工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

七回忌を迎える3.11震災被害(続

メルトダウン原発の廃炉への道は見えてるか

震災後、必死になって読みあさった資料、文献の一部

3.11大震災が深刻だったのは、大きな地震と史上稀にみる巨大津波の威力とともに、何よりも原発の過酷事故による被災というところに大きな特徴がある。

  • 影響を及ぼす範囲が地球規模という広域性
  • 膨大に放出された放射性物質Cs-137(セシウム137)の半減期が30年という、影響を及ぼす時間軸の長大さ
  • 目には見えないものの、人間が生存することを拒否するその猛毒性の深刻さ

これまで幾たびも日本列島は大地震に見舞われ、大きな傷跡を残しつも、しかしたくましく復興させ、生活基盤を再生してきた歴史だったとも言える。

しかし3.11大震災は、この原発過酷事故を伴ったために、復興の歩みは他の震災とは大きく様相を異にしている。

福島第一原子力発電所(以下、F1)の過酷事故。4基のうち3基までが炉心溶融(メルトダウン)の壊滅的破綻を起こし、既に6年。

このF1は当然にも廃炉決断へと追いやられ、日々漏洩する汚染水対策とともに、人類未踏の難事業に取り掛かっている。
しかし廃炉への具体的方策は未だに見いだせず、断片的に伝えられる報道からは、6年を経た現段階でもなんらポジティブなものが見いだせないという状況。

以下、小出裕章氏のF1(福島第一原子力発電所)・2号機の現状解説の一部を引用する

1月末に、東京電力は原子炉圧力容器が載っているコンクリート製の台座内部に、いわゆる胃カメラのような遠隔操作カメラを挿入した。その途中で、1時間あたり530あるいは650シーベルトという放射線を計測した。
人間は8シーベルト被曝すれば、確実に死ぬ。・・・

東京電力や国は、溶け落ちた炉心は台座(ペデスタル)の内部に饅頭のように堆積しているちおいうシナリオを書き、いつの時点かでそれをつかみだし、事故を収束させると言ってきた。
しかし実際には、溶けた核燃料は原子炉圧力容器の底を溶かして落下し、さらにうペデスタルの外部に流れ出、飛び散ってしまっているのである。
溶け落ちた核燃料をつかみ出すことはできないし、事故収束は彼らの言うように数十年では済まない。
今日生きている人間の誰一人として事故の収束を見ることができない。(週刊金曜日 3/3号)

朝日新聞2017年3月6日23面

2号機だけでは無い。1号機も核燃料のほとんどすべてが圧力容器を溶融破損させ、格納容器の底に溶け落ちたと見られている。(上・図版参照)

3号機は冷却用に注水している水が邪魔し、1、2号機のように、調査ロボットの投入さえ阻まれ、全く調査もできていない状態。

唯一、ポジティヴな評価ができるのは、4号機に収容されていた核燃料の全てが無事に搬出できたこと位か。

当初、F1の廃炉へ向けた対策費として政府は11兆円を見込んできたが、今年になって出された試算では21.5兆円と倍増。しかしこの数値でさえ確信を持ったものでは無いのでは、と嘯いてみたくもなるほど途方も無い事業にならざるを得ないことが容易に想像できる。

これらは東電が賄うわけでは無く、9電力、全ての需用者、つまり月々の電気料金に上乗せされる。
いや、9電力だけではなく、電力事業の自由化で新規参入した新電力も同様だ。
新電力の一端を担っているSoftBankの孫正義氏は「自分たちには全く責任が無いというのに、なぜ9電力と同じく払わされるのか理解できない」と怒っていたが、怒りたいのは私たち消費者全員だろう。


メルトダウン原発の問題はプラントの廃炉の困難だけに留まらない。

福島県の沿岸部から中通りと言われる福島市、伊達市、郡山、そこに至る放射線ブルームの経路となってしまった浪江町、飯舘村などの一帯を強く汚染させ、人間生存の困難な地域へと追いやってしまった。

こうして多くの故郷喪失者を生みだし、今もなお被曝に怯えつつ暮らしている人は多い。

この3月末をもって避難指示が解除され、これら地域への帰還が許さたとしても、営農は困難だろうし、里山から得てきた生活の物資、山菜などの特産食物も採取はできない。
自治機能や、医療施設の環境など、生活インフラの整備も覚束ない中、どのように生きていけというのだろう。

除染作業による一定の効果とともに、6年経過したことにより放射線量が低減しているというのは事実だろう。

人体に危険な放射性物質中、Cs-134(セシウム134) の半減期は2年。
したがって6年が経過した現在はCs-134は放出量の1/8 まで低減しており、これが放射線量総量の低減に繋がっているのも確かだろうと思う。

他方、Cs-134と較べ、放出された放射性物質に占める含有量が圧倒的に多いと言われるCs-137の半減期は30年。
つまり6年経過という短くは無い月日にしても、ほとんど低減してはいないことが分かる。

30年でわずかに半減、つまりCs-137の人体への影響が無くなるのは、3.11前後に生まれた子が平均寿命を全うする年齢になっても、1/8〜ほどは残存するというこの時間軸の長大さには眩暈を覚える。(30年で1/2、60年で1/4、90年で1/8・・・)

この途方も無い時間軸で影響を及ぼす核物質の脅威が、この3.11震災の深刻さを象徴している。 

これら原発由来震災の責任者は、言うまでも無く東電であり、そして原発を推進してきた日本国だが、いまだに誰一人として責任を取っていない。取ろうとしていない。開き直っている。

安倍政権の原発再稼働の愚と、原発製造大手 東芝の破綻

あまつさえ、こうした歴史上、最大、最悪の過酷事故であった原発災害をいやというほど体験させられているというのに、安倍政権は停止している原発を次から次へと再稼働しつつある。
さらには、海外へと、真っ当な運転管理も覚束ない原発を国家戦略として輸出しようとしているというので、その類としての倫理観の欠如、人命よりカネなのかい、と余りの下品な海外展開にのけぞってしまう。

3.11当時の野田政権は原発への依存は2030年代までとするという、支持母体の電力労連の意向を無視できなかったためか、とても控えめな構想を打ち出したものの、安倍政権は以降の政権を縛ると言われる閣議決定されたものでは無いことを理由とし、これをちゃぶ台返し。
なんと「原発をベースロード電源」とするという位置づけにしてしまった。


ドイツ、台湾など、原発に依存していた国の多くが、この日本のF1事故に衝撃を受け、大胆に自然エネルギー主軸へと歴史的な転換を果たそうと政策誘導していることは良く知られていると思うが、被災当事国の日本が、全く反省の姿勢を見せること無く再稼働とは、世界に向けただただ恥じ入るばかりだ。(「台湾が原発全廃へ 福島第一事故受け、25年までに停止」

昨年来、日本経済界を揺るがしている東芝の経営破綻の問題も、この原発と深く関わる。
日本国内で原発プラントの建設実績があるのは、この東芝、日立、三菱などだが、安倍政権の「ベースロード電源」、日本経済の基軸の1つとしての原発輸出という方針を受け、東芝は米国電機大手ウェスチィングハウス社を巨額買収し配下に納めるという経営判断を下した。

しかしこれが、様々な粉飾決算問題で揺らぐ東芝に、引導を与えてしまう大誤算となってしまった。
巨額買収での負担とともに、米国での原発事業で大きな損失を負うはめに陥ったからだ。
今や一部上場から二部への降格、さらには経営破綻へと転げ落ちかねない最悪の状況と言われている。


東芝だけでは無い。日立もそもそも問題が大きかったと言われるF1建造を担ったGMとコンビを組み、WH同様、米国原発事業で営業外損失を計上しているし、英国などへの原発建造でも経営戦略上、リスキーなものだと言われている。

三菱仏アレバ社とコンビを組んでいるが、アレバ社そのものが今や倒産寸前の状況だと言われ、国営として再建するしかないのではとも言われている。
ここに巨額の出資に踏み切った三菱の経営戦略とは、どう考えても一民間企業の経営戦略というより、安倍政権下の国家戦略としての原発推進の一翼を担わざるを得ないからでは無いのか。

こうして、原発推進の御旗の下、日本を代表する大手企業のほとんど全てが、原発に翻弄され、今や経営本体を揺るがしているというのが実態。まさにドラスチックなまでに原発関連企業の経営悪化が相次ぎ、コスト的にも原発は安いとするドグマはあえなく破綻しつつある。

経団連の会長を輩出してきた日本を代表する大会社、東芝が消えて無くなるのではという、信じがたいほどの事態は、まさに世界的、歴史的に原発はもはや儲かる事業ではない、過去の産物に陥りつつあるという冷徹な事実なのだろうと思う。

東電裁判のゆくえ

一昨年、2015年7月に東京第五検察審査会は、東京地検が不起訴処分とした東電幹部の、勝俣元会長、武藤、武黒元副社長について、業務上過失致死傷罪で強制起訴を求める、検察審査会二度目の画期的な議決を行っている。(東電元会長ら3人強制起訴へ〜検察審査会議決

この公判が間もなく始まろうしている。
この裁判は、F1事故の事実がどうであったのかの解明が最重要なポイントであることは言うまでも無いとしても、彼ら責任当事者の罪を明らかにすることも大きなポイント。

検察が頑ななまでに、彼らを不起訴とした背景には、原発を推進してきた国への批判を封じるためのものであることは明かで、ぜひ事実の解明ができるような裁判であって欲しいと思うし、言い逃れに終始してきた彼ら東電幹部の罪を問うことがなければ、F1事故のために救出に入れずに死に追いやった犠牲者、さらには故郷を追われ、未だに落ち着きどころを探しあぐねている被災者、避難者は浮かばれないではないか。

ここでは詳しく触れないが、地震、津波は自然災害であり、このF1事故は避けがたかったとする立論も少なく無いようだが、実は2007年の時点で15.7mという大津波の危険が専門家から提示され、その対策として、土木調査グループから10mの擁壁の上に、さらに10mの防潮堤を設置すべきと副社長の武藤に進言していたとされる。
しかし武藤はこれをダラダラと先延ばしする「不作為」があったと言われている。
ここに経産省、原子力安全・保安院がどう関わっていたのか、この公判廷で明らかにしてもらいたい。


重大な責任があるにも関わらず、なんらその咎を負わせないという、この日本社会の腐敗。これは絶対に許容しがたいもので、こうしたことが許されているからこそ、同様の大事故が繰り返される事にも繋がる。
この裁判は日本の司法のターニングポイントになるかもしれない。
今、司法は法の番人どころか、法を逸脱している国家の番人に成り下がっている。

トランプ政権下、トンデモ無い大統領令の乱発に歯止めを掛けているのが、地方の司法であることが注目されているが、日本にそれと同様水準の司法の矜持があるのかが問われているのだろうと思う。

またこの他、F1事故に由来する避難に伴う賠償の不十分さ、自主避難の正当性をめぐり、全国各地で裁判が起こされ、多くのところで年内にも結審すると言われている。
これらも注目していきたい。

3.11から6年。「アンダーコントロール」と迷言を吐いて2020東京五輪を誘致した安倍政権。
しかし汚染水はダダ漏れし、廃炉への道筋は見えぬまま、21兆円を越える対策費が次世代に課されようとしているのに、莫大な、わけのわからない用途で、この東京五輪に注ぎ込まれようとしている。
スポーツの祭典をダシにして、金儲けを企む輩ドモの祭典では無いのか。

果たして、日本のこうした施策のありように、歴史的視点から視たとき、果たしてそこに正統性はあるのだろうか。

問われているのは、3.11被災者が置かれた状況への想像力の涵養であり、責任を頬被りしたままで原発再稼働に突き進む安倍政権に、果たして国家を担うに相応な正しい意味での正統性があるのかという大きな命題だろう。

スベトラーナ・アレクシエービッチの福島

ベラルーシのノーベル賞受賞作家・スベトラーナ・アレクシエービッチ氏(『チェルノブイリの祈り』など、2015年ノーベル文学賞受賞)は昨年11月に来日し、東京都内で学生との対話などを行うとともに、福島へと足を踏み入れ、住民らとの交流、対話を行っている。

その中で彼女は興味深いメッセージを残しており、最後に上下2本のTV番組『ノーベル文学賞作家 アレクシエービッチの旅路』(NHK BS1スペシャル)とともに、この箴言を紹介しておこうと思う。

「『チェルノブイリの祈り』に書いたことのすべてを見ました。荒廃しきったいくつもの村、人々に捨てられたいくつもの家を見ました。国というものは、人の命に全責任を負うことはしないのです」

「私が福島で目にしたのは、日本社会に『抵抗』がないのだということです。 人々が団結をして国に対して、自分たちの悲劇を尊敬すべきだという形での『抵抗』が日本の社会にはない。『抵抗の文化』がないのです」

「明日すべての原発を止めることは不可能でも、何ができるかを考え始めることはできる」

「日本には抵抗の文化がない」 福島訪問したノーベル賞作家が指摘

私たち、3.11を経験した日本人としては、この彼女の告発から逃れることはできないだろうと思っている。

理由は何も難しいことではない。
原発災害は、一日本人に与えられた困苦では無く、地球規模に拡散せざるをえず、その結果、近代文明をもろともに破壊し、人類の生存可能性すら危うくする最悪の災害であり、この困難を克服していけるのか、あるいは3.11に懲りずに、再び災厄の愚を繰り返すのか、その選択は日本人一人ひとりの意志に深く関わっているからである。
これが全く可能であることは、現在の電力供給に占める原発依存が極限的にゼロに近いという現実が教えている。

ノーベル文学賞作家 アレクシエービッチの旅路第一部】(NHK BSスペシャル)

第一部ノーベル文学賞作家 アレクシエービッチの… 投稿者 Suzume-1

ノーベル文学賞作家 アレクシエービッチの旅路第二部】(NHK BSスペシャル)

第二部ノーベル文学賞作家 アレクシエービッチの… 投稿者 Etsu-4

《関連すると思われる記事》

                   
    
  • 「レジスト」は電子機器でも回路にダメージを与えない重要な薬務をいたします。
    ハンダがくっつかないよううに、厄除け。
    抵抗の文化は、屈折して表にでないのもじじつ、内枘のよううに。
    不都合雨メッセージやアラーム音やデッドサインを出すことは、極めて重要です。
    大震災は,人の心もゆさぶり、社会は精神すら瓦解しますね。関東大震災は、やがて軍国化敗戦へとつながったのでした。,
    キオレーズABE

You can follow any responses to this entry through the RSS 2.0 feed.