工房通信 悠悠: 木工家具職人の現場から

ウォールナットの小卓

bw小卓1
松坂屋個展出展家具の解説第三弾、「ウォールナットの小卓」
名称の通り小さな卓。
D:560、W:1,000
甲板をウォールナットの一枚板としたことで、そのサイズも制約された。
既に「楢 拭漆 小卓」として紹介させていただいているものとその用途などは共通するので詳述は割愛させていただくが、日本の住環境にはこうしたものの需要は少なくないと思われる。
うちの家具はいずれも奇をてらったり、外連をねらうということは無いのだが、シンプルで端正なフォルムの中にも、しかし考えつくし丁寧で精緻な作りをしてきた積もり。
この小卓はご覧のように甲板の納まり、脚部のデザインなどに独自性があると自負している。
そうしたこともあってか、個展会場に来られた同業者と思しき人たちの中には、この家具の脚部をためつすがめつ凝視する人が少なくなかった。
以下、簡単に解説を試みたい。

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ある木工家とお話しさせていただいた中で、「テーブルなんてのは、脚なんてなくたって良い。安定的に固定された天板があれば十分‥‥」との言辞があり、はっとさせられたことがあった。
けだし名言、というところだが、脚はしかし「テーブル」という固有の用途と機能を持った家具としては欠かすことが赦されぬ必須の構造部位ではある。
デザイン的には無論ミニマルな処理で、ボンボンボンボン、と四角い脚を付けるだけで十分であるわけで、事実、そうしたものは市場にあふれかえっている。
だからというわけでもないのだが、ボクはそうしたデザインのものは作り手として楽しめない。
必要にして十分なデザインを施し、そのための仕口を考察し、研究し、そうしてはじめて木に向かい、刃物をあてていく。
そこに例え困難な工程が要求されるようになるとしても、魅力的なフォルムを生み出せるとすれば、思いの命ずるままに立ち向かっていくことの方が、より健康的で楽しい作業になるはずだから‥‥。
これは時間あたりのコスト計算はどうなる?というような浮き世の話しからは遠ざかっていくものかもしれないが、それもまたモノ作りの陰の部分として受け入れるだけだ。


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脚部さて、以前も似たような脚部の解説の際に記述してきたと思うので繰り返しになるかもしれないが、この仕口は互平に対して45度に切削した面に幕板が直交する関係にあることを特徴とする。
ただ直交とは言っても、脚部全体のテリムクリとそれに呼応する面形状の一部を45度の関係にするというところがキモ。
ご覧のように脚部の見付けは蛙股としているが、その断面は7角形になっている。
これは面そのものが大きく取られていることによるもので、一般に言われる面の方はここでは全ての箇所に取られている小さな坊主面ということになる。
小さくしたのはエッジを効かすことでメリハリの利いた形状をねらったからであることは言うまでもない。
こうしたデザインの場合、視角によって見え方が違ってくるのだが、いずれの視角からも美しく見えるためのライン、ディテールを徹底的に突き詰め、デッサンし、実物大で試作し、洗練させていかねばならない。
加飾に走らず、やぼったくなく、洗練された美しさを醸すためのフォルムと、ディテールを考え抜いていく。
こうしたプロセスはCAD、ドラフターに向かって思考するデザイナーとは少し異なり、実際に木を削り、その質感、量感を検証しながら突き詰めていく我々木工職人の思考様式の方に、幾分の優位性がみとめられる。
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貫も、この脚部のデザインに合わせ、円弧状に削りだし、これをクロスさせ、対角線上に納める。ただ、長方形であるために、交差も端末のホゾの作りもそれなりの難易度がある。
            ┌ 交差部分の相欠き(角度を持たせ、かつ懐を深く)
長方形の対角線+円弧状 ┤
            └ 脚部の納まり、ホゾは角度を持たせつつ
なお幕板は、脚部形状との相関性もあり、その断面は内側に向け緩やかなカーブでRを取っている。
下の画像は制作の際のスナップだが、幕板の接合は脚部断面形状に合わせた当て木を使ってのものとなるのは言うまでもない。
ただこれは経験しなければ理解されないかも知れないことだが、この貫の構成で全体を組み上げるというのは実はとても難しいものとなる。
いわば騙しだましでのクランピングだ。
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  • シンプルな形ですが、丁寧な仕事がされていて杉山さんの家具に対する気持ちが伝わってくるようです。
    全体の組上げは、クロスでアーチで7角形でetc.すっきりとした仕上がりであるからこそかもしれませんが難しそうです!
    学校では穴ほぞの練習、枡による組み手の練習がほぼ終わり、家具の2級の技能検定の練習に移ります。その後整理箱を作成し、夏休み明けから自由課題となります。
    基本を押えられるようなものを数多く作りたいなと思い課題を検討中です♪

  • ぽーるさん、順調に課題を履修しつつあるようですね。
    ボクらの時代とは異なり、授業時間の制約もあるとのことで、カリキュラム構成には指導教員もご苦労なさっているとのことです。
    決して長い期間ではありませんので、木工漬けの日々を楽しんでください。
    >基本を押えられるようなものを数多く
    その通りでしょうね。がんばってください。

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