工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ウォールナット 筺

筺a
しっとりとして、肌理細やかで、粘りがあって、均質。
昨日に続いて和菓子の話題ではない。ブラックウォールナットの仕事をしてきて味わうことが出来た材質への職人ならではの体感のことだ。
今回用いたブラックウォールナットはなかなかの良材。
ご覧のように色調が豊か。ダークブラウンに赤紫がかった微妙な色調だ。
質感もとてもしっとりとした均質でねばりがある。
とても堅く重く緻密で、鉋掛けを楽しむことができた。
日本のくるみのような柔らかさとは対極の重厚なものだが、決して堅いだけではなく緻密で粘りがあるので、加工にも仕上げにも破綻することはなく作業者の意図を汲んでくれ、しっかりと付いてきてくれる。
質感としてはCLAROウォールナットに近いものを持っていた。
良く材種の評価として「日本の木はすばらしく、対し外材は脆く、大味だ…」といった根拠のない蔑みも散見される。確かに日本の木のすばらしさは世界に誇るべきものがあるし、また日本人のDNAの中にもこれらの木を尊ぶものを持っていることは誇りとしたい。
また概して南洋材には低品質なものもあることも確かだ。
しかしだからといって外材全てを低品質であると言い切ることは誤りであろう。
ある程度の木工経験のある職人が自身で使ってみればたちどころにその質感に惚れ込んでしまうだろう。


外材のなかにはウォールナットに限らず他にもいくらでも良質な材種があるだろう。ボクが使ったことのあるものだけでも黒檀、ローズウッド、マホガニーなどは他の材には代え難い特質を有している。
歴史的に世界の木工家具にはこうした材種のものが多く用いられ、今もなおそうした材種の家具が美術館などで保存管理されているのには相応の理由があるというものだ。
筺b
ただ気を付けねばならないことは同じ名称を持つ樹種でも実は偽物を掴まされることもあるので、注意したい。
どういう事かと言えば、マホガニーで言えば、ホンジョラス、グァテマラ以外の産地(その多くはアフリカ産)のものは概して低品質。外観は似ているものの、全くといって異なる材種だ。
ブラックウォールナットにもいろいろあるが、まず避けたいのは米国本国からのものでも現地製材、現地乾燥のもの。これは質が劣る。
ある程度の樹齢で、無理なく天然乾燥されたものでなければ本来のブラックウォールナットの良質な色調と質感を求めることは困難だ。
このような良質な材種であったればこそ今回のような天秤差しという細かな細工にも問題なく付いてきてくれたということができる。
大昔、訓練校にいた頃、初めてこの天秤差しにチャレンジしたことがあった。
比較的大きなサイズの北欧調の机を課題として与えられたのだが、この板差しの接合を天秤差しにしたのだった。しかし材種は栗。教官に怒られた。そんな木でそんな細工できるのか?、と。
栗はどちらかといえば柔らかく、導管も大きい。こうしたものは細かな天秤差しは訓練校受講生では手に余るということだ。
(でもこの机、訓練終了前の展示会で優秀賞を受賞し、妻が落札入手してくれ今も書斎に鎮座している)
さて、現在まだ塗装の途中だが、この筺の用途を書類手箱、およびジュエリーボックスにしようかと考えているので、内部の細工が必要になってくる。
そちらが完成したらまたupさせていただこう。
筺c
木工家志願の若者も読者にいるかもしれないが、良い仕事をするためには材料はケチることなくぜひ良いものを求めるべきだろう。年々良材は少なくなってきているようなので、ゆっくりと構えていては後悔することにもなりかねない。
快楽を感じられないような仕事は身体に毒。良材で練度の高い技能でセンシティブなデザインで制作できれば、木埃にまみれた木工という仕事も実は本人に取っては快楽であろう。

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