工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

抽斗仕口の彩り

天秤指し

包天秤指・ルーター加工


学習机を制作中。
脚部は思いの他スムースにできあがった。

先に取り掛かったこの机に付属するワゴンが複雑な構造であったため、そのボリュームの割にやや難儀な仕事になったのだったが、それに較べれば机本体はシンプルな構成なので当然でもある。

そうした推移でもあったので1台2杯×2の抽斗を少し手を掛けて制作することに。
側板、向板も前板同様にブラックウォールナットの柾目で木取り、仕口も包みの天秤指しでいくことに。

Top画像は前板への包天秤指(つつみてんびんさし)、メンの切削加工を終えたところ。

実は当初テンプレート(Top画像左)を5.5mmの合板で作成して臨んだのだったが、3ヶ所めで中央部が、破損。
その巾、わずかに4mmとあれば、無理からぬところ。

これは天秤のpin部分を3mmほどにしたかったということと、ルータービットとテンプレートガイド径の差尺の問題でそうならざるを得なかったことによるのだったが‥‥。

包天秤指

包天秤指テンプレート加工

仕方が無いので、あらためて無垢の広葉樹を用いてテンプレートを作り直して臨む。

今度は同じ4mmとはいえ、全く破綻無く首尾良く、綺麗な仕口を作ることができた。

この後、蟻ビットでの加工なので、端末を直角に整えるために、今度はルーターマシンで調整。
側板の方は丸鋸昇降盤などで簡単に加工を済ます。

ところで、こうしたテンプレートガイドを用いた切削加工の場合、切削粉塵が邪魔してテンプレート摺動を阻害することが多い。
つまり所定の設定通りに正しく切削されないというリスクを伴う。

こうしたことを避けるには、テンプレートを2枚重ねるという方法が良い。被加工物側の方を少しラフに大きく成形しておき、ここに切削粉塵を逃がし、本来のテンプレートの方をクリアに維持し、正しい切削を確保するというわけだ。

また強制集塵を行うことでも効果がある。
画像のFESTOOLルーター《OF1400EQ》の“微に入り細を穿つ”という集塵システムによる効果はとても高いものが認められる。

なお今回、テンプレートを途中から作り直したことでその厚みが違ってしまった。
これへの対応のために切削深さの設定変更が必要になったのだが、FESTOOLルーター・OF1400では0.1mmステップのダイヤルをカチッ、カチッと回すだけで簡単、高精度に修正できるのでありがたい。

さて、市場には「ダブテールジグ」なるものがいろいろと出回っているが、今回のような作業工程に有用であると思われるが、実はあまり興味がない。
包みでなければ昇降盤で全て加工が可能だし、昇降盤で振り回すことのできない大きなサイズのものであれば、手鋸とノミで加工を楽しめばよいと考える。

今回のような包みの場合はテンプレートガイドを作成しなければならないが、それもまた楽しからずや、というところ。
またこれは調べてもいないので確定的なことは言えないが、pin巾を2mmほどに留める、なんてことは無理だと思われるしね。

ボクがこの2〜3mmにこだわるというのは、単純に綺麗だからということに過ぎないのだが、結果的に「ダブテールジグ」などを使っているわけではないよ、という、ややひねた自己主張ともなっているかも知れない。

高効率でしかも高精度、これを既製のジグを使わずに喜々として勤しむ、という職人仕事の快楽の世界に遊んでいるといった感じだな。

画像下は夜なべになってしまったが、一気に組み上げたところ。
明日はこれを机本体に仕込んでいく。

抽斗組み上がる

抽斗組み上がる


hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 学習机はギャラリーに掲載されている、あれでしょうか?
    実は、近々机を作る予定があり、足下にできるだけ余裕を持たせるために
    artisanさんの学習机の引き出しの吊り下げ方式を参考にさせていただきたいと
    思っています。
    左右は吸い付き桟で構成されているようですが、真ん中にも、引き出しを支える
    ために、もう一本吸い付き桟を入れるのが良いのでしょうか?
    もし、差し障りがなかったらご教授ください。

    • acanthogobiusさん、今回の机は4本足のもので、Web掲載の学習机とは違います。
      (抽斗側板には吊䙁用の溝がありませんでしょ)

      吊䙁の抽斗は(上手に仕込むことが前提ですが)垂れ下がりも無いという特徴もありますので、下端の棚口が不要となることと合わせ、こうした机には良い選択ですね。

      中仕切りの板はacanthogobiusの想定通り、吸付きで後ろから嵌め込み、この板の左右に桟を活ける、という方法ですね。
      因みにWeb掲載のものでは前板はこの中仕切り部分は“全被せ”になっていて、奥行きのストッパーを兼ねてもいます。(したがって単体の抽斗の側板が左右異なりますので、ちょっとやっかいです)

      なお、このような構成の場合、甲板が無垢ですとこの甲板の反張が抽斗の出し入れを阻害することも考慮し、クリアランスを考えねばなりませんね。

  • アドバイス、ありがとうございます。
    「上手に仕込むことが前提」痛い所を突かれましたね、イタタ!(笑)
    上手に仕込まれていれば、抽斗側板と甲板との間にはクリアランスが
    あっても良い訳ですよね。

    • >痛い所を
      いやいや、そういう事ではなく、ですね。
      ‥‥ちょっと余計なことを書いてしまったようです。
      抽斗は、それが納まる駆体とともに、高精度な加工と仕上げが必要ですよね。
      吊残タイプもその点は全く同じですが、加えて吊残のクリアランスもなかなか微妙なことを指したものです。

      >上手に仕込まれていれば、抽斗側板と甲板との間にはクリアランスがあっても良い
      そうですね。甲板の反張を考慮し、これと干渉しないクリアランスが求められます。
      その場合、前板の上端と甲板間に大きな隙間が空いてしまいますが、ここには薄い棚口様の捨て板を張り付ける、あるいは側板に対し、前板を幅広にするなどの対処法で逃げれば良いでしょう。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.