工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

鉋 vs スクレーパー(その2)

タイトルバナー
【日本の台鉋の特徴】
純度の高い炭素鋼を用い、適切な鍛造工程を踏んだ刃物を打ち鍛え、これを熟練した木工職人の手で研ぎ上げ、そして適切に下端調整された鉋台にすげれば、もう誰が引いてもすばらしい鉋屑を出すことが出来る。
台鉋の特徴とは打ち鍛えた炭素工具鋼の刃物と、被切削材を平滑に削り上げるための定規でもある台とのコンビネーションにあると言えるだろうが、恐らくは木工道具において最も進化し完成されつくしたものと云って良いだろうと思う。
日本の台鉋には切削の用途に応じ様々なものが開発されてきたのは云うまでもないが、現在では電動工具の飛躍的な発展の影でむしろ疲弊しつつあるというのが現状だろう。
しかしまだまだ必要とされる特殊な目的の鉋も十分に入手できると思うので市場から忘れ去られる前に入手しておくことをお奨めしたい。
平鉋、長台鉋、際鉋、反り台鉋、四方反り台鉋、外丸鉋、内丸鉋、作里鉋、比布倉鉋、南京鉋、立鉋、角面鉋、坊主面鉋他、面取り鉋多種、etc。
これほどまでにバリエーション豊かな台鉋の世界というものは日本をおいて他では見られないものとなっている。
さて一方、この台鉋以外の切削道具について今回の比較対照であるスクレーパーを除き簡単に見ておきたい。
【サンダー】
サンダーというものにも様々な道具があるようだ。
日本語では〈砂紙〉と呼称されるように、ベースの紙、あるいは布に様々な鉱物が塗着されていて、これをヤスリのような機能で被切削材を削り落とすというものだ。砂にはガーネット、石英粉末、溶融アルミナ、など様々なものが用途に応じ用いられ、また粒度も#80 〜 #1,500 などと様々。
うちでは#180〜#1,000 を用意しているがこれは素地調整としては一般的なものだろうと思う。工程、あるいは被研削材により粒度を変える。


使用方法、使われる道具も様々だ。
・大型ベルトサンダー

大きな工場では幅が1,200mmもある大型のベルトサンダーが威力を発揮する。
これは研削の厚みを規制できるのでかなりの精度が出せるだろう。

・ユニバーサルサンダー

次には幅が200mmほどのベルトサンダーが使われるユニバーサルサンダーというものがあるが、これはベルト状のサンドペーパーが横に走るもので研削の量は作業者の押し当て強さでコントロールされるというアバウトなものでしかない。

・3点ベルトサンダー

幅100mmのベルト状のサンドペーパーが水平に高速回転するもので、この走るペーパーの上からパッドを当て、被切削材を前後にスライドさせながら研削するものだ。幅900mm程のものでもOK。広範に利用されているもので、もちろんうちでも活躍している。

・ポータブルサンダー

電動工具、あるいは空圧工具で、これも様々なタイプがある。
ベルトサンダー、オービタルサンダー、ランダムアクションオービタルサンダー、など。

・手作業のサンディング

堅めのブロックに巻いて使用したり、そのまま適宜にカットして手に持って使用する。

さて、サンディングという研削の機構とはいうまでもなく被研削材の繊維を粒度に応じた細かさで削り取っていくものだ。
したがって刃物でカットするものとは異なり、木部組織の繊維は不定形に削り取られ、あるいは荒れていくということになる。
またもう1つの特徴は研削の量を規制することが困難だということがある。
押し当てる強さ、あるいは摺動速度でいくらでもその部分は削り込まれる。台鉋のような定規としての規制が効かないということだ。
したがって平滑性を出すような工程でこれを用いることは目的を叶えられないものでしかないことを知るべきだろう。(大型のベルトサンダーを除く)
つまりはファインウッドワークの世界においては素地調整という塗装の前段階としての工程に用いられるべきものとして考えたいものだ。
もちろんサンディングという研削には他の切削、研削の道具には無いメリットもある。
あまり熟練を必要としない簡便さがあるのは云うまでもない。(時にはこれが落とし穴になることは少なくないかも知れない)
逆目にはほとんど関係なく均質に研削できるというメリットは活用されるべきものだろう。
さて平滑な板面を出す目的であれば、どのような工程を踏んでも良いと考えたいが、しかしそのもたらされる結果については十分に考慮されねばならない。
サンディングの研削能力は大きいが、一方その結果、平滑性に問題が生じたり、板面が不均質になるというリスクが常に伴うことを知っておかねばならない。
例えば…、板面がフチの部分が落ち込んでいたり、春目(木目においてやわらかいところ)のところが凹んでしまっていたり、なかなか逆目が止まらなかったのか、杢部分が凹んでいたり、ということはプロの仕事においてもいくらでも散見できるところだ。
また鉋を使わない切削仕上げにおいては、繊維がカットされないために、本来の木目、木肌の表情が表れてくれない(木目がボケてる)、ということも忘れてはならない(拭漆仕上げ、オイルフィニッシュ仕上げには不適当)
意外かと思われるかも知れないが、殊更に手作りと称する木工所、家具製作者の一部には、ほとんど鉋を使用することなくこのサンダーによる研削で仕上げてしまうこともあるようだが、上述のようにその板面は本来の樹種が持つ木肌を取り出すことなく、その手前の段階で仕上げてしまっている、あるいは平滑性が損なわれ、板面がうねっている、木目にそって凸凹がある、という具合に、鉋で仕上げればあり得ないようなことが起きてしまっていることを知っておきたい。
(サンディングについては、機会をあらためて詳述してみたいと考えています)
(最終の次はタイトル通りスクレーパーについて)

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 以前私の工房に技術専門校の生徒が来て、加工中の部材、バンドソーで荒面取りをした曲面部材を見た時に、「この先はサンダーですね」と言いました。私が「いや、木ヤスリ、南京鉋、スクレーパー、サンドペーパーの順で仕上げるのです」と応えると、怪訝そうな顔になりました。サンダーしか思いつかなかったんですね、彼は。
    サンダーの能率の良さにとらわれて、ところ構わず使うと、仕上げ面が不良になることがあります。artisanさんの言われる通りだと思います。
    私もある作品の工程で、サンダーの加工性に限界を感じて、手加工に切り替えたことがあります。もっとも私の場合は、サンダーの使い方が下手なだけかな…

  • otake.oさん。コメント感謝します。本項記事中、貴Webサイト関連ページに参照Linkさせていただきました。
    良くありがちなことですが…、木工志願の若者が訪ねてきて、「何ができるの?」との問いに「サンディングぐらいやらせてください…」などと答える。
    しかしサンディングがそれほどにイージーなものと位置づけられている、ということであればまずはその傲慢さの鼻柱を折ってあげましょう(笑)

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.