工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

小さなキャビネット

ケンポナシ(玄圃梨)の壁掛けタイプのキャビネット。

80年代末期の制作。
私が木工を初めて数年後の習作。

少し前、旧い工房を整理していたら出てきたもの。つまりは死蔵品。

想い起こせば、1988年の夏、J・クレノフ氏による高山でのキャビネット講座があり、そこではクレノフ氏自身による指導の下、1つのキャビネットを制作したのですが、その後、この経験を元に、地元開催の原木市で買い求めたケンポナシの根上の杢を木取り、クレノフスタイルの小さなウォールキャビネットの制作に挑んだというわけです。

懐かしく、気恥ずかしく、またちょっぴり思い入れのある習作ですね。

構成と、経年変化


観音開きの扉は一枚の無垢材であるため、やはり経年変化による痩せで召し合わせ部分が多少空いてしまっていました。
可能であれば召し合わせなどの再処理を行い、展示室の隅にでも飾っておこうかと考えています。
扉の裏側・上下に見えている横の桟は吸い付き桟です。

駆体そのものに特段の劣化は無いようで、天秤差し部位の接合も良好なままです。
30年近く経てきているとは思えないです。

ただ、板の痩せで、天秤差しの接合部に微妙な凹凸が出てしまっているのはご愛嬌。
そのメチの段差、わずか0.1〜0.2mmほどでしょうか。

正面真ん中の縦の黒い帯ですが、召し合わせを兼ねた手掛けです。
材種はローズウッド。

抽斗も天秤差しでの仕事になりますが、このダークな前板の色調ですが、手掛けと同様、ブラジリアンローズウッドです。

これに用いた材種・ケンポナシですが、市場には常に流通しているものではなく、稀少材の部類に入るかも知れません。
一般には古来から桑材の代用的な位置づけであるようですが、それだけに、色調や杢の表情など、桑のような雅味を醸す、美しい材種と言えます。

ご覧のように、このキャビネットの扉も、美しい縮み杢が全面に表れています。

仕事の合間にでも、召し合わせ部分を改修し、蘇らせてやりたいものです。
私の初期の習作ですので、非売品扱いで展示室隅にでも鎮座してもらいましょう。

仕様

天秤差し

天秤差し


【筺天秤差:玄圃梨】

  • 寸法:300w 220d 560h
  • 材種:ケンポナシ
  • 塗装:オイルフィニッシュ

内部に飾った徳利は 小川幸彦 作

hr

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  • 木工を始めて数年でこのレヴェルのものが作れたなんて才能半端ないですね。敬服いたします。

    • いえいえ、過分なお褒めの言葉、お恥ずかしい。

      これ自体の難易度は決して高くは無いです。
      とてもシンプルな構成ですしね。

      あえて言えば天秤差しの部分でしょうが、丁寧に墨付けし、慎重に鋸を入れていけば誰でもできる程度のものです。

      はじめて数年、というのは確かですが、
      それまで訓練校で厳しく仕込まれましたし、松本民芸家具では玄翁で叩かれながら修練を積み、気合いを入れての起業でしたのでね。
      (訓練校では高級家具として売り物になる程のもの(松民レヴェル)を造らされたものです)

      恵まれた環境下、原始的蓄積ができたのは幸せであったのでしょうかね。
      鍛えてくれた環境、指導教官と親方らに、感謝、感謝!

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