工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

座卓 2例(その1:栗のセンターテーブル)

栗のセンターテーブル

昨年末に納めた1m×3mという巨大な栗材1枚板のデスクですが、この板材は元々5m近くの長さがあり、設置場所の制約から3mに切り縮めたものでした。
その残りの切り落としで、センターテーブルを制作。

切り落としとは言っても1m×1m強 というボリュームがあり、栗材1枚板ということでの大きな価値を残していますからね。

この栗材の所有者の顧客にいくつかのPlanを提示した結果、意匠は画像のようなものに。

以下、意匠、構造、制作工程などを記述していきます。

天板

正四角形材から、四辺を太鼓様に張らせ、なだらかな円弧状にカット。
隅切りを大きくしてあるのは、脚部意匠に合わせたもの。

冒頭に記したとおり、この材は1×5mの栗材からの〈落とし〉で、残念ながら木口割れが長さの半分近くまで及んでおり、どうしたものかと思案させられたものですが、施主の希望もあり、割れは同じ栗材で埋め、裏側に割れ止めのチキリを数カ所施すことに。(画像2枚)

栗材の天板(表側)
チキリで割れ止め
栗材の天板(裏側)

次善の策として、木口割れをそのまま延長させるようにあらかじめ割ってしまい、あらためて平滑な矧ぎ接合面を整え、再接合という考え方もあったのですが、結果をみても明らかなように、割れの拡がりを抑えつつ、埋めて平滑にするというシンプルな方策は正しい選択だったと思われます。

なお、この木口割れの埋めですが、大阪の塗師屋さんに塗ってもらったのですが、とても丁寧に、器用に埋めてくださいました。ちょっと視では気付かないほどのできばえ。

脚部

いわばテリムクリの意匠にエッジを効かせた感じとでも言いましょうか。
80mm厚の栗材から木取りますが、やや複雑な面形状に成形していきます。

とは言っても、それほど難しいことをしているわけではなく、2次元に成形したものに、内側を45度の大きな面形状を施し、外部の方は20度の面カットを施しています。いわゆる兜面ですね。
木端の中央が鎬となり、平滑な面と較べエッジが効き、なだらかな角度により印影が美しく化け、私は好んで用いる面形状です。

兜面の加工方法ですが、今回の場合は全体が曲面となっていますので、20度の傘型のルータービット、あるいは角度を任意に設定できる面取り盤で行います。

内側の45度の成形の方は、単に意匠的な要請からのものというより、ここは甲板を支える幕板の枘結合の枘穴が開孔されるところで、そのために45度成形は必須の要件となります。
構造的なところからの要請と、意匠を兼ねた設計ということです。

この「構造的な要請と、意匠」をスマート(賢く)にマッチングさせるというのも、構造デザインの妙です。
設計においてはいつもそうした視点から考えを巡らせます。

造形を専門にしているデザイナーでも、木工における構造の考え方を深く追求されない方もおられ、木工の仕口からすればかなり無理な意匠を求めてくる場合もあります。

これは一概にまずいということではなく、木工での造形に斬新な試みを与えるという意味では評価すべきものがありますが、樹木を主材とする木工でのデザインでは、樹木の物理的特性を知悉し、深い経験に根ざしたところからの意匠の創作が望まれるのは言うまでもありません。

私たちのように木工を深く知り、経験豊かな木工屋では、こうした問題からは自由で、より可能性の高いデザインを展開できるという優位性があることは大いにアピールすべきところですね。

幕板

ただの平面でも良いのですが、断面ではここもなだらかに曲面成型をしています。正1/4Rではなく、アルファベッドのJの一部のような断面になります。
この面取りを施すことで、全体が柔らかいラインでまとまります。

幕板に対し45度に配し、中央でクロスさせます。
この貫は脚の捌きにも支障与えぬよう下部空間を広く取るために、それぞれ円弧状に成形していますので、このクロス部位の相欠きもなかなか大変ですが、楽しくやってます。

脚部の意匠はもう少しブラッシュアップさせたいですね。
わずかに350mmほどの高さで、こうしたテリムクリの屈曲部を設けるというのはいささかリスクが大きいですよ。

組み立て

4本足の脚部ですので、通常通り、まず2本を組み、接着乾燥後に全体を組む、と言う手法を取りたいところですが。貫がクロスという構造であるため、それは難しい。
そこで4本脚と幕板、およびクロスの貫の全てを、1回で組み上げ、という方法が望ましいところです。

まず2本の脚を幕板で接合
2組の脚部を幕板で繋ぎ、全体を組み上げる

ただ、今回の脚部は7角形という形状であることで、全てを組みながらの適切なクランピングというのは困難であり、一気に組み上がるのは無理があるため、あえて二段階での組み立ての手法を取ります。

当然にも二段階目での貫の枘入れは至難です。そこは無理せず、少しづつ、あるいは大胆に接合させていきます。
この種の構造体は組み立ては至難であるものの、その分、力学的なところから枘の脱落というリスクは限りなく少なくなります。

因みに、貫の枘入れは困難なので、枘の長さは不用に長くはしない事もコツの1つ。

なお、栗材は柔らかく傷が付きやすいので、組み立ては慎重にしなければいけませんね。

拭漆について

栗のセンターテーブル

大阪の塗師屋さんに塗ってもらいました。
栗材そのものは、年輪が鮮明なこともあり、拭漆に向いた樹種なのですが、とても丁寧に塗ったいただき、何よりも木口割れの埋めもほぼ完璧なまでにしていただきました。

樹齢は200〜400年ほどのものですし、また乾燥管理も十分で完全に枯れていますので、この割れは経年変化で大きな支障を及ぼすと言うことにはならないのではと考えています。

以下、脚部の成形加工の幾枚かの画像がありますので、貼り付けておきます。
上から

①仕上がり

80×135mmほどの平角材を成形加工したものですが、外側はいわゆるテリムクリ。
内側に90度の位置関係で幕板の枘穴、そして中央部分に貫の枘穴が見えています。

上部木口をご覧いただければお分かりのように不定型な7角形です。

外は兜面(20度の面切削)

内側は、45度に大きく面取りし、ここに枘穴を穿ちます。
この幕板の枘穴がくる面は脚部立地に対し、垂直に成形。

②枘穴の開孔(角ノミ機) 

定盤、および押さえ移動フェンスに、それぞれ90度のV字型のジグを配しておき、ここに外形成型前の被加工材を載せ、開口部が常に水平になるように固定させ、開孔させていきます。
参考までにレベルで確認します。

③外形部の粗加工(帯鋸盤)

④外形の成形 1st. ルーター盤

⑤外形の成形 2nd 面取り盤

同じ個所の成形ですが順目、逆目が大きく負荷が過大になることでの破綻(割裂等)を避けるため、回転方向が逆の関係になる2台のマシンを使いこなします。
高速面取盤のカッターブロックは100×100mmという大きな物で、80mmの高さの被加工材も1発で切削できます。
対し、ルータービットの方は50mmの長さしかありませんが、軸そのものも刃径と同じく、16φであることで、高さを2段階に分ければ、80mmの高さの被加工材も同一面として加工結果が獲得できます。

⑥仕上げ切削

面取り盤の切削性能は高く、仕上げにはそのままサンディングでもいけないことは無いものの、
ここではサンディング前に手鉋(南京鉋)で一鉋 掛けておきます。

面取り盤はかなりの仕上がり精度が確保されますが、サンディングで逆目などの仕上げを考えた場合、あらかじめ手鉋を掛けておいた方が結局は早く仕上がるものなのです。
今回は拭漆での塗装ですので、丁寧が一番。

hr

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 座卓での ”yuh style” の展開、興味深く拝見しました。
    木材加工やデザインは個々の木工屋さんが所有する機械の加工領域に限定されがちですが、加工領域を意識する以前に、構造面や強度、機能面を掘り下げたデザインが成されていて、加工工程、完成品とも日常の中でのartとして安心感を持って見ることができますね。脚(柱?)の大胆なR形状、7角形でのR付けなどの脚部の構成は ”yuh style”(勝手にに名付けていますが……)の最も特徴的なところですね。
    多様な機械設備を思うように扱っておられるので、加工領域も意識的に限定されることなく広がりを持つのでしょう。また、最高の優良材にはそれに見合う構成部材、デザインが必要になってくるとつくづく思います。ウラマヤシイ!

    今年の梅雨は長く感じます。高湿度の中で作業はしたくはないですけれど……
    大きな仕事を終えられ一息、でしょうか。Macにかじりついているとチコちゃんに叱られますよ。

    • ドウモ、
      木材での造形の方法もその手法は様々だろうと思います。
      絵を書いて、木に写し、これを帯鋸などで成形切削し、手鉋などで仕上げていく。
      たぶん、こうした手法が原点。
      これを家具の部品のように複数本作るとなると、やはり機械の活用が合理的。

      機械を使う場合、その機能と特性を良く理解し、また木材の物理的特性に反しないような活用法を考える、ということでしょうか。
      場合によっては、当然にもこの機械の特性を引き出すようなデザイン手法という考え方もありますが、逆にそれに依存し過ぎると、主客逆転し、つまらない木工になりかねませんね。

      私も多様なデザインを駆使し、木工の可能性の追求、あるいは作る楽しさを感得するための重要な要素として、こうした機械加工の拡張性を追求していきたいと思っています。

      Yuh Style ですか。なるほど。
      たぶん、私はエッジが好きなんですね。鎬成形がもたらす知的な印影。
      たぶん、この辺りも量産家具にはない、工房家具の1つの在り様、可能性と言えるのかも知れません。

      なお、日本では古来から、この種のエッジを効かせるという考え方というのはごくフツーに視られるものでもあります。
      柱の面取りにしても、5厘、1分、などの切り面(角面)のシャープさに棟梁の美意識を視ること屡々です。

      このところ、Blog更新もままならなかった(というエクスキューズ)ので、この後もあまりインターバル置かずに更新の積もりです。
      高温多湿で木工は最悪の時期、身も心(都知事選結果を受け)も腐りそう。
      Macに向かえば平静が取り戻せます。

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.