工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

栗の巨樹を愛でる(拭漆栗・書斎机の制作)

栗拭漆デスク

はじめに

2020年が明けました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

今年の正月はチコちゃんに叱られてしまうほどに「ボ〜ッ」と生きていました。
やっとけだるい心身を奮い立たせ、再び工房に籠もる生活がスタートしています。

さて、2020年の第1弾は栗の巨木によるデスクの制作からです。
画像データも多いところから、数回にわたって紹介します。

私はこれまで栗材を積極的に用いるということはあまりなく、本格的には今回が数度目の制作機会でした。
用いた栗材が200年を越えるとも思われる高樹齢ですばらしい木理を備えたものであったこともおおいに貢献しているのは間違いないところですが、栗材の素晴らしさにあらためて刮目される思いがしたものです。

ではさっそくいきましょう。

今回の巨樹との出遭いですが、工房を訪ねて来られた初めての顧客、T氏が屋敷のリフォーム準備過程で探し求め、保有していたものです。

大きなお屋敷を構える実業家のT邸のオーナーですが、既に間口1間半ほどの大きな門の鏡板などに用いるなど、1m×4mを越える栗の大きなフリッチ材を保有されておられる方でした。

今回、お屋敷の大規模なリフォームに合わせ家具調度品の制作を考えられたようで、この主要なところを私に委ねてくださったのでした。

まずは、この1m×4mの重厚な板材を天板とする大物のデスクがメインとなります。

おかれるスペースの関係上、この大きな材を3mまでに切り縮めることとなったものの、それでも天板だけで100kgをはるかに越えるほどの重厚なものとなり、果たして私ひとりで制作できるものなのか?


幅1.1m × 長さ3.1m × 厚み65mm × 栗材の気乾比重:0.55(朝倉書店「木工」表Ⅱ-8、建築知識:木のデザイン図鑑、世界の木材200種・産調出版では0.44〜0.78、とされていますが、ここでは平均値とされている0.55を採用)=122kg

しかも、仕上げは拭漆という要求です。

2.3mの長さのワークベンチを大きくはみ出す栗材を削り上げた

こんな大きな材を乾かすムロなどあるはずもなく、拭漆を施すことの難儀さなども頭をよぎり、どうしたものかと悩んだことも確かでしたが、やるっきゃ無いでしょ!、ということで挑むことに。

他にも、このデスクの背部に大きな書棚を2連、さらにデスクと併せての抽斗ワゴンを3台、
加え、複数台の座卓等々、大きなボリュームとなったのでした。

デスク本体

いろいろと考え、施主とも数度のやり取りをしましたが、デザインは栗の拭漆仕上げということで、和のイメージたっぷりではあるのですが、余りにも大きなものになりますので、全体的には軽快なイメージを与えるため、両脚のデザインは軽やかに、しかし構造的な強度の要求を満たすために相応のボリュームで設計することに。
用に供する家具デザインというものは何にも増してバランスですからね。

天板は長辺3mですが、脚部は奥行き1m、左右20cmほどのチリを設け2.6mの間口。
それぞれ送り寄せ蟻の吸い付き桟で脚部に納め、中央にも持送り的な構造の送り寄せ蟻・吸い付き桟も付加します(中央ですので、使用者の身体や動線に支障を与えない構造意匠)。

また左右の脚部を繋ぐ上下の桟、および足掛け的な桟など、長手方向の主要な桟が3本。これらは全て蟻での枘になります。
一般の枘ではこの異様なまでの長さを考えた時、大変困難な工程になるだろうことは明らかで、このリスクを回避させるための仕口として有効なのが蟻による接合と考えたのです。

また、塗装を拭漆としたことで、全てにおいて大きすぎる各パーツですので、組み上がってからの拭漆は至難であり、接合前に塗装を終えておく事が前提となるわけですが、このためにもボンドを用いた一般的な枘接合では組み上げる工程での圧締などで生じる凹み傷などは避けねばならず、結局 残る手法は蟻接合しかあり得ないだろうという判断もありました。

ただ一方、2.6mという長さの桟の木口に蟻加工するというのは、これも決して容易ではありません。
昇降盤で2.6mの材の木口への枘加工はどだい無理な話しです。
また、立てて、ハンドルーターで臨もうとしても、2.6mの高さでは天井突き抜けることとなり、これもボツ。

結局どのような方法を取ったかと言えば、長尺物であっても、もっとも安定的な運行が確保できる横切盤での加工となりました。

【枘加工における機械の選択】 ほとんど全ての枘加工を横切り盤で行う方もおられるようですが、一般的な家具のサイズの枘加工の場合、横切り盤を用いるのはお薦めしません。
レール上の大きな移動定盤の運行は鈍重ですし、そもそも枘加工において基本となるフェンスを定規としての加工は横切り盤では不向きです。
枘加工に用いるマシンの選択は、あらゆる点(加工精度、ノコ位置の設定の容易さ、軽快な加工スピード、作業者の疲労度 等々)から、丸鋸昇降盤の方がはるかに優位性があります。

またこの際、蟻専用のカッターを作ろうと刃物屋と折衝したのでしたが、決して安価なものでは無く、あまり使用頻度も高くないだろうからと、刃物屋からもアドバイスされ(儲けベタな刃物屋さんですわ)、40mmほどの平カッターを蟻形の角度に傾斜させ、カットし、胴付き部位は通常の横切り鋸で加工することに。
いずれもテストピースを数枚用意し、これも同じく本体への蟻形彫り込みと同一のテストピースを用意し、逐一確認しながらのフィッティング微調整となります。

横切り盤の刃口板を外しての加工など初めての経験でしたが、存外巧くいくものです。

なお、中央部の持送りは90×230の平角の脚部に深々と落とし込む設計としたのですが、ここは現場での接合になるところから、自重でスッと納まるテーパーの蟻枘に。

蟻枘のほとんどは送り寄せ蟻。長尺物の木口へのアプローチと言うことでやや難儀したものの、首尾良く全ては上手くいきました。
木工歴30年のキャリアがあれば、何事も怖れることは無いのです(エッヘン 爆)

テーパーの蟻枘となると、一見難易度が高いように思えるかも知れませんが、オスメスともに然るべく型板を造る事で首尾良くいくものです。
ただ嵌め合いは微妙になりますので、あらかじめ数本のテストピースを造る事は必須です。
蟻という仕口は、緩く加工してしまうと取り返しが利きませんので、精度の徹底した追求が求められます。

またこれは結果論ではあるのですが、当初、これらの蟻枘にはボンドを用いるつもりだったのですが、仮組したところ、構造体は完全に一体のものとなり、ビクともしません。
いかに100kgを越える天板が乗ったとしても、全く揺るがないだろうと確信を与えてくれるほどのものです。

考えて見れば、そもそも、蟻枘という仕口は解体可能ということが前提です、ここにボンドを塗布するというのは蟻枘の優位性を半減させてしまいますからね。

もう少し具体的に個別に紹介していきましょう。(続

今回の記事で掲載される画像ですが、納入先の設置作業等は、阿部蔵之 氏(AQデザイン開発研究所)による撮影のものです。感謝いたします。
hr

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