工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

最良の日

帆立今日は最良の日だった。
そう、お天気がみるみる回復。工房の湿度計も80%越える位置から徐々に下がり続け、お昼前には60%切るまでに。
昨日の雷混じりの豪雨とはうって変わっての爽やな風が心地よい。
こんな日はビールが美味い。お風呂も太陽熱温水器でガス焚き無用 !
いや、そういう話しではない。
最良とはやや大げさと言う無かれ。
今日はキャビネットの帆立を組む段取りだったのだが、昨日の天気ではとても出来る作業ではなかったからね。
雨の時に組んでみなはれ。
その後、乾燥した大気の中で数日経過すれば……、
見事なまでに、接合部は切れていくこと、必定。
うちの2尺のハタガネは50本あるが、全て動員するほどのボリュームの帆立組み立ての量だったが、おかげでスムースに事が運ぶ。
快適環境に、快適作業。
まだまだ扉、引き出しの加工が残っているというのに、駆体を組み上げる作業というのは大きな山を越えたようなもので、そうした安堵感とともに快適に作業させていただく。
ただこのお天気、もう1日持ってもらいたい。
今日は帆立側だけだが、明日はこれに棚口、後桟を繋いで筺にしなければならん。
♪ てるてるぼうず、テル坊主 !
……、
この最良の日を祝うかのように、今日は遠方の家具制作依頼者から美味しそうなギフトが贈られてきた。
昨年末頃にアクセスしてきた顧客からだが、経過、いろいろとあり、やっと最終設計案を了承いただいたばかりで、未着手の仕事。
何やら、プレッシャーを感じるものでもあるが、ここはとにかくありがたく頂戴し、良い仕事を叶えることでお返しするしかあるまい。

熱狂と静謐の狭間で‥‥(ピアニスト辻井伸行)

6月8日、いくつかの家具を載せたミニバンで展示会場に向かう途上、“全盲”のピアニストの辻井伸行さんがヴァン・クライバーン・国際ピアノコンクールで優勝 !!、ニュース報道にしては、やや興奮気味の吉報が入ってきた。
残念ながらカーラジオでは会場の様子も窺えず、どのような演奏であったのか気になって仕方がない。
食事時間の合間、iPhoneからYouTubeを検索すると、既にいくつかの演奏の動画が納められていて、辻井さんの演奏を垣間見ることができた。
さて、その後の国内のメディアの“狂想曲”は触れるまでもないだろう。
ニュース枠は当然としてもワイドショーの中でも大騒ぎ。
常に冠されるのは“全盲の”、“日本人初の”というフレーズ。
底なしの沼地であえいでいるような今の日本社会にあって、確かに辻井さんの栄冠は暗闇をやぶる払暁のような効果をもたらす社会的な話題として取り扱われるにふさわしいものなのかもしれない。
しかし、それを殊更に、“全盲の”、“日本人初の”という属性で讃えるというのは、彼には大変失礼な関わり方になるのではないか。
ヴァン・クライバーン・国際ピアノコンクールの審査員も、スタンディングオベーションで迎えた観客も、そうした属性を越えた、まさに一人の音楽家、あるいは大きく羽ばたこうとしている芸術家として評価し、讃えていることを忘れてはならない。
18日、朝日新聞夕刊の吉田純子(記者なのかな)署名の記事は抑制的でバランスの取れた良いものであった。
ここで、このコンクールは世界にあまた数あるコンクールの1つであり、「チャイコフスキーやショパンなどの大コンクールと並ぶ登竜門」という位置づけとは少し違う、と難じているが、恐らくはそれが正しい認識なのであろう。
無論、だからといって辻井さんの栄冠が貶められるというものではなく、ただ煽るだけの意味合いでの適切さを欠いた評価というものは、彼に対してむしろ失礼な振る舞いだということを言いたいのだ。

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材木市況

このところ、材木屋の訪問が相次いでいる。
名刺を渡されても聴いたこともない業者で、またそのほとんどがアポも取らずのいきなりの訪問。
こちらも忙しくしていることもあり、相手が期待するほど良い対応ができないので困ることになる。
以前はこういったことはなかった。
見知らぬ業者が訪ねてくるようになった理由はいくつか考えられる。
昔は業界の名簿、あるいは職業別電話帳などを調べてアクセスするという手法だったろうが、これでは詳細な業態はあまり分からない。
比して、現在ではネット検索すればどこにどのような木工屋がいるか、たちどころにリストできる。
うちのようにWebサイトを設置していれば、どのような樹種で、何を制作しているのか、丸裸。
ネット上には至便な地図サイトもあり、ピンポイントで検索できるし、また車のナビでは電話番号入力で玄関先までガイドしてくれる。
あえて事前にアポを取って場所の案内を請う必要もないというわけだ。
またこのところの経済不況が木材業者を営業に走らせているということがあるのだろう。
ご用聞きという奴だ。
昔はだまって倉庫で整理していれば、客の方からトラック持ち込みで訪ねてきてくれた。
今はそうは行かない。ちょっとでも可能性があるならば、鼻も引っかけなかったうちのような零細木工所まで「工房さん、良い材があるのですが、支払いはいつでも‥‥‥」
「工房さん」はないだろう。固有名詞であるかのように一般名詞を勘違いしている人は少なくない。
それはともかくも、うちのような個人工房に売り込みに廻るのはさぞ大変だろうからと、機械を止めて話しを聞いてみることもある。
しかしその話しの時間の長さだけ、落胆の度合いも大きくなる。
時にはこちらから手近にあるミズメ樺、ミズナラ、本クルミ、あるいはウォールナットと、こんなのがあれば買うよ、と差し出してみることがあるが、途端に物静かになる。
今ではそのような品質のものは無理です、社長 !(その社長 ! というのだけは止めなさい)
本来は国産の広葉樹であるものが、今では北朝鮮国境など、極東ロシアあたりからの供給となっていて、そのほとんどは従来の国産のものと比肩できるものなど望むべくもない。
あらゆる事象は変転するというのがこの世の倣い。
しかし木材市況の変容というものはいささか尋常ではないようだ。
(疲労でぶっ倒れそうなので今日はここまで)

ギャラリー 一会 さん、閉店セール

DMギャラリー 一会 (愛知県岡崎市)さんが、この度閉店することになりました。
これを機に「閉店ご愛顧感謝セール」を開催しています。
私、杉山もこれまでお世話になった方々へ向け、他の人気作家ともども、参加させていただいています。
ラウンドテーブル、ネストテーブル、椅子、照明、筺、etcといった小さなボリュームですが、ご愛顧セールと言うことでお買い求め安くなっています。
他には、器、ジュエリー、絵画など、様々なジャンルのアート、クラフトが展示即売されます。
どうぞお出掛け下さい。

【閉店ご愛顧感謝セール】
ギャラリー 一会
場所:愛知県岡崎市向山町1-9
   Phone:0564-51-3193
会期
 第一弾:2009/06/16〜06/27(06/22、休廊)
     11am〜6pm
 第二弾:06/30〜07/05

※ 画像 Top:DM(クリック拡大)、Below:私の展示コーナー
一会展示

「月面探査機“かぐや”、使命終え月面落下」のニュースから

宇宙航空研究開発機構(JAXA)による2007年9月14日の打ち上げ以来、1年半にわたる月を観測してきた月周回衛星「かぐや」(SELENE)はその使命を終え、6月11日制御落下させられた。(中日新聞
科学者でも無いボクにとっては、その探査結果への検証などへの興味はともかくも、NHKなどにより開発された堅固なイビジョンカメラから送られてくる「満地球の出」、「月面」などの撮影に、その幻想的な映像とともに我らが生きる青い地球の素晴らしい姿にロマンが掻き立てられ、見入ったものだ。
まずはJAXAから提供されているYouTube、JAXAチャンネルから
「かぐや」HDTVによる満地球の出(2008年4月5日)

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芹沢美術館企画展 「型紙」

芹沢美1芹沢美術館から企画展の案内がきていた。
今回は芹沢の型絵染に用いられた「型紙」の焦点を当てた展覧会。
ボクは彼の型紙作りを見たことは無いが、江戸小紋の型紙制作の場を拝見したことがある。
まさに職人芸の極地とも形容したくなるほどの精緻な仕事ぶりだった。
芹沢の型染の美しさはその鮮やかな色彩とともに、独自の境地を切り開いた創意あふれる意匠にあることは言うまでもないが、風物、植物、文字と、多彩な事物に題材を取り、それらを着物、のれん、屏風などの布地に染め上げるだけではなく、絵本、装丁、カレンダーなど様々な対象へとその表現を拡げていった。
その原点とも言うべき型紙に焦点を当てるという企画は、なかなかユニークではあるが、その刃の切れ、意匠の大胆さを感じ取るには好企画だろうと思う。
染め上がった作品と対照させてみることで、制作プロセスを想像するのも楽しいだろう。


芹沢銈介美術館
【型絵染の骨格 芹沢銈介の型紙】

  • 会期:2009/06/06〜08/30
  • 休館日:毎週月曜日
    (7/20を除く)、7/21

(会期中の講演会)

  • 「芹沢銈介の思い出」
  • 講師:柚木沙弥郎(染色家、元・女子美術大学学長)
  • 日時:2009/07/04
    13:30-15:00
  • 応募方法:往復はがきに返信宛名、住所、氏名、電話番号を
    ご記入の上、美術館まで郵送。
    6月20日必着。多数抽選。

・問い合わせ
 〒422-8033 静岡市駿河区登呂5-10-5
 Phone 054-282-5522
* 画像(A4チラシ・表裏)クリック拡大

梅雨入りに桟積み

梅雨入りですね。長い長いうっとうしい季節の到来。
モンスーンの影響下にある日本列島の住人としては、避けがたい固有の気象であるので仕方がないか。
日本の四季の美しさは広く語られているところだが、それもこの時季があってのことであろうから、甘受するしかない。
あるいはまた、木を素材としての生業ともなれば、日本の樹種の多様さ、その木目の美しさ、その多くの樹種が世界的にも最も高品質であること、そしてこうした気候に育まれた木の文化の恩恵を被りながら仕事をさせてもらっている、と言ったことなどをあらためて考えれば、
この梅雨の時季なくしては、そうした恩恵に与れないのであり、ありがたく受け止めるべきだろうって?
反論の余地はないようだね。
しかし一方では言うじゃない「木工屋殺すには刃物は入らぬ、雨の3日も降ればよい」って。
もう、殺してくれ〜、ってなもんだね。
梅雨入り宣言がされる前日、何と間合いが悪いというか、先月製材したブラックウォールナットの丸太が運ばれてきた。
先月初旬に製材を済ませた丸太だったが、運送屋の手配が延びてこの時季になってしまった。
わずかに丸太3本、3.5立法ほどの材積だったが12tのトレーラーでやってくるというので少し慌てた。

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TEDから見えるもの

先月知ったばかりだが、最近TEDというサイトによくいく。
TED(Technology Entertainment Design)とは、学術・エンターテイメント・デザインなど様々な分野の人物の講演を主催しているグループだ(wikiより)。
ネットにディープにアクセスしている人には知られたサイトかもしれいが、なかなか興味深いスピーカー、テーマが並んでいて飽きさせない。
どちらかと言えばリベラルな思考の方々の活動を対象としているといってもあながち間違いではないのかもしれない。
ボノ(U2)、アル・ゴア、ビル・クリントン、ラリー・ブリリアント(医療活動家)などの名前を見れば分かる。
特徴的なところは講演会の内容を無料で動画配信しているところだが、このところ数回にわたって取り上げた「HOME」の監督、ヤン・アルテュス=ベルトランも最近登壇している。
そのURL
現在、ボクたちの現代世界はグローバル化の進展と共に、9/11以降の混沌とした状況の中で、寄る辺のないところにおかれている。
かつてのように一定の社会科学的な指針に希望を抱き、理想というものを追い求めることができた時代はもはや過去のもの。
今やそれまでの基調であった近代主義の行き着く先にもやが掛かり、はなはだ見通しが悪い。
こうした混沌とした時代にパースペククティヴ、ビジョンというものをどこに求めたらよいのか、言説世界をさまよいながら探していくのも、Webアクセスの目的の1つだ。
このTEDも小さなものかもしれないが、先進的なテクノロジーから、グローバル問題、あるいはエンターティメントなど、知性と有能なパフォーマンスから、何らかの示唆を受けることもあるだろう。
まさにWebならではのアクセシビリティーであり、ここを入り口として、それぞれ興味を持った問題へと深く入っていくのが良いだろう。
なお、動画提供では字幕付きのものも少なくない。
それぞれの動画で言語を選択すれば良いが、「Translations Talks in 日本語」というサイトもあるので、ここでチェックして入ることもできる。
現在16テーマが邦訳。

YouTubeから「HOME」

ヤン・アルテュス=ベルトラン既にお気づきかも知れないが金曜日にupした映画「HOME」だが、YouTubeにも公開期限限定で、全編ノーカット版が、高画質なビットレートで公開されている。
ヤン・アルテュス=ベルトラン、リュック・ベッソンら主要スタッフのほぼ無償の行為ならではの無謀さである。見逃した人はぜひに(ただWOWOW版とは異なり、制作国フランス版なので邦訳字幕、道端ジェシカさんのナレーションは無い)。
こちらから、どうぞ
フルスクリーンでも遜色ない画質だ。
当方、ADSL、わずかに下り3Mbpsだが、途切れるようなこともなく、比較的スムースな再生。

【HOME 空から見た地球】

  • 原題:Home
    ドキュメンタリー
  • 制作年:2009年
  • 制作国:フランス
  • 上映時間:94分
  • 監督:ヤン・アルテュス=ベルトラン
  • 製作:リュック・ベッソン

画像は監督・ヤン・アルテュス=ベルトラン氏
*追記(09/06/08)
現在ノーカット版、数カ国語で提供中。
■ FR:フランス語
■ ES:スペイン語
■ DE:ドイツ語
■ English with subtitles:英語

クレーの食卓

クレーの食卓木工職人の読者は多いと思うけれど、皆さんは調理場に立ったりしますか?
優れた木工職人を自負するあなたは、もしかして木工よりも料理人になった方が成功していたかもしれませんよ。
アホなことを、などと仰いますな。
料理はすばらしい芸術的営為でっせ。
(美味い料理が仕上がった時、いつも家人に自慢げに話す。「人生が2度あれば、木工ではなく○▽屋さんになったほうが皆を喜ばすことができるね‥‥絶対 ! 」と。・・○▽はその時の料理のジャンル)
そんな内輪でしか通用しない話しはここまでとして‥‥、
「ピカソとクレーの生きた時代展」の記事を上げたのは昨年の11月だった。
ボクはこれを名古屋市美術館で鑑賞したのだが、この展覧会はその後東京と神戸に巡回している。
その東京展会場は渋谷Bunkamuraの「ザ・ミュージアム」。
ここも過去10回ほど入館したお気に入りの場所だが、その入館時刻によっては同敷地内にある「ドゥ マゴ パリ」というレストランで食事をすることも多かった。
ランチでもいわゆる軽いフレンチでメニューが構成され、味も逸品だしお財布にも“やさしい”お気に入りの場所。
この「ドゥ マゴ パリ」ではこの東京展の期間は『クレーの食卓』メニューというのがあったようだ。
知っていればあわてて名古屋で観覧するのではなく、このドゥ マゴ パリの食事と共に東京展を楽しめば良かったかなと痛く反省した。
それはこの「クレーの食卓」という本との出会いがあったためだ。

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