工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

鉋 vs スクレーパー(その4)

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道具の選択というものはその職人(木工家と別称しても良いが)の志向する木工芸の内容を、あるいは時にはその本質の一端をも規定づけるものではないだろうか。
1つの作品の完成へと向かう道筋もその職人によって実に多様なプロセスを辿るということはめずらしいことではない。
その職人が準備し、使うことのできる機械、道具によって、あるいはまたその職人が到達している技能によって、その選択の基準も異なってくる。
これは完成した作品が持つ品質、作品が放つ品格というものにも微妙に反映するということも経験的に知るところだ。
現代の木工を取り巻く道具、機械の環境、あるいは選択可能な技法は多様であり、これをどのような基準で選択するかということもその職人がめざす木工というものの到達点から演繹させて考えればよいのだろうと思う。それについては他人が介入すべきものではない。
必要とあらば自身の木工を深く掘り下げるものとしてこれを批評的視点から対象化させることで十分なのだろうと思う。
木工の名品を観賞する機会を得た時などに覚える感動はその作品が持つ品格、あるいは訴えかける力というものを感じるところから発するものだと思うが、ここに内在するものとしてその作品に用いられている技法であったり、使われた道具というテクニカル的な要素が反映していることをボクたちプロは見抜くことができるものだ。
一方ふりかえってみて自身を含む現代の木工の内実というものが機械、道具の飛躍的発展の影で歴史に逆行するかのように疲弊していることを知らされてしまうことも少なくない。(×_×;)
さらにまた本考察で少し触れたことだが木工道具などの市場展開も残念ながら家具産業の量産化、あるいは生産拠点の国外への移転などの余波を受けて年々縮小傾向を辿っていることもあり、機械、道具の取捨選択はいよいよ自覚的でなければならなくなってきている。
少し予断が過ぎたかもしれないが、機械、道具の使い方、選択の仕方というものはあらかじめあまねく与えられているというものではなく、自身が目的とする木工の姿を投影したとき、何が必要でどれを捨てるのか、という意識的、自覚的働きかけに応じて選択すべきものであろう。
スクレーパー、台鉋の選択もしたがって自身が制作しようとする木工品の内実に従うままに使えば良い。


さて、スクレーパーだが、前回までその特性について記述してきたので、ほぼ理解していただけたと思うが、補足としていくつか関連することを記述しておこうと思う。(同じテーマで繰り返すのは愚鈍だからね)
まず初めに我々のような木工ニューウェーブ(巷間、お前は旧人類だろう、と言われているのかも知れないが…)と違い、先輩たちがこの道具をどのように使ってきたのか、卑近なところではあるが簡単に紹介することも一興かと思う。
これはボクの親方の一人でもあるが横浜洋家具に長く携わってきた職人のスクレーパーのユニークな用い方についてだ。
彼は親方、先輩からこのスクレーパー(のようなもの)の使い方を見よう見まねで体得してきていた。SANDVIKなどを入手して使う、というものではない。
鉄ノコの刃をカットしたり、時には厚めのガラスをガシャンと割り、その不定型な形状から目的とする面を探し求め使ったりもしたようだ。
要するに硬質なものであれば何でも良かったのだろう。
現在では、製材用の帯ノコを切断して平面用、あるいは成型用として自身が自由に作成すれば良い。
次に欧米での椅子の座繰り(バイオリンなど楽器制作なども含むか)などにスクレーパーが活躍することは先に記したところだが、ここにもっと有用な鉋があるので紹介しておこう。
[Curved Face Spokeshave] というものだ。
画像は上から自作のもの。既製品、普通の南京鉋。
これは米国人の木工家のものを見せてもらい、日本の鉋にはないユニークな形状、性能に魅力を感じ、同等のものを米国通信販売会社から求めたものと、この木工家のものを借りて、鋼部分は地元の野鍛冶に作らせ、木部胴は自身で制作したものだ。
画像ではわかりにくいかもしれないが、刃先が円弧状のカーブになっていて、いわゆる日本の鉋で言えば、四方反台鉋と南京鉋の使い勝手を合わせたような機能と性能を有するものだ。
既製品の方は、かなりシスティマティックな機構をしているので使い勝手は良いが(刃の出し入れがスクリューになっている)、如何せん鋼が中庸。
対し野鍛冶のものは火造りから打ち鍛えた刃物なので鋼としては最高。しかし台が自作なのでイマイチ(苦笑)。
スクレーパーはそのカーブの円弧形状が持ち方によっては自在であるので、対応範囲が広い。対し、この [Curved Face Spokeshave] は固有の円弧カーブを持っているので、対応範囲はさほど広くない、しかしその切削性能ははるかに高い。
先に記述したように、やはり道具の選択はその職人の作業疲労を軽減させるのに寄与し、あるいはまたその職人がめざす木工の到達点をも示唆するものなのだろうと思う。
4回に渡った本稿、これをもって終えたいと思うがスクレーパーを日常使いこなしている人からすれば、不満の多い内容であったかもしれない。
コメント頂ければ、しっかり対応したいと考えているのでどうぞお気軽に〈 了〉

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • curved face とはおもしろそうなカンナですね。
    どういった部分の加工に適しているのでしょうか?
    ネットで探してみましたが見つかりません。round faceというのがありましたが、これは南京鉋と同じでした。
    convexというタイプが見つかりましたが、これがcurved faceに近いようです。ハンドルの取り付け角度によっては
    座彫りにも使えるかもしれません。
    私が家具作りを教わった先生は電機のトランス用に作られた
    電極用の薄板をスクレーパとして使っていました。
    薄板を押切りで製作した時のバリが最初から付いています。
    もちろん焼きは入っていないので切削力は小さいしほとんど
    使い捨て状態ですが、逆に好きな形またはRに折り曲げる
    ことができるので小さな部分の加工には適していました。
    100枚単位でも安い金額なのが魅力でした。

  • acanthogobiusさんの質問にお答えします。
    この[Curved Face Spokeshave]はご覧のように外丸の刃物形状をしていますので、座繰りを初めとする3次曲面の“えぐり”に適合します。
    英米では恐らくはチェアメーカーの道具にカテゴライズされるのではと思われます。
    既製品というのは米国通販会社の「Garrett Wade Tool 」から購入した物です。しかし現在対象サイトカタログには掲載されていませんね。
    http://www.garrettwade.com/index.jsp
    昔のものですが、カタログ対象ページ画像をLinkします。
    http://www.koubou-yuh.com/top.navi.image_Folder/60630a.jpg
    ここの G、および F,が[Curved Face Spokeshave]です。
    因みにround faceというのは A,でしょうね。
    例えば
    http://www.europeanhandtools.com/AprMay06_NortonFlattening.pdf
    このpdf文書の画像上の右下にある刃物にその特徴を見ることが出来ます。(ただしこれはCurvedではないようです)
    スクリューが見えると思いますが、これで刃の出し入れを調整します。
    ネット上には適切な紹介が見あたりませんでしたが、こんなところでお解りいただけましたでしょうか。
    自作するのであれば、次の文書が参考になるかも知れません。(フラットの形状ではありますが)でも刃物を打ってくれるところなどあるのかしらん。
    (ボクが頼んだ鍛冶屋は既に鬼籍に入っています)
    http://www.shavings.net/TEACHSHAVE.HTM

  • 詳細ありがとうございます。
    GおよびFの右どなりに写っている(おそらくH)が私が
    他のHPで見たconvexと言われるタイプだと思います。
    少しcurvedとは機能が違うのかもしれませんね。
    座彫りには結局四方反り鉋が速いような気がしていますが
    まだ知らない道具の中にはもっと良いものがあるかもしれませんね。
    もう少し探してみます。

  • >座彫りには結局四方反り鉋が速いような気がしています
    仰る通りです(切削力、切削性能とも)
    Hは“内丸”のSpokeshave(南京鉋)ですね。
    Curved Face Spokeshaveは外丸の形状で、また鉋としての構造、および刃長が一般のSpokeshaveとは大きく異なるところが特徴です。
    無垢の座板などを加工される人には1丁手元に置くのは悪くないですね。
    スクレーパーなどよりよほど活躍します。.

  • 毎回楽しく読ませていただいております。
    初めてコンタクトさせて頂きます。
    教えてください。「GarrettWadeの通信販売で購入する方法」を

  • tjobさん、ようこそ。
    *注意
     URLを数多く貼り付けますので、2回に分けてコメントします
     このコメント欄はリンクを埋め込めませんので、URL部分をコピーして、
     ブラウザURLアドレス部分に貼り付けて閲覧ください
    ─────────────────────────────
    懐かしい記事にコメントいただきましたね。
    思い出させていただき、感謝ですわ(笑)
    >GarrettWadeの通信販売で購入する方法
    Webサイトからオンラインで発注するのが最も確実ではないでしょうか。
    ここ数年はこの会社から購入していませんので、確かなことは申し上げられませんが、ほとんどの商品が入手できるものと思います。
    以前はかなりの頻度で購入していましたが、特段トラブルのようなことはありませんでした。
    詳しくは下記Webサイトでご確認ください。
    海外からの受注についても詳しい解説があります。
    http://www.garrettwade.com/default.asp
    http://www.garrettwade.com/FAQS/a/88/

  • オンラインでの翻訳サイトもたくさんありますので利用すれば良いでしょう。
    http://www.google.co.jp/language_tools?hl=ja
    http://honyaku.yahoo.co.jp/
    もしオンラインからではなく、FAXでの注文でしたら、FAQに記載されている番号へカタログ請求をされれば良いでしょう。
    (小冊子のカタログにFAXフォームが同梱されています。オンライン発注同様、クレジット決済ができる環境があれば存外イージーに手続きできます)
    ご覧になっていると思われるacanthogobiusさん、より適切なアドバイスもおありかもしれませんので、フォローがあればお願いしますね。

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