおいて実に有効に活用できるものですね。
今回の抽手への応用もその1つの事例でした。ふぅ〜

hr

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  • 文末の「ふぅ〜」はWordPress5.0での新しい投稿編集のご苦労によるものかと。意気地無しのわたしはclassic editaorのプラグインで前のバージョンを使っています。(遅かれ早かれ使わざるを得ませんが)

    蟻での把手やツマミの取り付け、自作の蝶番の取り付けなどわたしも良く使いますが、蟻溝への落とし込みです。寄せ蟻は少し大きな把手に向いていると感じました。特に前板に手指が入る欠き取りが施されていますから横へのスライドで綺麗に収まりますね。参考になります。
    仰るように、機械による加工では蟻のビットのサイズで把手、ツマミの最小サイズが決まってしまうの残念なところですが、締結強度は抜群ですし見栄えも綺麗ですね。
    把手、ツマミではないですが、古家具では様々なところで蟻加工が施されていますね。わたしは積極的に使う方なのですが、若い木工屋さん達はどうでしょうか。蟻加工を覚えると様々なところで活用でき、数をこなしていくと角鑿版で枘穴を開ける感覚とさほど変わらなくなります。天板の蟻桟だけでなく様々な場面で活用してもらいたいと思います。

    大きく美しい最良のローズウッド?ですね。羨ましい。

    • みしょう さん、コメント感謝です。積雪対応、ほんとうにご苦労さまです。

      確かに、ハン$の脚の底を、前板の彫り込み底に合わせることで、ディテールの納まりがとてもGood! ですね。

      私の周囲ではいないと思いますが、たぶん同様の仕口で作ってる人はきっといるはずです。
      お前、今頃気付いたのか、などとほくそ笑み、あるいは苦笑いしてるかも。
      意匠のオリジナリティもあれば、併せて意匠登録を考えるのも一興かも。

      でも、私のスタイルとすれば、抱え込むんじゃ無く、関心があればぜひ参考にして欲しい。
      寄せ蟻は、大いに使った方が良いです。木工におけるデザイン世界が拡張します。

      このローズですが、銘木屋も驚いていましたね。こんな色調の良質なものはめったに出ないと。

      〈classic editaor〉は2011年まで使えるのでしょ。そのままで構わないでしょ。
      5.0は素人向けとして開発されたものでしょうね。みしょう さんは玄人なので無用!

  • GGG 良い仕事のご紹介39
    金物は買うとフェイスイメージは工業量産品に引きずられて仕舞います。
    製材、運送、人乾、接着、金具、道具、電気代、サンディング、塗料、梱包材、おまけに販売下代60% 儲けがみんな外へ出てしまうから貧乏ですね。これで儲かる家具木工産業はどこにあるんだろうかと、悩みは負荷し、最上川。全部自前でやればどうです?自力木工、木挽きもする、機械・モータを使わないようになった職人が松本に。abe

    • ABEさん、いつもありがとうございます。
      ▼私もたまには玄人好みのこともいたします。はい。

      ▼全部自前でですか? 私はそれほどには酔狂じゃないですわ。

      ▼機械・モータを使わないようになった職人。
      昔、県下の袋井の山里の指物師がそれに近かったですね。文化庁から支援されていたようですが。
      残念ながら喰えなくて、舞台美術へと転身したとか。(こちら

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