工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

送り寄せ蟻

現在テーブルの製作加工途上にあり。
ウォールナット2枚矧ぎで2m近いビックなテーブルだが、サイズの大きさもありノックダウンの構造として設計した。
今日はこの板脚部分と貫の接合部分の加工。
この部位をノックダウンにするためには様々な手法があるが、依頼者は大手ディベロッパーの建築設計技師で、家具には一方ならずこだわりがあり、貫は板脚の外には出して欲しくないとの要望。
もうこれは送り寄せ蟻にするっきゃ無い。
さほど多用する仕口ではないが、決して難易度の高い加工ではない。
簡単にそのプロセスを‥‥。
(1)テンプレートの作成
(2)ハンドルーターでの蟻溝切削加工
(3)ハンドルーターで取り残した隅をノミで欠き取る
(4)貫の蟻ほぞ加工
  以上。
それぞれポイントを記そう
テンプレート(1)テンプレートは6mm合板を用いる。
蟻形状はノックダウンを目的とするのでやや強めのテーパーとする(今回は3°)
寸法精度、角度精度が要求されるので、正確に作成(うちでは100%ルーターマシーンで作成)
ハンドルーターでの蟻溝切削はストレート刃のものと、蟻ビットの2種類を使うが、テンプレートは1つだけで併用する。
ここではそれぞれの刃径とテンプレートガイド径の差異を計算し2種類の切削加工に適合させることが肝要。
ストレート刃でボックス部分を100%切削し終え、蟻部分では1〜2mmほど切削代を残しておく。
ルーター作業(2)ハンドルーターでの蟻溝切削は2台で or 3台で?
ハンドルーター加工では切削で残ってしまう隅R部分を少なくするため、あまり大きなビットは使いたくない。
あるいは2台のルーター(蟻ビット含め3台)で大小2本のビットを装填してやるのは良いだろう。
蟻切削ビットにはあまり負荷を掛けたくないので、ぎりぎりまでストレートビットでプレカットしておくことも重要だね。
ノミ(3)ノミでの隅さらい。
適切に隅を取り除こう。
こんなノミがあるのは海外通販のカタログを見たことのある人なら知っているだろう。90°の角を一度でカットしちゃおうというものだね。

ノミ
蟻雌雄(4)貫の蟻ほぞ加工
ボクは全て昇降盤で切削加工する。

  • 左右勝手のテーパー治具を作っておく
  • 胴付きを横挽きで入れる(ボックス部分に来るところも取り去っておく。
  • 胴付きの深さは、所定の寸法より幾分浅く止めておく。
  • 昇降盤の鋸を蟻の傾斜角に合わせる。
  • まず片側をほぼ所定のところまで切削しておく(テーパーなので両側同時には進められない)
  • 残る方は、板脚メス型にフィッティングを確認しながら切削する。
以上。

この貫のサイズは 56×90mmだが、上下の胴付き部分を除いて、実質蟻部分のボリュームは長さ20mm、幅45mm、高さ40mmにしかならないが、全く揺るぎの無い強い締め付け力を確保した。
またこの高精度の加工を助けたのはウォールナットそのものが有する靱性の高さだ。この樹種にあらためて感謝 !
最後に1つ重要なことを。
木は如何に乾燥された材を用いたとしても経年変化で必ず痩せてくるもの。
蟻の接合ほど、痩せを嫌うものはない。
甘くなってしまうと、もうガタガタになっていくだけだね。
こんな場合は目も当てられない。
蟻形をテーパーにするというのは、嵌めやすいということもあるが、この乾燥で痩せることを前提として、そうした場合にもさらに打ち込むことで締まってくれるという対応力の強さ故に用いる手法だ。
したがってフィッティングの在り方は完全に相手側に接触するところまで薄くしないようにしたい。  これでもう完璧 !
このところお天気が優れないので、体調がちょっと、ではなく、体調はバリバリだが天板の矧ぎが出来ない。
快晴になったところでイッキに行きたいね。
当地では既に茶摘み娘が忙しく収穫作業に勤しんでいるが、ここ数日の寒さはどうしたことだろう。加えてこの雨。やんなっちゃう。
*画像キャプション(上から)
・テンプレート
・2台のルーターでの切削作業
・ノミでの隅切削
・ユニークな刃形状のノミ
・送り寄せ蟻の雌雄両者

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